2話 知らない人から物をもらっちゃいけません!
『帰った帰った!金も無ぇのに、修理なんかできるかってんだ!』
追い出されるようにそそくさと店を後にして、俺たちは目立たない路地裏に入ってから揉めた。
――少し遡る。
初めてシルフィに命を助けて貰ったその日、俺は眠れない夜を送っていた。
周囲は真っ暗で焚き火もあるにはあったが、少し離れると足元が見えない。用を足そうと起き上がった時に弓を踏んずけてしまった。
命の恩人の大事な弓を壊してしまったのだ。
不幸中の幸い、近くに人間の街があるという。
ゆえに、罪滅ぼしのつもりで弓の修理の為、人間に慣れていないシルフィの代わりに人と話す案内人を申し出たのだ。
シルフィは人間と関わる事に抵抗があったみたいだが、半ば強引に押し切る形で連れ出した。
こうして、シュタルトの街に入った。
いろんな人に道を聞きながら、無事に修理屋を見つけたが、そこで冒頭の台詞。
「話が違うぞ」
「話が違うわよ!」
「なんで金を持っていないんだ」
「お金ってなんなのよ!」
目立たないよう、フードを目深に被っていたシルフィが、顔を露わにして怒る。
聞くところによると、エルフ達には金銭という概念がないという。
俺は、てっきりお金を持ってるものだと思い込んでいた。
『欲しい物や交換したい物があった時どうするのか?』と尋ねると、『エルフはそんな低レベルな次元で事を考えてない』とご高説をのたまってきた。
とにかくお金の仕組みを軽く説明して、なんとなく理解はしたシルフィだがそれで金が湧いて出てくる訳ではない。
「人間ってめんどくさいのね・・・もっと、楽に生きたらいいのに」
「それには同意するが、なんとかしないとな」
「別に、弓くらい―――」
「なんや困っとるようじゃのぉ、ケッケッケ」
突然、背後からしゃがれた声と乱暴な言葉が飛んで来た。
振り返ると見知らぬ男が三人、こちらをニヤつきながら睨んでいた。
「おい、ヤマちゃんの言う通り本物のエルフがおるわ」
「ベッピンやのぅ。ぐへへへ」
「オカっち、その笑いやめぇや。気持ちは分かるけどのぅケッケッケ」
"いかにも悪そう"な連中が出てきた。
揃いもそろって緑色のモヒカン頭に、肩パッド・・・一体どんな――って、腰にチェーンまで付いているじゃないか。変なお揃いのキーホルダーまで付けている。
見事なまでの世紀末ファッションだな。
治安は良さそうな町だったが、こういう人種もいるのか。
「リュウジ、逃げよう!」
「ちょっ・・・?」
言うと同時にシルフィが俺の首根っこを怪力で掴んで、走り出している。
トラブルを避けるエルフの本能、とでも言っておこう。さすが判断が早い。
しかしなシルフィ、人を物かなにかのようにを掴んで乱暴に振り回すのは人として、いやエルフとしていかがなものかと思うぞ。
「逃げるのはいいが、どこに逃げるつもりだ?」
「肩パッドに出会ったら、死んだふりか一目散に逃げろってパパが言ってた!」
「どんなパパだよ。どんな教育だよ」
「肩パッドは危険!肩パッドは危険!肩パッドは危険!」
「ちょ、おい!いい加減止ま―――」
振り回されひっぱられながら後ろの状況を確認できるが、緑モヒカン達は、なかなかに健脚でギリギリ追いついて来ている。
すさまじい体力と、すごい足腰だな。
やみくもに走るシルフィに掴まれ引っ張られたまま、路地という路地を縫うように逃げ続けて挙句の果て、行き止まりにぶち当たった。
その怪力があるなら、穴も掘れただろう。疲れたとか、絶対嘘言ってたなコイツ。
「しまった、行き止まりっ!」
「お、おい、シルフィ。一旦落ち着・・・」
シルフィは息を切らしながら尚も逃げようと、来た道を引き返そうとする。
その前に立ちはだかったのは、世紀末達。
「おったぞ!ここや!」
さっきの緑モヒカン3人組が、タッチの差で追い付いてきた。
「やっぱり、エルフはごっついのぉ!はぁはぁ」
「やっと追いついた・・・ハァハァ!なんで逃げるんじゃ!」
「嘘・・・私、魔法も使って逃げてたのになんで着いてこれるの?」
「どうやら、見た目以上に出来る奴ららしいが・・・」
「なんで、ぐるぐる・・・ぐるぐる逃げてるんじゃ!」
そう、このエルフ。
脱兎のごとく逃げたはいいが、右にしか曲がっていない。
しかも、外に広げて描く螺旋状のように逃げていた。一回りするごとに通った路地の更に隣の路地へ・・・。同じ通りに5回は出たぞ。
さっき追い出された修理屋がここから見えるぞ。
やっとシルフィの怪力から解放されたと思ったが、振り回されたおかげで平衡感覚は狂っいまくってる。
「説明するのもバカバカしいが、まずは落ち着け・・・ってシルフィ?」
シルフィの気配がしないと思ったら、後ろで死んだふりをしていた。
手に負えん。
「で、アンタらは何だ?盗賊やタチの悪い連中、って訳じゃなさそうだが・・・」
「逃げへんのか・・・?」
「そもそも、逃げる理由がないだろう。俺たちが困っていた時に声を掛けてくれただけ、そうだろ?」
「なんちゅう話の分かる人じゃ・・・オカっち、あれを」
そういって一人の緑モヒカンが、皮で出来た大きな袋を渡してきた。
とっさに受け取ってしまったが、なんだ、やけに重いな?
それにジャラジャラと音がするが・・・一応聞いておく。
「これは?」
「早い話、金じゃ」
「いらんし、分からん」
「きちんと説明をしてくれ、金には困っていたが受け取る理由がない」
行き止まりになった路地裏で座り込み、この緑モヒカン達の話を聞いた。
一旦、押し付けられた物は返しておいた。
「俺たち、実はこういうモンでな――」
渡されたのは、耳が長い族ファンクラブ。と書かれたキーホルダーだった。
町に入った時に分かったのだが、俺はどうやらこの世界の言語は分かるらしい。
で、このキーホルダーが何だ?
「まぁ、早い話。俺たちゃ、エルフが好きなオタクなんじゃけど」
「ほぅ・・」
「エルフ好きが講じて、植林活動をする森林保護団体を設立したんやが」
「ん・・・?」
待て、話が飛びすぎだ。
すごい体力と結構な健脚だと思ったが、そういう事で合って・・・るのか?
「最近は活動が認められて、寄付がようけ集まるようになってな」
「・・・」
「俺たちで使いきれん大金をどうするかっちゅう話になってな?」
「・・・」
「元々は、エルフ好きから始めた活動じゃ。ならエルフに還元せにゃいう話になってな」
「・・・」
「そこへ、ちょうどエルフさんが居ったけぇ声をかけたんよ」
「・・・シルフィ。いい加減起きろ」
(―――肩パッドは死んだふり肩パッドは死んだふり肩パッドは死んだふり)
突っ込みたい所しかないが、とりあえずここで死んだふりをしているシルフィを起こしてからじゃないと話が進まん。起こしたところで進むとは限らんが。
「話は聞いてただろ、この人達は悪い人じゃない」
「謎に金を渡そうとする所以外は、不審な点はない」
「? う、うん・・・」
ようやく起き上がったシルフィは、俺の後ろにすっかり隠れてしまっている。
人間に慣れていないと言っていたが、ここまでとは・・・重症だ。いや、待てよ?なら、どうして同じ人間の俺は大丈夫なんだ?
いや、そんな事よりこの3人組だ、話が飛躍しすぎていて・・・。
「綺麗じゃのぅ・・・」「ありがたや、ありがたや」「尊死」とエルフオタクの緑モヒカン3人が口々に拝んでいる・・・こいつらにとっては、推し、みたいなもんなんだろうか。
分かるぞ・・・エルフってのは、良いよな。
遠くから見る分には。
「ねぇ、リュウジはどうして、この人達が危険人物じゃないって分かったの?」
俺の後ろに隠れながら、フードを被りなおしたシルフィは不安そうに聞いてきた。
「最初はアブナイ人だと俺も思ったぞ」
「だが・・・思い出してもみろ。武器すら持ってなかったぞ。この人達は、困っていた俺たちに声を掛けてくれただけだった」
「話を聞けば、お金を押し付けてくる変な聖人だ」
「でも、笑い声が悪人・・・」
『なんや困っとるようじゃのぉ、ケッケッケ』
「笑い声なんか、誰しも特徴があるだろう?」
「明らかに私を指さしてたじゃない!」
『本物のエルフがおるわ』『ベッピンやのぅ』
「容姿を褒めてくれてるだけだろう」
「でも、肩パッドだよ!?」
「ファッションだろ・・・ってなんなんだ、その肩パッド恐怖症は」
「とにかく、あの状況は"まだ"逃げる必要は無かった。逃げるのは、脅された時や武器をチラつかせてきた時でも遅くないんじゃないか?」
まぁ、シルフィの危機管理意識が本来は正しいんだろうが。
「はえ~、すごいのぅお兄さん・・・というか、ワシらが贈り物をする為にエルフの森に近づこうとすると矢が飛んでくるんってもしかして・・・肩パッドのせいかもしらんな?」
原因は分からんが、それはありそうだな。もしくは、単純に人間と関わりたくないというのもあるだろうが。このエルフみたいに。
あと、この世界ではどうか知らんが肩パッドは単純に・・・ダサい気がするな。
「肩パッド怖い・・・」
「だ、そうだ。それにな、エルフは金には興味がな―――」
とんとんと背中を叩かれ、急にシルフィが小声で話しかけて来た。一体なんだ?
(あのお金、くれるんでしょう?)
(もしそうなら、私たちが受け取って届けてあげましょう?)
(ん?)
(いい人達なのはなんとなく分かったけど、エルフの森に入ってしまったら本当に殺されてしまうかも・・・)
(私はおかねが・・・じゃない。エルフの森の王女だから、話を付けてあげれるかも)
ん、何を言いかけた?
あと、話が急展開すぎて付いていけないんだが・・・。
エルフの王女?この脳筋が・・・?
今はそれどころじゃない。
冗談はほどほどにしてくれ、な?
読んで頂きありがとうざいます




