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4話 聖母になっちゃいけません!

「ごめんね、リュウジ。わだじのぜいだぁ・・・」

「俺がちゃんと説明しなかったのも悪い、すまなかった。もう泣くな」

「お金っていうのを、使ってみたくって・・・」

「ああ、分かってる」


孤児院を後にしてから、シルフィが謝りまくっているが俺にも非がある。

深く考えず、街に連れてきたのは俺だ。人間に慣れていないどころか、文化が全く違うエルフ。

常識が通じると思いこんでいた俺のミスだ。


「さっきも言ったが、人間はエルフほどモノのやり取りを簡単に考えれない」

「うん・・・言ってた」

「貰ったもの、あげたもの、預かったもの。その違いをすごく気にする」


もし今後、俺の居ない所でシルフィが人間相手にやらかしてみろ。コイツが、大変な目に合うのは分かりきってる。そうならないように、出来る限り教えてやらんといかん。

それに、俺の常識がこの異世界の常識とは限らない。

もしかしたら、この異世界はデフレのごとくお金は溢れていて大した価値がなく、配り歩くのが常識かもしれん。

修道女の話は・・・ほらあれだ。現世と長らく離れていて感覚が麻痺してる、とかそういう設定に賭けよう。



「とりあえず、あのモヒカン3人を探して事情を説明しよう、そして金は返す」

「うん・・・」

「ただ、返すにも正直、金貨の価値が分からん」

「そこからだ」



身近な物なら大体の価値は分かるだろう。なんせリンゴがあるんだ、他にもよく知っている野菜があれば大体分かるさ。

市場調査の為に、すぐそこにあった八百屋に来たが・・・。


「銀貨1枚ならここのリンゴ4~5つだが・・・コレにするか?」

「あ、いや・・・」

 (――取っちゃダメ、お金いる取っちゃダメ、お金いる窃盗罪)

「えっと――質問なんですが、お金って大事・・・ですよね?」

「あたりまえだろうが・・・あいよ、トウモロコシ1本で銅貨10枚ね!毎度アリ」

「もし、お金を貸した人が逃げたりしたら・・・」

 (――支払い義務法的措置)

「ぶっ飛ばしてやるかもな!場合によっちゃ―――キャベツ1玉で銅貨20枚、いつもありがとさん!」

 (――犯罪者になっちゃう!犯罪者だめ!)

「こっちは忙しいんだ。まさか・・・冷やかしじゃ――ばあさんん金貨は困るっていつも言ってるだろ、あいよリンゴ5個と銀貨9枚のお返しね!」

 (――牢屋ヤダ牢屋ヤダ絶対ヤダ!!!)

「あ、ありがとうございました・・・っ!」

「なんだ、買わねぇのか・・・ったく、また来な!」



逃げるようにその場を離れた俺たちはいつもの路地裏に戻り、俺はさっそく計算を始める。

野菜の店主とは思えないほどの迫力はあったが、ちゃんと質問には答えてくれたし優しかったな。

調査をしてお金の価値が大体分かって来た。

そしてあり得ない数字が導き出されている―――計算違いだろう。


「りゅ、リュウジ?何か分かった?」

「あぁ、少し待ってくれ・・・えっと―――プラチナ金貨1枚で金貨1000枚だから――」


金貨1枚1万相当で30万枚―――。

いやいや、待て待て。そんな筈はない、計算が間違ってるだけだ。

銀貨10枚で金貨1枚の―――30万枚、合ってる。

計算を4回以上は繰り返したが、答えが変わることはなかった。

プラチナ金貨300枚―――で30億円相当になるから・・・えーっと?


さ、30億・・・。


信じられない事だが、俺たちは30億円を寄付した事になるのか?

そりゃ、感謝されるわけだ。

シルフィに教えたら絶対パニックになる。いずれ知られるだろうが、今は黙っておいた方がよさそうだ・・・。

人間社会について学びだしたシルフィにとって、この30億という額は衝撃が大きいだろうからな。

実際、現実味がなさすぎて俺も受け止め切れていない。


「なぁ、シルフィ『土下座』って知っているか?」

「なにそれ、また新しい言葉?」

「ああ、実は土の精霊魔法でな・・・呪文もあるんだ」

「リュウジも精霊魔法を使えたの!?」


そう、俺が居た世界には土下座という究極奥義が存在する。

自らの尊厳を大量に消費して、溜飲を下げてもらう為の一時的な魔法だ。


「呪文は「モウシワケ・ゴザイマセン」だ。跪いて頭を地面にこすりつけるんだ」

「おぉ~。なんか謝ってるみたいだけど、それはどんな時に使うの?」

「あのモヒカン3人組を見つけた時だ」



それから俺はシルフィに土下座の作法を教え、モヒカン達の行方を捜した。

たしか、森林保護団体とか言っていたから、何かしらの情報は得られると思っていたが・・・。

結果だけを言うと、街で聞き込みをしても何一つ分からなかった。


「参ったな・・・手がかりどころか情報が一つもない」

「肩パッドどこ行ったんだろう?」

「そういえばシルフィ。確か、お前のパパ・・・お父さんは肩パッドを知っていたな?」

「うん、エルフ達はみんな知ってるよ?怖い話で有名だよ」

「・・・そもそも何がそんなに怖いんだ?肩パッドの」

「えっとね―――」


シルフィ達エルフ族の間では、よく知られているらしいモヒカン達。どういう訳か、怖い話として知られているようだ。

俺も怖くなってきてる。30億円もぽんっと人に託すあたりとかな。


「私も見たのは今日が初めてなんだけど、肩パッド族は木を植えるんだって」

「確かにあの緑モヒカン達も、そういう活動をしてるって言ってたな」

「ほら、エルフは自然に生えた木と、無理やり植えられた木を見分けることが出来でしょ?」

「いや知らんが・・・そうなのか?」

「そう、無理やり植えられた木を私たちは『死に木』って呼ぶんだけど」

「しにぎ?」

「そういう木には精霊が宿らない、精霊のいない木は私たちにとっては不気味に見えるの」

「自然に生えたりした木には、精霊が宿るんだけどね・・・」


初めて聞く言葉だったが、エルフ達にとってあまり良い木じゃない事はなんとなく分かった。

人間の形をした何かがじっと見つめてくる、とかそんな感じの不気味さがあるのだろうか。


「なるほど・・・だから死に木って奴を植えまくる肩パッドが怖いのか?」

「うん・・・肩パッド怖い・・・死に木も怖い・・・」


人間からしたら、植林は伐採した分を補ったり環境に配慮した活動だと思うが、エルフ達にとっては精霊の宿らない木がどんどん増える恐怖現象って感じなんだな。

エルフの事が好きなモヒカン達の行為は、エルフ達を怖がらせていた行為になってた訳か。

これも文化の差・・・ってやつなのかもしれん。


「それに・・・」

「それに?」

「あの人達が悪い人間じゃないと分かった。だけど、私を見る目が怖かった」

「どういう事―――ってもしかして・・・」

「リュウジがいやらしい目で見てきた、あの目」

「・・・」

「アホか。あれは初日だけだ、一緒にするな」

「やっぱり!初日は見てたんだ、サイッテー!!」


モヒカン達はエルフオタクで植林を・・・と教えてもなぁ。オタクについてすぐに理解できるかどうかな。

とにかく、俺の知るシルフィの調子が少し戻って来たようだ。普段・・・はまだ知らんが、このまま落ち込んでいても何も始まらん。

それに、モヒカン達には悪いが情報が何も無い今、俺たちが使ってしまった金の事を伝える事が出来ない。

植林がエルフを怖がらせる行為だと伝える事もできん。

まぁ、『エルフの森には絶対に近づくな、殺されてしまうかもしれない』とは伝えてあるし、大丈夫だろう、きっと。当分は彼らを探しつつ・・・。

金だ。

使ってしまった金を・・・どうするか考えないとな。




「いたぞ!!!」


また今度はなんだ―――もう今日は疲れたんだ、放っておいてくれ。


「あのフードの女性と男だ!!」

「隊長、見つけました!報告にあった人物と酷似!」


ん?心当たりがあるな。思い当たる節しかないな。まずい気がするぞ?

まさか巨額寄付の噂が既に出回っていて、出所不明の金の在り処を不審に思われて手配されているとかか?

もしかして、あのオークは天然記念物だから倒したらいけなかったとか。

実はエルフってバレてて―――いや、それにしても早すぎないか?


「おい、今回は本当にまずい状況かもしれない。悪手だが、逃げる準備を―――シルフィ?」

(違います犯人違います犯人違います犯人違います)


人間社会の恐さを知り震えて腰が抜けてる・・・余計な事を教えすぎたのかも知れない。

とりあえず、フードを引っ張りながらガタガタ震えるシルフィを隠すように立ち塞がるが、一体俺に何が出来るのか。

最悪の事態になった。

まだ人間に慣れてすらいないシルフィを連れて、さっさと街を出るべきだった。



「間違いありません!孤児院に巨額寄付をした方です!」

「慈悲深きお方・・・聖母さまです!!それと後、やはり間違いありません従者です!」


(おい?何を言ってるんだ・・・?)

(わからんが・・・言っておくが俺は、従者じゃないぞ。)


俺たちはいつの間にか、甲冑を着て武装した謎の集団に取り囲まれていた。

読んで頂きありがとうざいます

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