七つの普通の灯
婚礼の七つの灯は、どれも普通の油で燃えていた。
求婚から六週間後だった。
一つは南井戸の夜番から借りた鉄灯。一つはトーマの継送所で使う角灯。マーラの魚油灯は少し煙が多く、セレスティアが治癒院から運んだ青硝子の灯には、洗っても薬草の匂いが残っている。
残る三つも、穀倉、製粉所、低地の仮住居で実際に使われていた物だった。形も高さも揃っていない。
「一つくらい金色に塗りませんか」
婚礼係が最後まで諦めずに聞いた。
「油が焦げます」
リディアが答えると、係は刷毛を片づけた。
会場は北の貸家に近い、小さな組合会館だった。王宮の大広間なら千人入るが、ここは長椅子を詰めても四十人でいっぱいになる。雨なら屋根が鳴り、晴れれば西の窓から南井戸の滑車が見えた。
王都では四つの幹線だけが通常運用へ移った。暗い三幹線では今も騎馬灯番、氷箱、担架隊が働き、工事の完成日はない。
王都は、暗いまま暮らす手順を覚え始めていた。
求婚の翌朝、リディアは独立局の地方運用研修官に採用された。任期一年、王都勤務は月十二日。設備鍵も命令権もない。王都の部屋と北の貸家は、どちらも残した。
婚姻記録では、公爵夫人の無償職務欄に斜線を引き、領と独立局が重なる案件は二人とも審査から外れた。家門印も銀筆も使わず、普通筆で署名した。
「本当に、その服でよいのか」
控室でアレクシスが聞いた。
リディアの婚礼衣装は淡い灰青で、裾が短い。旅の泥がついても洗える布を選んだ。袖口には白い花が三つだけ縫われている。
「サラさんの店で作りました。代金も全額払っています」
サラは婚礼へ来なかった。納品札には袖丈と支払済みの印があり、余白に「当日は雨が降らないといいですね」と弟子の字で添えてあった。
「あなたの外套よりは、よい服です」
「あれも直した」
「裏地を付けただけです」
「十分だ」
アレクシスの礼装は新しい。けれど袖の内側に、古い外套から切った布を一片だけ入れている。捨てられないなら、せめて見えない所へ、と仕立屋に叱られたらしい。
会館へ入ると、トーマが椅子の列を直していた。右手の人差し指と中指を失っても、継送所の札を束ねる速さは誰より早い。
「公爵様、入口で迷う方へ五銀貨賭けました」




