1話 人は埋めちゃいけません!
(―――朝か、よく寝た)
(昨日の事がまるで夢のようだ・・・ってあれ、シルフィが居ない?)
辺りを見回しても誰も居ない。そこに居たはずの、エルフの寝床を見た。
そこには、数本の長い金色の髪が落ちていた。
摘まみあげて手のひらで観察。
シルフィのだろう、それは朝陽にキラキラと反射してとても綺麗だった。
そこへちょうど、水を汲みに行っていたと思われるシルフィが、桶を持って戻って来た。
――バシャッ。
あーあ。せっかく汲んだ水が勿体ない。つまづく場所なんて無かっただろう。
なぜ落とした。
「ねぇ・・・リュウジ。どうして私の髪を拾い集めてるの?」
「いや、集めてるわけじゃ・・・」
「じゃあ何よ、それ。言い訳があるなら言って。気持ち悪いわよ」
「いや、その・・・たまたま落ちてて、綺麗だなぁと思ってだな」
キモチワルっ!と言い放つと、シルフィは青い顔をしながら二の腕を両手で抱えて、寒気を抑えるようにして蔑む目で見てくる。
「ちがう。何かと思って拾ったんだ、やましい事はなにもない」
「やらしいって・・・一体ナニに使うつもりなの!」
「やらしい。じゃなくて、やましいって言・・・おいシルフィ?」
どういう聞き間違いをしたらそうなるんだ?その長い耳は、なんのために付いてるんだ。
「会った時から、なーんかおかしいと思ったの。私の目をじっと見つめてきたり、密かに匂いを嗅いできたり、ただならぬ雰囲気を感じたのよね!
そりゃまぁエルフは人間と違って肌も綺麗だし。美しい妖精族だから人間が見惚れてしまうのは仕方ない事だと割り切ってるけど、まさかここまでの変態だったとは!昨日の今日で悪いけど、実害が出る前に駆除だわ。地中深くに処理するわ。
決定!」
――土の精霊ノームよ この世ならざる者を地下に封印して ネード・グレーヴ!
怒涛の口撃を終えると共に、精霊魔法を詠唱したシルフィ。
「シルフィ。本当に・・・勘違いなんだ。埋めないでください」
「抵抗するから首だけ出ちゃったわ・・・火葬がよかった感じ?」
さっきから勘違いしているこのアホは、まごうことなき妖精族で、エルフのシルフィ。
金髪碧眼の見た目しか取り柄が無さそうに見えるが、大方その通りだ。俺にとってはな。
こいつに出会ってから、毎日がおどろきの連続だった。起こる事すべてに頭が追い付かず、脳みそがぶっ壊れそうだ。
おまけにこいつは人の話を聞かないし、今みたいに精霊魔法をぶつけてくる典型的な脳筋で、まともに付き合ってると頭より俺の体が先にがぶっ壊れそうだ。
つまり、耳が長いだけの災害生物と言える。
――で。
自生するキノコのように、首から上だけ地面から出ているのは俺、リュウジ。
正しくは、ゴリラ女に意味わからん精霊魔法で埋められた、だが。
元の世界で高校3年の18歳。気が付いたらこのファンタジーな異世界に居た。
混乱している時に、突然出てきた魔物に襲われそうになっている所を、こいつに助けてもらった。
一応、命の恩人だ。こうは言っているが、感謝はしてる。
(力を貸してくれてありがとう、ノーム)
「ちゃんと話を聞いてくれ、そして地面から出してくれ」
「いやらしい目で見ないなら、出してあげる」
出会って2日目以降、一度もそんな目で見たことが無いぞ?
1日目「は」そうだったと否定はしないでおいてやる。エルフだし、可愛かったし。恋が始まるかもって、そういう風に思った。
こんな俺にだってそう思う事はある。
だがな―――それ以降は知れば知るほど、噛めば噛むほど味が無くなるガムの様だったぞお前は。
「出してくれるなら何でも良い・・・ってシルフィ、なんでスコップを持ってる?」
「こんな事で、高尚な精霊魔法を使う訳ないじゃない」
「じゃあさっきのは、なんで使ったんだ?」
精霊魔法とは、自然界に存在する精霊に力を借りて行使する魔法だっけか?給料は払ってるんだろうな。
「いい感じに掘れたら、リュウジも自分で出てね。穴掘るの結構疲れるから」
「聞けよ」
約数時間後、やっと外に出れた。数時間も体を埋められ、我慢できた俺の根気を褒めて欲しい。
俺が埋められていた所には、少し大きめの穴がぽっかりと開いていた。
「ハァハァ・・・やっと出られた・・・」
「結構、疲れたわ・・・もう埋めないって約束する・・・はぁはぁ」
「俺の片腕が自由になってから、お前はほとんど休んでただろう」
即席の葉っぱのウチワで扇ぎながら、木陰でへたり込んでいた癖になにを言う。
魔法系の脳筋が、一番タチが悪いぞ。
「シルフィ、俺たちは出会って、もう数日だ。友達・・・とは言わないが、よく言っても顔見知りだろ?」
「顔見知りに、精霊魔法を撃つのはよせ」
「埋めちゃって、ごめんね。わたし友だ・・・じゃない、エルフだからそういうの疎くって」
「疎いとかそういう問題じゃ―――」
その時茂みがガサゴソと揺れて、見覚えのある魔物が現れた。
体長2メートルはある巨体のオークだった。どこぞの誰のドコの部分か知れない大きな骨を、こん棒よろしく握っている。
初日に俺を襲った魔物と同じタイプだった。
おいおい、さっきまでこっちは穴に埋められていてヘトヘトなんだ。後にしてくれないか?
それに嫌と言うほど、コイツの事は記憶に残っている。
なんせ、この世界に来て初めての出会った第一異世界人がコイツだったからな・・・。
刺激しないように、オークと睨みあいながらゆっくりと距離を取りつつ、オークに気が付いたシルフィも戦う態勢を整える。
シルフィには精霊魔法があり、軽やかに動ける術がある。
一方、俺はシルフィに渡された短剣だけだった。「無いよりはマシ」とは言うが、マシになった所で忍者のようにオークの背後を取って首筋に・・・なんて芸当、出来る筈がない。
「――火の精霊サラマンダーよ 燃え盛り炎となり解き放 ちっ!」
精霊魔法を詠唱するシルフィに向かって、突進したオークが襲い掛かるがこん棒で地面を激しく叩いただけだった。
さすがエルフだ、まるで羽根の様だな。軽やかさそのままで高い木の枝に逃げ込む。
だが、ちょっと待て。そうなると、地上には俺とオークしかいない状況になった訳だが。
上から、シルフィが無理難題を言ってくる。
「リュウジ!体が軽くなる魔法かけてあげたから、死なないように逃げ続けて!」
「逃げるって・・・おっと」
「リュウジならいけるでしょ!」
「ある程度動きが鈍れば、詠唱しても攻撃が当てられるから!」
「この前、あんたが弓を壊しちゃったんだから!そのまま逃げ続けて、コイツの体力を削るの!」
そういえばそうだった―――っと、にしても体が軽く魔法か、これは便利だな。
思考の余裕がさらにできた、有難い。
しかし、見るからに魔物ってヤツは恐ろしい見た目をしているな。
なるほど、右足で踏み込んで・・・攻撃。
1、2・・・3歩で振りかぶり――4歩目で攻撃。パターンは分かって来た。
このオークは突進こそ勢いはあるが、攻撃はやや単調で予測しやすくなんとか避けれる。とは言っても、あの重そうな攻撃に当たればあの世行きだろうが。
しかし、俺は避け続ける事しかできない。
体が軽くなる魔法は、疲れにくい。というのが一番利点だから俺にはぴったりなんだが。
軽くなったと言っても、跳躍力がすこし伸びた程度だ。動き的には普段となんら変わらんし、魔法を解かれるとその分の疲労が襲ってくる。
「シルフィ、このままだとキリがない。何か手は?」
「ない!」
「ないって・・・使おうとしてる魔法はどれくらいかかる、秒数は?」
「え、えっと・・・」
「たぶん9秒くらい!」
「俺に考えがある、いけるか?」
「分かった!どうする!?」
「なら、俺が合図したら、詠唱をはじめろ」
「どこに向かって撃てばいいの!?」
「さっき俺が掘った穴だ」
「私が掘った穴ね、分かった!!死なないでね!!」
そろそろ攻撃を避けるのも危うくなってきた。相手も馬鹿じゃない、攻撃を避ける俺に合わせにきてる・・・。
だが、今までのコイツの歩幅と間合いにさえ気を付けていれば問題ない。
こんな状況なのに、恐怖がないのは逆に恐ろしいな。
さっきから執拗に俺ばかりを追ってくるが、オークは疲れをしらないのか?全く、運動だけじゃなく勉学にも励むべきだと思うぞ。
よし、いい感じの位置が取れた。さっき掘った穴の深さも十分・・・。
あとは、タイミングを見計らって上手く避けられるかが勝負だ。
失敗したら、また挑戦すればいいさ。
よし、頃合いだ。いけるだろう。
「シルフィ、始めろ!」
「――火の精霊サラマンダーよ 燃え盛り炎となり解き放たん 敵を燃やし尽くせ
(このタイミング、今っ!)
エルズ・フランメ!」
横に避けた瞬間、相変わらず突進してきたオークの片足が穴にはまっていた。
すぐに抜け出そうとするが――もう遅い、既に詠唱が完了したシルフィの精霊魔法が撃ち込まれ、燃え盛る炎に包まれた巨体のオークはいつのまにか息絶え、炭化して動かなくなった。
(即席の落とし穴だ。穴は偶然の産物だったが、うまく利用出来た)
ともあれ、なんとか倒せた。まぁ倒したのはシルフィだが。
倒した本人は軽やかに木から飛び降り、笑顔で駆け寄ってくる。こうしてみると、やはりエルフっていうのはすごいな。
「ふぅ、上手くいったな・・・」
「リュウジ!怪我はない!?」
「あぁ、問題ない。シルフィの魔法のお蔭で助かった」
「まぁね!で、どんな魔法使ったの、タイミングぴったし!未来予知とか!?」
「そんな訳ないだろう」
「じゃあ、どうやってあんな芸当ができたのよ!」
「まぁ、強いて言うなら・・・冷静さだろうな」
「ふーん、なにそれ、新しい精霊?」
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