ここに残る夜番
王暦二百十九年、夏第4月第3日、第1鐘。王都で第1日から危機が続いていた朝、セレスティアの勤務札には、今週二つ目の夜番を示す黒い切れ目が既に入っていた。
ヴァルハルト城下治癒所の公開人員板へ、王都事故受付から派遣照会が掛けられた。祈り手を送れるか。セレスティアは文末まで読む前に、自分の札を台から外した。
照会の端には、王都の七灯表示が不安定だとある。候補聖女だった頃なら、名前が先に書かれる大きさの危機だった。セレスティアは勤務札の黒い切れ目を親指で隠し、王都までの通常三日という行を読んだ。
「行けます」
運営担当者は受け取らず、人員板の空所を二本の指で示した。セレスティア一人を送れば、現地で祈療を始め、休ませ、止める監督者がいない。イザベルも送れば、今夜の処置室から見習いと監督の二役が消える。通常馬車は片道三日で、代替札は一枚も届いていなかった。
板の下段には、今日の処置室で温石を使う四床と、夜番後半の二床が掛かっている。運営担当者は王都派遣の札を一つ上げるたび、城下の床札を二つ外した。患者を減らす権限を、派遣照会は持っていなかった。
ミナは患者記録箱を板の下から動かさない。
「王都が欲しいのは、こちらの線の外部負荷です。症例を旅に出す話ではありません」
セレスティアの雇用札には、三か月の試用、月八銀貨、共同宿舎一床、一日二食が残っている。夜番は七日につき二回まで。王都派遣のために今夜の札を消す欄はなかった。
「私だけ残って、向こうへ重ねれば」
現地線から王都中央線へ祈りを送る案を口にした。イザベルは祈監第318号の札を人員板へ置いた。
「向こうの受ける量も、止める人も、対象の同意もここからは確かめられません」
遠隔入力の開始欄は、誰の札にもなかった。セレスティアは外した勤務札を元の切れ目へ掛け直す。
「受ける側が止めたら、こちらで分かりますか」
セレスティアが尋ねると、現地運用責任者は外部線の計測図を広げた。返答は遅れて一方向へ来るだけで、王都側の患者も容量も見えない。彼女は図の端を押さえていた指を離した。
「私は、ここで測ります。向こうへは祈りません」
第2鐘、運営会は派遣零と回答した。セレスティアの王都旅券も、派遣手当も作られず、夜番札は公開板に残った。
翌第4日、第1鐘。物理分離室で現地運用責任者が線の接続具を外し、王都側へ入力が流れない位置へ固定した。四分砂時計が三本、白布の上へ並ぶ。計画は十二分で、患者本人の既存同意には、いつでも停止できる札が添えられていた。
分離具が最後まで噛むと、責任者は自分の手で一度引き、戻らないことを確かめた。セレスティアが入力石へ触れる前に、患者は停止札を自分の右側へ置き直す。イザベルはその位置を変えず、三本の砂時計を患者から見える向きへ回した。
ミナは患者の脈と水杯を受け持ち、イザベルは停止札と外部時刻計の間に座った。セレスティアは入力石の両端へ掌を置く。一本目の砂が落ち切り、運用責任者が四分の線を引いた。
二本目の砂が細くなった。最後の一粒が下へ落ちた時、患者の指が停止札へ触れる。
「止めて。水を」
患者の声は大きくなかったが、時刻係の打棒より先に聞こえた。セレスティアの掌には石の温かさが残り、離した指だけが白くなっている。
セレスティアは同じ打音の中で掌を離した。イザベルが実終了を八分へ置き、ミナは水杯を患者の口元へ運ぶ。
三本目の砂は上に残っていた。セレスティアは完全な値を王都へ送りたくて、その硝子へ指を伸ばした。
「あと四分だけ——」
指と砂時計の間へ、イザベルの腕が入った。
「停止です。次は始めません」
セレスティアの手は空中で止まった。入力石へ戻らず、膝の上へ下ろす。
「八分です」
記録を閉じる時、セレスティアは近接事故という件名を見た。イザベルはそれを消さず、使わなかった三本目と手の距離を測った。
「超える前に止めました。私の腕が入ったことを残します」
セレスティアは署名欄から目を逸らさず、指を伸ばした時刻と停止時刻を読み、近接事故票へ自分で署名した。停止要求後の入力は零秒で、欠けた四分を同じ勤務帯でやり直す欄も閉じられた。
二十分の安全確認のあいだ、運用責任者は分離具をもう一度外し、背面に欠けや焦げがないか確かめた。セレスティアは水杯を両手で持ったが、水は一口も減らなかった。杯の縁が爪へ二度触れ、持ち直した指先がかえって水面を揺らし、膝へ落ちた一滴が衣の上で丸く残った。イザベルは腕に残った赤い石跡をミナへ見せた。ミナが冷布を巻くあいだも腕を引かず、肘を卓の端へ置いた。布の端から水が一滴、卓へ落ちた。
患者名はミナの症例箱にとどめ、外へ出す負荷外票には載せなかった。計画十二分、有効八分、安全停止による打切りだけが王都へ送られた。
第2鐘、早馬受付は三銀貨の継送費と外票一通を受け取った。宛先は王都事故計測受付のコンラート。セレスティアは封筒へ触れず、使わなかった三本目を白布に残した。
夏第4月第6日、夜第2鐘。城下の早馬台帳には、第1鐘に指定受領者へ渡ったという継送印だけが返っていた。セレスティアは第1鐘の数字を読み、台帳を閉じた。
彼女は城下治癒所で、今週二つ目の夜番札を首から下げていた。温石を外した患者が水を求め、ミナが新しい水杯を渡す。セレスティアは次の寝台へ入力を足さず、上に砂を残した三本目の砂時計を伏せた。




