3話 お金は勝手に使っちゃいけません!
結局、俺の話を最後まで聞かずにシルフィは大きな皮袋を受け取ってしまった。
「なんちゅう偶然じゃ!」「明日からも頑張れる!」「感謝…!」とモヒカン3人は嬉しそうに去って行った。
なんで全員、俺の話を聞かないんだ。
「とにかく、こんな金は受け取れるか。すぐに返しに行くぞ」
「どうして?向こうがくれるって言ったのよ?良いじゃない」
「バカな事を言うな。なんで受け取ったんだ、どうみても怪しい金だぞ」
「大体な・・・お前が王女ってのも嘘くさい」
「ほんとうよ!」
「正真正銘、王位継承権108位のエルフの王女よ!一番末っ子で可愛がられてたんだから!」
王女であり、ほぼ一般エルフだった。
王女なんかじゃない。コイツの言う事を信じれば王女らしいが、なんだそのふざけた継承順位は。
末尾じゃないか。
しかしエルフってのはやはり王政なんだな、それに想像以上に繁殖力が高いらしい。
すぐに3人を追いかけたが、既にその姿はどこにも無かった。
こんな所で、植林で培ったであろう足腰を活かさなくていいだろ。
何者なんだ、アイツら・・・。
「ねぇ、見てリュウジ!金色の丸いのが沢山あるよ!」
そういって、革袋を広げて見せてきた中には金貨が大量に入っていた。
俺には分かる。この世界の金貨の価値なんぞ知らんが、これは大金だ。
「エルフってのは、金に興味が無かったんじゃないのか?」
「エルフは。ね!」
「私は、リュウジの説明を聞いたら、お金に興味が沸いたのよ」
修理屋を出た後の話か・・・。
貨幣の仕組みを教える前に、最初に「人からお金を安易にもらっちゃいけません」って教えるべきだったかな。
それにしても、すごい数の金貨だ。
悪い奴らじゃなさそうだったが、本当に寄付金で集めた金なのかは怪しい。
見ず知らずのエルフに、こんな大金をぽんっと渡す奴らだ。
受け取るより、返す理由の方が多い。
それをこっちの気も知らず、金貨を物珍しそうに手に取って見つめたり、匂いを嗅いでいるこのバカは、俺の話を聞かずに、怪しさ満点の金をホイホイと受け取ってしまった。
「とにかく、警察・・・があるか分からんが、然るべき所に届け出よう。ちゃんと謝れよ、シルフィのせいだからな」
「・・・・・・ィャ」
「なんて?」
「返すのはイヤ!使ってみたい!」
「何言って―――」
―――風の精霊シルフ この者を眠りに誘え フィエール・ストフト
・・・話を聞けよ。本当に。
次に目が覚めると、さっきの路地裏のままだった。
時間はどれくらい過ぎた? 太陽の位置的にさほど経っていなさそうだが、近くにシルフィの姿が無い。嫌な予感がした、その時。
「あ、リュウジ。やっと起きたのね!」
「まず、眠らされた理由を聞きたいんだが?」
「見て、これリンゴ!」
「聞けよ」
ちょうど戻って来たシルフィは、相も変わらず話を聞いていない。手にした齧りかけのリンゴを俺に見せてきた。リンゴってエルフにしては珍しいものなのか?
――いや、待て。
「おい・・・金貨は・・・あの大きな革袋はどこにやった?」
「リンゴ!」
「まさか、あの大量の金貨でそのリンゴを買った・・・なんて言わないよな?」
「ちょっと違うけど、大体そうかも?」
卒倒した。俺に昏倒魔法が使えたとはな。
一体、どうやったらあの大量の金貨がリンゴ1個になるんだ?
錬金術でも、せめてリンゴの木になるとか他にあるだろう。よりにもよって、リンゴ1個に化けやがった。
倒れたまま俺は、シルフィに経緯を聞くしかなかった。
「シルフィ、話を。なんで大量の金貨が、リンゴになったんだ?」
コイツの話をまとめると、1.俺を眠らせた後、お金に興味を持ったシルフィはお金の使い道を探し、街をぶらついたが人間に慣れていない為、人見知りを発動。
2.どうしよっかな♪と彷徨っていた所『お金に困ったお金に困った』と嘆く女性を見つけて、全額渡したのだという。3.おわり。
「全部やったのか?」
「うん、困ってたから」
「本当か?」
「うん。今、これしかないけど。って言ってリンゴ買った」
「それは・・・貰ったんじゃないか?」
頭痛がする。
今一番問題視すべき存在は、謎の奇妙な植林団体3人組でも、出所の不明の大金でもない。
問題は明らかだった。
「取り返しに行くぞ」
「あげたのに?」
「いいか?よく聞いてくれ―――」
怒りより呆れが大きかった。シルフィに、ではなく自分自身にだ。
俺は無知すぎた。
シルフィは人間の文化を知らなさすぎる。
だが、俺の方がエルフの事・・・この異世界の事を知らなさすぎる。
文化がここまで違うとはな。
エルフには、人間の文化が浸透していないのか?お金だけじゃなく、道理や価値観がここまで違うとは。
俺は出来るだけ、人間の文化や主に金の事(正確には俺の世界の常識だが)をシルフィに丁寧に説明をした。
シルフィ曰く「また貰える」ものと思っていたらしい。
ああ、俺がちゃんと説明してればこんな面倒な事にならなかった。
状況をちゃんと理解してくれたシルフィは、生まれた小鹿よろしく全身を震わせながら、お金を渡したという場所に案内してくれる事になった。
「わ、わわわたす、返してもらいに行ってくりゅ!つ、つついてきて!」
「・・・とりあえず行くぞ」
こうして、たどり着いたのは孤児院だった。
すると、俺たちに気が付いた修道女が近づいてきた。
「本当にありがとうございました!」
何度もシルフィに向かって、深々と頭を下げて感謝を述べている。
状況がイマイチ飲み込めない俺。
「えーっと・・・?」
「こちらの方の多大なる寄付のお蔭で――子供たちは今日もあたたかい食事を取ることができました」
「さらに、当院の補修修繕費にも充てさせて頂き」
「さらさらに5年分の運転資金は確保できまして・・・えぇ」
「この多額の寄付は全国の支店に知らせ、各所に送金した所、それはもう皆、喜んでおりました!」
「感謝してもしきれません」
寄付・・・?
今日、何度目かのイヤな予感がする。
相変わらずフードを深く被っていて、シルフィの様子はこちらから伺い知れないが微動だにしていない。
「寄付・・・と言いますと、いくらほど・・・?」
「プラチナ金貨300枚ほどの寄付でございました」
「・・・」
「・・・」
「ち、ちなみに・・・その価値は・・・?」
恐るおそる尋ねる。
修道女は怪訝そうに俺の顔を見るが、答えてくれた。
「子供たちの事を考えると、それは計り知れませんね!」
「えぇっと、プラチナ金貨1枚で金貨1000枚の価値なので――」
「一般家庭の1年の生活費が金貨500枚として・・・」
「600年ほど遊んで暮らせる額ですから!」
「・・・」
「・・・」
「シルフィ・・・」
「はい」
「やってくれたな」
「はい・・・」
「あー・・・えっと、もしご事情があるなら、お返しもできますが?」
俺とシルフィは取り返しのつかない額だと認識した、と同時に返してくれと簡単に言える状況ではなかった・・・いや、恥を忍んで事情を話せば分かってくれそうだが。
そうだ。俺たちには、事情があるん―――。
すると、孤児院の中から沢山の子供たちが、元気に笑顔で駆け寄って来るのが見えた。終わった。
孤児院で保護されている子たちか・・・結構居るんだな。
「あ、フードのおねえさんだ!」
「こらこら、みんな。ちゃんとお礼を言いましょうね」
「「「せーの!おねーさん。ありがとうございます!」」」
・・・こんなのを見せられて、返してくれなんて言える訳がない。
シルフィが悪い人間に騙されていない事は確定した。良かった、うん。
(もはや返してくれ、なんて言える状況じゃないのは分かるな?)
(はい、わかります)
(・・・なぁシルフィ)
(ごめんなさい)
(お前、とんでもない事をしたな)
(ちなみに、寄付する時に名前は聞かれなかったのか?)
(分からなかってけど、たぶん聞かれた)
(何て答えたんだ?)
(シルフィ・イングリッド・エルフリーネって書いた)
(おまえ、シルフィ・イングリッド・エルフリーネって言うのか・・・い、いい名前だな)
他人から預かった超がつくほどの大金を、孤児院に寄付していたシルフィはあろうことか本名で寄付していた。
後で厄介な事にならなければいいが。
とにかく、全ての状況を鑑みて俺にはこう伝えるしか他になかった。
「えっと、確かに全額寄付した・・・します」
モヒカン達のエルフへの善意が、俺たちの手を介して、孤児院の子供たちの笑顔に昇華した。
ただ、俺たちが自由にしていい金じゃなかった。
プラチナ金貨300枚より重いものを背負ってしまった。
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