角を切った作業札
三つの印箱は、レオンハルトの鞄から離れていた。春第3月第29日、第4鐘。第1鐘に城下を発ったリディアが白鹿境界の共同受渡し台へ着くと、ルメリアの取水席、保守席、会計席本人が、箱を一つずつ別の受領布へ載せて待っていた。
馬車で揺れた鞄の内側には、第16日に使った製本街回廊の時刻札が残っていた。その日、細い雨を避けて製本屋の庇へ入り、二人は糊の匂いが残る店先で、逆さに置かれた見本帳の金文字を別々の題名に読み違えた。庇の端から雫が台へ落ちると、店主は布で水を拭いてから黙って見本帳の上下を直し、リディアは濡れた肩を震わせて吹き出した。アレクシスも眉間の皺をほどいて遅れて笑い、雨垂れに紛れる声で言い直そうとするたび、リディアは時刻札で口元を隠して正しい題名を指で示し、庇を打つ音が弱くなっても二人とも次の店へ急がなかった。裏には次の面会日だけがあり、リディアはそれを私費の仕切りへ戻して批准台には出さなかった。
布の端には経路票L-R28が縫い留められている。前日第28日第1鐘に下沢政庁正門を発ち、南堤継所で仕分け停車せず、第4鐘に境界着。三人は顔と年次任命票と印番号を一人ずつ受理係へ見せ、代理欄には終了線を引かせた。
取水席は恒久の権利を残す文を、保守席は八人を越えない欄を、会計席は六十銀貨の上限をそれぞれ指で押さえた。隣の箱の不足を引き受ける者はいなかった。
レオンハルトの頭文字がある仮合意は、三箱より手前の推薦台に残った。彼が箱へ触れても、取水席の印は開かなかった。
ヴァルハルト側の批准席には、PA-8の本人名札がある。条文台のLA-8、六十銀貨の在高だけを照合するヘルガ、軍議庫側の保持者札とは椅子が分かれ、アレクシスの席はなかった。
二言語の正本は行番号を揃えて二通。リディアは声に出して読み上げず、両岸の受理係が同じ行を指した時だけ技術表との一致を確かめた。独立監査局へ渡る一通には写しの穴があり、第三の正本印はない。
取水席が自分の箱を開けた。金具の擦れる音がしても、残る二箱の蓋は閉じたままだった。
「共同保守時間だけ、排他的な取水を行使しない。九十日の先へは持ち越さない」
保守席は二施設と八人の欄へ印を置いた。会計席は六十銀貨の箱を開け、ヴァルハルト側の六十枚と線をまたがせずに百二十の上限へ印を押す。
三つ目が揃っても、作業開始札はまだ伏せられていた。発効は翌第30日第1鐘で、今夜のうちに対象境界を閉じなければならない。
第30日の打鐘前、両岸水番は参加札を床へ並べた。夜露を踏んだ長靴が、二列の札の外側へ泥を落とした。
白鹿峠分水門保守班四名。白鹿下沢分水標保守班四名。札は二列だけで、その間に共同測定具と部材の箱がある。
低地犠牲放流水門の札を、ヴァルハルト側の書記が三列目へ置こうとした。フリーダの種麦補償と、施設を試行へ入れる別同意がどちらも未了だと、ヘルガが札の裏を見せる。
「これは保留台へ。費用も測定簿も、四十五日目までは付けません」
「春の増水が先に来たら、低地側だけ古い手順で受けることになる」
ヨハンは札から手を離さなかった。ヘルガは参加印のない裏面を彼へ向ける。
「だから今、入った形にはしないでください。事故時の既存手順まで止める札ではありません」
ヨハンは低地札を保留台へ置いた。参加列の三列目は空いたままになった。
三染色工房の札は、最初から非参加箱にあった。工房共同代理は取水・通行の既存国内票だけを持ち、基金、派生図、優先停止、試行データの札を受け取らない。記載のない第三地域にも、負担札は配られなかった。
対岸水番が離脱欄を指で叩いた。爪の先には、自国語で「退出」と書かれた行があった。
「途中で、こちらだけ抜ける時は」
「七日前に両保管所へ知らせる。今している保守は、安全に渡してから離れる」
ヨハンが答え、相手側の同じ行を指した。そこには「離脱」とあり、受理係は狭い方の義務へ二本の指を揃えた。
「危ない時に七日待てというのか」
「作業は止める。自国班だけなら、自分の班を先に止める。事故票と使った費用まで持ち去るな」
二人はその三行だけを互いの言葉で読み直した。後加入、翻訳差、原本保管の欄は、すでに照合された封を指で確かめるだけで通した。
第1鐘が鳴ると、作業開始札が表へ返った。白鹿両岸共同保守試行協定は、その日を第1暦日として始まる。期限札には夏第6月第29日夜第2鐘、見直し札には第45暦日の夏第5月第14日とあり、更新欄は切り落とされていた。
最後に、ヨハンが八枚の作業札を床板へ置いた。切り取る角は、八枚とも右上に一つだけ残っている。
氏名、所属岸、標準実荷、使用日、入場時刻。各人は長靴を見せ、肩の荷を量り、受理係が本人の札を一枚ずつ渡す。四枚は峠分水門へ、四枚は下沢分水標へ向かった。
昼前、外部雇いの一人が、別の谷の泥を付けた靴で入口へ来た。対岸水番は札より先に靴底を見て、追補票が対岸へ届いていないことを確かめる。
「今日は通さない。紙が来ても、荷をもう一度量る」
「荷をここまで運べと雇われた。戻れば半日の銅貨が消える」
「運んだ分は雇い主へ請求しろ。門の内側の名簿へ、今ここで足すことはできない」
男は荷縄を解かず、入口の外へ腰を下ろした。対岸水番は追補票が届いた次の枠を小札へ書き、今日の八人へ名前を足さなかった。
退出する者の札は、入口と反対側で副署された。角を一つ切り、切片を返却箱へ落とす。同じ札をもう一度差し出しても、欠けた角と退出側の印が残る。
夜第2鐘までに、八枚すべての角が一度ずつ落ちた。ヨハンは最後の一枚を束へ戻さず、八人の長靴と実荷をもう一度数えた。
リディアは満了成果物を両受理係へ渡した。V-BH-219-19とL-BH-219-31から最後の六銀貨ずつが別袋で支払われ、各十八枚の報酬欄が閉じる。宿、食事、移動の未使用分も左右の箱へ別々に戻された。
最後の受領印が押される前、リディアは修正欄へ手を置いた。ヨハンと対岸水番は、二地点のどちらを先に読むかでまだ言い合っている。彼女は筆を抜かず、満了成果物の紐を結び直した。
実費箱には、夏第4月第1日第1鐘の境界発と第4鐘の城下着を記した帰路票が残された。契約満了後の新しい仕事札ではなく、六つの半日移動の最後の一枚だった。
延長欄は空白のまま終了線を引かれた。エーファは二契約の副署印を登録院の箱へ返し、R-30の当番監査官が九十日用の記録箱だけを受け取った。
「門の棒から読む」
ヨハンが上流側を顎で示した。対岸水番は下沢の用途点を指す。
「同じ鐘で別々に読め。ここへ持ち寄る」
二人は譲らず、離れた二本の測定棒へ戻った。リディアは返答を求められないまま、満了した二通の控えを鞄へ入れ、共同宿舎へ歩いた。




