僕のヒーローアカゴケミドロ 8
「健さん、調べてきましたよ」
平田源太郎は裏校舎で待っていた健に向かって言った。
「健さんの言っていたのは多分、東川中の連中ですね。
トキン頭つぅーのは栗坂大悟って名前です。不良グループのリーダーを気取ってます」
「総括なのか?」
「いやいや、小物です。4、5人のグループでお山の大将を気取ってる程度です。上を目指してるわけでもないですねぇ。
いわゆる強い奴には弱くて、弱い奴には滅法強いってタイプですね」
「他には?」
「健さんが言っていたように奴ら、夜中に小学校に忍び込んで飼育してるウサギとか近所の猫を面白半分に殺してる見たいですね。それも一度や二度では無いですね。
正直、胸糞悪くなる連中ですわ」
源太郎の報告を健は無表情で聞いていた。源太郎としては健の次の言葉を期待していたのだが健からは一向に次の言葉が発せられる様子はなかった。
結局、しびれを切らした源太郎が先に口を開くことになる。
「でっ!
どうするんですか。やっぱ、こいつら絞めるんでしょ」
健とこの連中に何があったかは知らないが源太郎としても調べている内にどうにも腹が立って仕方なくなっていた。
健が締めに行くと言えば喜んでついていく。勿論締めるのは健だが、一回や二回ぐらい蹴りを入れる機会はあるだろう、と源太郎は心の片隅で思っていた。
「あー、締めるんなら一度、三品さんところに口を利いとかないと駄目ですねぇ。東はあの人の統括ですから」
「源太郎。
お前、ウサギとか猫のために命かけられるか?」
「へ?」
「ウサギや猫のために死ねるかって聞いているんだ」
「いや、さすがに無理っしょ。猫のために死ぬってどんだけ猫愛が深いんですか?」
「なら、警察沙汰になる覚悟はあるか?」
「無いですよ。健さん、ウサギとか猫のために死ぬとか警察沙汰とか意味分かんないですよ。そんな奴居るわけないじゃないですか」
「そうだな。普通はそうだ」
健はそう答えると手を口に持っていくと深く息を吸い込む。源太郎はその健の仕草を少し呆れ顔で見る。
「またエアタバコですか?吸いたいなら我慢せずに吸えば良いじゃないですか」
「いや、吸わん。そう約束したからな」
「亜美さんですか?
見てないなら吸えば良いじゃ……」
そこまで言いかけて源太郎は言葉を飲む。ペンギンすら凍りつきそうな冷たい目で健に睨まれたからだ。
「いやまぁ、無理にって、言ってる訳じゃないです。亜美さんは優しいから頼めば許してくれるんじゃないなかなぁと思うわけですよ」
「甘いな。アイツは強情なのところがあって、こうと決めたら絶対に譲らない」
「ノロケですか?」
にやけた顔で指摘してくる源太郎に健は少し気色ばる。
「ち、違う。事実を言っているだけだ。
昔、こんなことが……」
健は不意に言葉を切った。少し何やら考え深げ空を見上げ、(エア)タバコを一度大きく吸い込んだ(つもりになった)。
そして、感慨深げに呟く。
「とにかく、自分に関係ないことに首を突っ込むのは馬鹿のすることだ。
馬鹿の、することだ……」
□
「俺はそんなことをやってない!」
その少年は大きな声で叫び、体を捩り逃げようとしたが、腕をがっちり掴まれていて逃げることはできなかった。
もっとも、仮に腕を振りほどけたとしても両側を大柄の警察官に挟まれていたのでどうにもならなかったろう。
「良いから来なさい。話は交番で聞く」
少年の腕を掴んでいた警官の方がそう言った。
「嫌だ。なにもしてないのになんで交番に行かなきゃなんないんだよ」
小学生にしては大柄なので、その少年が腰を落として断固拒否の構えに出ると、警官と言えどももて余し気味の様子だった。自然と声も荒くなった。
「お前があの女の人の犬に酷いことをしたからだろ!」
警官がアゴをしゃくった先にはやや小太りな中年の女が少年を睨み付けていた。
その横には三人の小学生。一人は赤いワンピースを着た女の子だった。
「だから俺はやっていないって!」
少年は再び叫んだ。
「嘘つき!私たち見てたんだから」
女の子がすかさず叫び返した。
「嘘つきはお前たちだろ!」
少年は一目で射殺しそうな鋭い視線を女の子に向けると、飛びかからんともがいたが、警官たちに押さえ込まれてしまう。
女の子は少年の剣幕に気圧され一瞬身を縮ませたが、少年が動けないことが分かると勝ち誇ったように胸を張った。
「ふん、こっちには証人が三人いるんだから。私たち三人であんたがこのおばさんのところの犬になにか変な液体かけてたのちゃんと見てたんだから。
ねぇ~」
女の子に促されて脇に立つ少年たちがウンウンと頷いた。
「くそっ!お前たち、みんな嘘つきだ」
少年は地団駄を踏もうとするが警官に両肩を押さえられ、それすらできなかった。
「コラッ、暴れるな」
警官の声は既に犯罪者を扱う時の声になっていた。しかし、警官たちの強硬な態度も無理はなかった。というのも少年は近所で評判の乱暴者だったからだ。良く近所の子供たちを殴って問題になっていた。証人の三人の子供も何度か少年に殴られて泣かされていた。
その恨みがあるからだろう、警官たちに掴まれ苦し気に顔を歪める少年を見て三人は薄ら笑いを浮かべていた。
その時だ。
「その子はやってないと思います!」
不意に澄んだ声が辺りに響いた。
2018/11/10 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正




