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最初の夜番

「証人席第十七号」と焼き印された木札を返すと、窓口係は木札返却票を一枚切り、王都、南港、ヴァルハルトと書かれた三枚の通常路線札をその横へ置いた。


春第2月第15日、第1鐘。セレスティアの前には、昨日までに揃った六枚も開かれている。


第7日、本人名で出した見習い応募控えと、王都公的往信窓口の往路発送票。第10日、城下治癒所運営会の受領票。第11日、応募資格と提示条件だけを確かめた書面仮照合票と、その日の復路発送票。第14日、同じ往信窓口でセレスティア本人が受け取った受領票。


仮照合票の採用決定欄は空白だった。保護宿の住所も六枚にはなく、往信窓口の番号だけが往復している。応募を出したあとも、木札は今朝まで首にあった。


窓口係は別の終了票を読み上げた。王国儀礼運用局と管区法廷で求められた証言は完了。追加証言命令なし。未履行の召喚なし。保全室の再判定で危険度低下。四つを確認してから、初めて保護宿と護衛の終了印が押された。


「今後、正規の召喚が発せられた場合の応答義務は残ります」


「分かりました」


候補の俸給も、教会の庇護も戻らない。渡されたのは、本人が選ぶ通常路線一回だけの退所旅券だった。


セレスティアはヴァルハルトの札を取った。第18日第1鐘の面談枠が、そこに行く理由だった。誰かの聖女として養われず、失敗すれば止められ、働いた時間に賃金が出る訓練を選びたかった。


同日第2鐘の乗合馬車で王都を出た。通常便は三つの宿駅で客と荷を入れ替え、旅券は第18日の朝、ヴァルハルト到着印を受けて使い切られた。


城下治癒所の雇用受渡し台には、古い折り目の深い白い布が広げられていた。布の中央に、聖女セレスティア礼拝所、と青糸で縫われている。アグネスは布の端を両手で伸ばし、その隣へ十一名分の支援表を置いた。


「七名は、この名を入口へ掲げることが条件です。初年度で計八十四銀貨。旧礼拝所の家賃は月四銀貨、六か月で二十四銀貨を別に保証します」


古い礼拝所を開ける鍵と、六か月だけ使える個室の鍵が一つずつ。二食三十日分、六十枚の食券が紐で括られていた。


「冬になる前に、貧しい区へ火を入れたいのです。名のある祈り手がいれば、食事を配る日にも人は場所を見つけられる」


アグネスの指には、白布から落ちた青糸の毛羽が付いていた。残る四名の十九銀貨は称号を条件にせず、治癒所の一般寄付へ出すと表の下段にあった。


セレスティアは、布の青い名を見た。看板だけに昔の称号を置き、自分は見習いとして床を洗い、監督されれば、礼拝所も食事も失わずに済むと思った。


だが入口から来る患者が見るのは、別々の契約書ではない。青糸の名と、その下に立つ自分だった。候補資格を失った祈り手を、王国が認めた聖女だと思って寝台へ上がる。


「その名前では働きません。見習いの名なら書けます」


アグネスは白布から手を離さなかった。折り目の上で、右の親指だけが動いた。


「看板を変えれば、七人の誓約は使えません。礼拝所も、食事配布もです」


「はい」


アグネスは青い文字を内側にして白布を巻いた。七名分、計八十四銀貨の支援表を閉じ、旧礼拝所の二本の鍵と六十枚の食券を同じ鞄へ戻す。家賃六か月も、個室も、食事三十日分も台上からなくなった。


「四名分の十九銀貨は、治癒所の一般寄付へ残します。あなたの部屋にも、あなたの賃金にも充てません」


「ありがとうございます」


アグネスは巻いた布を抱え、空いた礼拝所の鍵を鞄へ戻したまま席を立った。


第2鐘前、その鞄が扉の外へ出てから、運営会の担当者が同じ台へ仮照合票を戻した。応募時の姓名と本人の顔、候補資格を失っていること、祈療補助の見習いを希望していることを順に確かめる。


「対面確認を終えました。提示条件をもう一度読みます。試用三か月、月八銀貨、共同宿舎一床、一日二食。夜番は七日につき二回まで」


セレスティアは見習いの欄へ自分の名を書き、運営会印のある本人用控えを受け取った。契約後、荷を共同宿舎へ運ぶと、一床分の寝台下には半分しか入らず、残りの箱は足元へ置いた。


夜第1鐘、処置室の受渡し台には、二枚の資格札が離して置かれた。夜番係が、それぞれを別の受領布へ載せた。


運営会の夜番係が、まずミナの札を読む。王国薬師資格院、第17日発行、条件付き薬師。一年間、全症例を監査へ出すこと。高危険薬を単独で扱わないこと。ミナは読み終わるまで薬棚の鍵へ触れず、確認印のあとで自分の首へ札を戻した。


もう一枚は、王国祈療監督登録所がイザベル・コルンへ発行した「祈監第318号」だった。有効期間は王暦219年春第1月第1日から、王暦220年春第1月第1日まで。熱均し祈療で、患者本人の開始同意、休止、停止を確認し記録する範囲だけが書かれている。


診断も投薬も、祈りの成功も保証しない。夜番係は番号、期間、範囲だけを照合し、札をイザベルへ返した。


最初の入口鈴で入ってきたトーマは、右手の包帯の端を左手で持っていた。薬指と小指のない側で、古い瘢痕の端が裂けている。外套の袖には配車札の白墨が残っていた。


「祈る前に、裂けたところを見ろ」


ミナが腫れと皮膚の色、触れた感覚、動かせる範囲を一つずつ本人へ聞く。水と洗浄布を使い、裂け目へ新しい包帯を当てた。薬札へ手を伸ばしたのは、そのあとだった。


「祈りはいらない」


「使いません」


ミナは包帯を留め、明朝の再確認時刻を書いた。トーマは端を自分の左手で押さえ、指示された動きまで終える。


仕事へ戻る前に、ミナが別の小札を出した。包帯の外側へ蓄熱済みの温石を当て、二分だけ熱を均す案だった。傷を閉じず、薬を足さず、途中でいつでも止められる。


「二分だけならやれ」


イザベルが患者とセレスティアの間へ木椅子を置いた。その脚を、床の白線へ揃えた。


「始めてよい、で合っていますか」


「二分だけだ」


開始時刻が記された。セレスティアは椅子の向こうから、温石の両端だけへ掌を置き、片側に寄った蓄熱をゆっくり均した。ミナは瘢痕の色を見ていた。


二分計の砂が半分も落ちないうちに、トーマの眉が動いた。包帯を押さえる左手の指が止まった。


「痺れる。止めろ」


セレスティアは返事より先に、温石から両手を離した。


「停止」


イザベルが停止時刻を書き、石を包帯から外した。二分の欄には未了線が引かれる。トーマの右手は二本欠けたままで、裂け目は白い布の下に残った。


次の入口鈴が、夜第2鐘の打音に重なって鳴った。セレスティアはトーマの記録を閉じて立ち上がる。


「今、行きます」


返事をして、入口の戸を開けた。


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