九枚の割り札
共同取水口の二つの浅箱を開くと、同じ形の割り札が七枚と二枚に分かれていた。
夏第4月第7日、第2鐘。リディアはマーラの箱から七枚、ドロテアの箱から二枚を出し、二つの列の間へ掌一つぶんの隙間を残した。配布台には残る三組が、片割れを持たないまま置かれている。
浅箱を持ってきた二人は、同じ机の端に座らなかった。マーラは市場側の戸を背にし、ドロテアは救援庫へ続く路地を空ける。列へ来た者は、自分が選んだ方の受取皿にだけ片を置いた。
「十二組を配りました。十二人ではありません」
本人が持つ片と、受取人の箱へ返った片を、番号ごとに一対ずつ合わせた。角の欠け方、破棄時刻、選んだ受取人、助けに入る場所。九組目が揃った時だけ、低地第三階段裏の救援口へ九人分と記した。
三組目で、切り口は合っても破棄時刻のない片が出た。リディアは人数へ足さず、本人へ返す皿へ置く。持ってきた者は空欄を指で押さえた。
「七十二時間より前に、やめられますか」
リディアは、破棄前なら本人片を示して撤回できる箇所を読んだ。空欄には本人が第10日第2鐘の破棄時刻を書き、片を元の受取人の皿へ戻した。九人目が揃うまで、救援口の人数札は空いたままだった。
マーラは自分の七枚を引き寄せ、ドロテアは二枚を教会帳に綴じず、専用の受託皿へ伏せる。
「名を書かないなら、同じ人が二枚返しても分からないでしょう」
配水番が言うと、リディアは本人片と受託者片の切り口を合わせた。
「この一対だけを数えます。番号、受け取る人、助けに入る場所、捨てる時刻。この四つです」
未使用の三組は、コンラートの前で二枚とも角を切った。再配布できない形にして、未使用三組とだけ集計へ残す。氏名や住所へ戻せる写しは作らなかった。
一人がドロテアの皿を選びながら、教会へ泊まれば信徒と書かれるのかと尋ねた。ドロテアは教会帳を開かず、寝床番号二つを別の札へ移す。
「今夜の寝床です。七十二時間の所在確認が終わったら、この番号も返します」
その人は受取人欄を変えず、本人片を懐へ戻した。
第3鐘、救援口へ出す桶が七つ並んだ。教会側には寝床二つと交換毛布三枚が用意され、マーラの七人とドロテアの二人は別の受取列へ進むはずだった。
配水番は桶を九つ出そうとしたが、市場側が受け取れるのは七つだった。教会の二人分はドロテアが救援庫の甕から運ぶ。桶の出所を分けたまま、二つの列は第三階段の手前まで異なる路地を使った。
最後まで本人片を見せなかった者が、濡れた外套の下から小さな紙箱を出した。蓋の四隅を紐で何重にも縛っている。
「これを置くなら残る」
「水と避難の同意です。荷物は入っていません」
リディアが受託票を示しても、相手は片を握ったままだった。箱は亡父の紙だと言い、低床室の棚を指した。水はもう寝台の脚に届いている。
マーラは救援口から階段までを一度見た。
「一往復だ。寝具までは待たない。戻るのが遅けりゃ、私の七人は先に出す」
「箱を取って、戻ったら行く」
本人が条件欄へ一往復と書き足し、切り口をマーラの片へ合わせた。リディアは救援水、避難、七十二時間の所在確認に、紙箱一個の搬出を一往復だけ加えた。寝具を待てないことも同じ欄へ置き、本人が読み終えてから救援開始時刻を入れた。
七人はマーラの桶列へ、二人はドロテアの寝床列へ向かった。配水番は桶七つを出し、救援庫の者は寝床二つを第三階段の上へ運ぶ。
水は上から見れば一枚でも、階段裏では足首の高さが部屋ごとに違った。マーラは自分の七人へ短い方の板道を渡し、ドロテアは担架路を塞がない外側へ二人を導く。
紙箱の持ち主が低床室へ戻る間に、水は寝台板の下へ回った。リディアは入口の外で一往復を数え、二度目へ行かせる札を作らなかった。
第4鐘前、紙箱が抱えられて戻った。底から茶色い水が細く落ちている。本人片と受託者片が揃ったままなのを確かめ、マーラは七人目を自分の列へ入れた。
箱の紐は水を吸って指へ食い込み、持ち主は一度、階段の壁へ肩をついた。マーラが箱へ手を出すと、本人は首を振り、自分で持ち直す。代わりにマーラは濡れた板道を足で押さえ、救援口までの一往復を閉じた。
避難路の後ろで、寝台敷一枚が水を含んだ。壁の掛け釘から端が外れ、毛布三枚を巻き込む。衣類の包み二つも棚から持ち上げられず、救援人員は戻る許可を求めた。
水を吸った毛布は、二人で持ち上げても床から離れなかった。衣類包みの結び目だけが水面へ出て、戸口から来る波に揺れる。紙箱の持ち主は一度そちらを見たが、救援口と逆へ足を戻さなかった。
「戻りません」
持ち主が紙箱を胸へ寄せた。リディアはその返事を避難票へ移さず、使用不能になった物だけを損失票へ数えた。寝台敷一、毛布三、衣類二包。補償額の欄は空いたままだった。
夜第2鐘前、九人は低地第三階段裏の救援口を越えた。七人の所在札はマーラの浅箱へ、二人の札はドロテアの浅箱へ戻る。互いの札をまとめる袋は使わなかった。
照合表一枚には、九、七と二、救援口、破棄時刻だけが残った。夏第4月第10日第2鐘、七十二時間後。受付係はその時刻に合わせた砂時計札を掛け、パルプ槽の使用予約を取った。二つの受託者片は破棄時に各本人へ返し、個別写しを残さない。
マーラは七枚を自分の浅箱へ戻し、鍵を魚店の腰袋へ入れた。ドロテアは二枚の箱を救援庫の専用棚へ置き、教会帳の棚とは別の鍵を掛ける。コンラートが持ったのは破棄予約の時刻札だけだった。
救援口の水位はさらに上がり、低床室では寝台敷が壁を離れて水面へ倒れた。
夜第2鐘が鳴ると、最後の一人が紙箱を抱え直した。九人が通り終えると、リディアは救援口の扉を閉めた。




