僕のヒーローアカゴケミドロ 7
「然るべき者に話す?」
「おそらくはソイツらは面白い半分にウサギを殺している連中だ。
お前さんは見たことを学校の先生か両親に伝えるのが正論だな」
「でもそんなことしたらアイツら怒るよね」
「怒るだろうな」
「また僕を追いかけてきて、殴ったりするよね」
「かもしれないな」
「そうなったらアカゴケミドロさんは僕を守ってくれる?」
唯の問いにアカゴケミドロは体全体を揺らして否定する。
「それは約束できん」
アカゴケミドの声は相変わらずくぐもっていたがはっきりとそう聞こえた。予想外の言葉に唯は耳を疑った。
「なんで?さっきみたいに助けてくれないの?」
「俺はお前さんに四六時中ついている訳にはいかない。
今回はたまたま見かけて、気が向いたから助けただけだ。
次があると思うな。自分のことは自分で面倒を見るしかない。それが人生だ」
「僕、小学生だよ。
小学生に人生語るのっておかしくない?」
「なら、親を頼れ」
アカゴケミドロに言われて唯は自分の両親の顔を思い浮かべた。
まんまるい母親の顔とメガネをかけた、いつも母親に言い負かされて目を白黒させている父親の顔だ。
「ダメだよ。全然頼りにならない」
「大人を侮るな。大人は子供相手に容易に本性をさらけ出したりはしない」
すかさずアカゴケミドロが言ったが、唯は疑り深そうな目でアカゴケミドロを見た。
「そうかなぁ。とても、そうとは思えないけどなぁ」
「子供には大人の狡猾さが分からないのだ。そう言うのが分からないから子供だと言えるな」
「なに言ってるのかよく分かんないよ。
ね、ならさ。仮に僕が正直に言ったとしたらどんな得があるのさ?
アイツらのやったことを話したとしてもアイツらが刑務所に入るなんてことはないよね。
せいぜい先生たちに怒られるぐらいでしょ。
アイツらがそんなことで反省するとは思えないから、きっと仕返しにくると思う。
そしたら僕は苛められ損じゃない」
「苛められ損?」
「だってそうでしょ。僕がそんなことしたって誰も感謝してくれないじゃないか」
「ああいうことをする連中は同じことを何度でも繰り返す。お前さんが正直に話せば他の学校でウサギが殺されるのを防ぐことができるかもしれない」
「ウサギに感謝されてもなぁ」
「不満か?」
「だってウサギに感謝されてもしょうがないじゃない。僕がピンチの時に助けてくれないでしょ」
「損得だけを考えるなら何も喋らないとアイツらと約束する方法もある」
「そしたらアイツらもう僕を追いかけ回したりしない?」
唯は期待を込めた目でアカゴケミドロを見た。
「多分な」
「じゃあ、僕、そうするよ!」
唯の声がぱっと明るくなった。
「アイツらに喋らない、何も見なかったって言ってやるよ。それが一番だよね」
唯の言葉を聞いて、アカゴケミドロはベンチから立ち上がる。
「お前さんがそれが一番正しいと思うなら、そうすれば良い」
低く籠った声でアカゴケミドロは言った。唯に背中を見せているので、一層低く聞こえた。
「なに?何か悪いの?」
アカゴケミドロの声にはなにか非難めいた響きが感じられた。それを敏感に感じ取った唯は口を尖らせる。
「悪くはない。普通だ。至って普通。
誰だってそう考える」
アカゴケミドロはそれだけ言うと歩き始める。
それだけなのか?と唯は大いに不満に思いながら去り行くアカゴケミドロの背中を睨み付けた。
「チェッ、チェッ。
悪い人なのになんか感じ悪いや!」
唯はモヤモヤした気持ちで小さくアカゴケミドロの背中に文句を言った。
2018/11/03 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正




