僕のヒーローアカゴケミドロ 6
「ありがとうございます」
アカゴケミドロが差し出す缶ジュースを受け取りながら少年は礼を言った。
病院の駐車場の近くに公園があり、少年と謎の怪人こと、アカゴケミドロの二人(?)はそこのベンチに並んで座っていた。
二人の目の前では青いスーツを着た人々がキックやパンチを繰り出しアクションシーンの練習をしている。
「あれは今度やるアオインジャーのショーの練習ですか?」
少年はポツリと質問した。
「そうだ。
アオインジャーを知っているのか?」
くぐもっていたが意外そうな響きがアカゴケミドロの声から感じ取れた。
「子供の頃、見てましたから。
今も子供ですけど……
あの、お名前なんて言うんですか?」
「アカゴケミドロだ」
着ぐるみを脱ごうともしない隣人に少年は苦笑する。
「いや、そうじゃなくて。
アカゴケミドロなのは知ってます。
そうじゃなくて僕が聞いてるのは……まあ、いいか。
僕の名前は猿渡唯と言います。女みたいな名前だけど男です」
「あの連中は何者なんだ?」
ぶっきらぼうなアカゴケミドロの質問に唯は先ほどのことを思いだし、少し顔を歪めた。
「名前は知りません。ただ最近僕を追いかけ回しているんです」
「なんで追いかけ回されているんだ」
「……
知りません」
唯の返答にアカゴケミドロは黙りこんだ。唯も口をつぐむ。
公園のベンチに妙な怪人と足を石膏で固めた少年が無言で並んで座っているシュールな光景がしばらく続いた。
「妙な話だ」
罰ゲームのような長い沈黙の後、ようやくアカゴケミドロが呟いた。
「心当たりがないのになんでお前は逃げたんだ」
「そ、それは、あいつらが怖かったから。
だって見るからに不良ぽかったから。あんな連中に追いかけられたら誰だって逃げます」
「本当にそれだけか。
何か心当たりがあったから逃げたんじやないのか?
自由に動けるのならまだしも、足を折った人間があんなに必死に逃げるには追いかけられる理由がある程度想像がついたからだと思うのだかな」
唯は前を向いたまま黙りこんだ。目の前ではプルシアンブルーがジャンピング回し蹴りを失敗して盛大にこけていた。
二人の目前では、のどかで静かな景色が続いていた。二人は黙ったままそれを見ていた。
「実は!」
と突然、唯が大きな声をあげた。アカゴケミドロはゆっくりと顔を唯に向ける。頭から伸びた触角がブランブランと揺れた。
「僕の家、小学校の裏にあるんです。
それで僕の部屋は二階で、自分の部屋の窓から学校の裏手が見えるんです。
ある日、夜中に物音で目が覚めて窓の外をみたら学校の裏手に人影があって、なんだろうと見ていたら、あのトキントキンの頭の奴がいたんです」
「確かなのか?」
「確かです。丁度雲に隠れていた月が出てきて、その月に照らされてはっきり見たんです。
だけどその時、アイツと目があって……」
「見ているのに気づかれたわけか。
それで、アイツらは夜の学校で何をしていたんだ?」
「分からないです。
でも、次の日、学校に行ったら飼っていたウサギが殺されてるって騒ぎになってました。
ウサギ小屋は学校の裏にあるんです。
だから、多分アイツらがウサギを殺したんじゃないかと思うんです」
「その事は大人に話したか?」
「いいえ。誰にも話してません。なんか怖くて」
唯は消え入るような声で答えた。
「で、下校の時に、正門にアイツらがいたんです。僕の顔をみたらスゴい勢いで、怒鳴りながら追いかけてきたから、もう夢中で逃げたんです。
逃げたけど歩道橋に追い詰められて。
僕、無我夢中で歩道橋から飛び降りたんです。
それで足折って、入院しました」
「入院してからもその話は誰にもしていないのか?」
「していません。悩んでいたら、なんかアイツら病院まで押し掛けてきて。
しきりに話がしたいっていってるんですけど。
何がなんだか分からなくて逃げて、さっきの状況になって、そこをアカゴケミドロさんに助けてもらいました」
「なるほど。大体分かった」
アカゴケミドロは淡々した調子で言った。唯は少し驚いたような表情でアカゴケミドロに顔を向ける。
「分かったんですか?」
「ソイツらの目的は口封じだ。
お前さんが見たものを誰にも言わないように釘を差すつもりなのだろう。
となると取るべき選択肢は二つだ。
言われた通りに誰にも喋らないか、それとも見たことを然るべき者に話すか、だ」
2018/10/27 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正




