王家の鍵を外す
二つの鍵穴の間には、ユリウスが片手を広げても届かない距離があった。夏第4月第9日、第1鐘。王宮地下の資産鍵室で、左右の保管官は鍵を自分の胸元へ下げたまま、公共設備決裁票を読んでいた。
放出上限は百六十分。中央蓄積石の最低残量と、三つの停止条件が別の札に刻まれている。東か北の戻り圧が赤線へ届く、表面温札が保守溝の二本目を越える、二つの残量計の差が全目盛の八分の一を越える。どれか一つで、保管官が独立して停止索を引ける。
地上の積出し場から在庫目録が届いた。王宮側が求めた数には赤い削除線があり、グレゴールの自筆で、遠方三治癒所の二日分が残されている。
「全部を出せば、四班へ一度に回せる」
「善意では荷車は増えません。ここを空にすれば二日後に三院が止まる」
伝令役が読んだグレゴールの返答に、ユリウスは要求数を戻さなかった。東治癒所へ四十、北へ二十。残りは保管官の最低数を割らない一部徴用となり、受領札と補償票が荷箱ごとに付いた。青瓶と偽印の事件番号は、目録のどこにもなかった。
ユリウスは地上の積出し場まで上がり、要求から外れた箱を自分の目で見た。封を切られなかった三院分には、明後日の配送札が付いている。積出し係は王太子の前でもその札を外さず、徴用分だけを別の荷台へ移した。
グレゴール本人は在庫棚の端で、割れた木箱の数量を補償票へ書いていた。
「この分は返せとは言いません。買い直す日と、失った配送枠は別に出します」
「出してください。偽印の番号へは付けない」
グレゴールは礼を言わず、受領者の名が入るまで荷車を出さなかった。ユリウスも急がせるために別件の封を持ち出さなかった。
第1鐘から四半刻後、当番法務家ゲルハルトが王家候補資格札の有効期間を確かめた。
「ユリウス殿下を候補として提示します」
半刻でコンラートが対象と時計を読んだ。前の指揮は一時間、東区は三百六十分。今回の任命は二鍵を回した時から百七十四分で、停止中も時計を伏せない。
ルドルフ・フォークの前には、四系統の選挙人札が一枚ずつあった。彼は区域異議を残す欄を開いたまま、四系統だけについて任命に同意した。待機代替のアンナ・ブレームは、自分の札を箱へ戻した。
「南配水列の最低量は、この任命に預けません」
パン焼き場の責任者でもあるアンナは、待機のまま異議を読み上げた。ルドルフは四系統の受益負担区域という範囲を越えて同意せず、南配水列の札を公共設備席へ返した。
ユリウスは最後に受任票を引いた。
「開始と停止の指示だけを受ける。決裁も、二鍵も、配分も受けない」
第2鐘が鳴ると、二人の保管官が別々の鍵を回した。ユリウスは開始把手を下ろし、外部時刻札が地上へ上がる。四本の開始鐘が返ってきたことで、四班が各現場で物理着手したと分かった。
鍵を回した二人は、開始後も持ち場を替わらなかった。左の保管官は残量計、右は戻り圧と停止索を見る。ユリウスの前にある把手は命令を伝えるだけで、閉じた弁を力ずくで開ける形にはなっていなかった。
中央石の白い目盛が一段ずつ減った。七十一分目、東の戻り圧針が赤線に触れ、右の保管官が停止索を引いた。
鋼の閉鎖音が地下室を走った。ユリウスの手は開始把手へ伸びかけ、途中で背中へ回った。
「東の弁を見ろ。再開は現物の報告を待つ」
「指揮官の再開命令を先に記しますか」
記録者の問いへ、右の保管官が停止索を握ったまま答えた。
「現物判定が先です。命令欄は空けてください」
ユリウスは言葉を挟まなかった。石の低い唸りが消えると、地下室には弁座を外す金属音が伝声管から途切れて届いた。「弁座再洗浄」の札が上がっても、右の保管官は停止索を放さなかった。
地上から届く札は短かった。東の弁座に砂。北の圧は赤線下。温札は一本目。二つの残量計の差は八分の一未満。物理担当が弁を外し、砂を洗い、据え直す間にも百七十四分の砂時計は落ち続けた。
十四分後、東と北の圧札が揃い、左右の保管官がそれぞれ再測定印を押した。ユリウスは二人の手が鍵へ戻るまで待ち、再開を告げた。
再開直後、地上の伝令が「四系統作業続行」と書かれた大札を持ち込んだ。ユリウスは成功の札へ替えさせず、第四班の遅れを下段へ追記させた。百七十四分の砂時計は止まらず、十四分の作業欄は班ごとに違っていた。
四班から届くのは開通の報告ではなかった。第一班は濡れた普通筆を替え、第二班は固定具を閉じ、第三班は弁の向きを現場で照合し直した。第四班は停止の十四分で圧を要する作業を止め、乾いた留め具だけを締めている。
放出の累積が百六十分に達した時、百七十四分の最後の砂も落ちた。二人の保管官は同時に鍵を戻し、ユリウスは終了把手を上げた。四班から返った札は、閉じた接続点が四つ、開通試験は未了とだけ告げた。
コンラートは停止十四分を放出欄へ入れず、任命実時間へ入れた。累算簿に一時間、三百六十分、百七十四分を並べ、合計五百九十四分、九時間五十四分と記す。十二時間枠の残りは百二十六分だった。
第4鐘前、設備面の王家単独選択板から六本の留め具が外された。金具の裏には、周囲より白い長方形が残っていた。
「覆い布を」
保管官が尋ねると、ユリウスは首を振った。板は王国評議会の資産保管者、コンラート、区域側のルドルフが一鍵ずつ受ける三鍵箱へ収められた。三人は受領時刻を別々の控えへ書いた。
選択板には、以前なら王家候補が単独で優先先を示せた細い溝が七本あった。板を外したあと、その溝を読む役目も三者の受領なしには設備へ戻らない。
ルドルフは区域側の鍵を受け、自分の任期が30日後の移管までであることを確認した。
「暗い三系統の代表にはなりません。この鍵も、四系統の異議だけです」
コンラートはその文を三鍵箱の受領票へ加えた。白い跡の上へ、新しい板を急いで付ける者はいなかった。
隣室で、ユリウスは別の申立書を受け取った。停止を求める欄は、単独緊急候補としての優先だけだった。
彼は優先停止の終期へ「継承審査終了まで」と書いた。王太子の敬称で呼ぶ衛兵へ申立書を渡し、自分の足で地下階段を上がった。
第4鐘、四班の開通試験は、それぞれの現場責任者の受領で始まった。
三鍵箱が先に運び出される。白い長方形を残した設備面へ、第一仮線の普通筆が水滴で滲み、現地で書き直されたという伝令札が届いた。




