聖女の共犯
候補印の代わりに渡されたのは、証人席第十七号と刻まれた木札だった。
冬第12月第3日、第1鐘。北東境界の証人宿を出る馬車には、監査証人用の無地銅板が掛かっていた。御者の後ろに二つの護衛席、その後ろに、膝を突き合わせる四人掛けの客席がある。セレスティアは窓際へ座り、候補印返却受領札の写しを外套の内側へしまった。
半日かけて城下へ着いた時、候補用の継馬所には脚の速い馬が二頭残っていた。彼女の移動票はそちらへ回らず、翌朝発つ通常馬車の座席簿へ留められた。候補の仕事を断った者にも護衛は付く。優先通行札は候補継馬所の台へ戻り、彼女の馬車は通常列の三番目へ入った。
第4日第1鐘、馬車は北門を出た。最初の宿駅まで、セレスティアは証言用の紙を膝へ広げていた。大祭の前から熱を感じていた。東治癒院の枝へ停止線を引く手前で、筆を置いた。ユリウスにもう一度と言われ、自分で祈りを続けた。書くべきことは三つしかないのに、最初の行へ借りた聖句を書きかけては消した。
二つ目の宿駅で、雪解け水が車輪の下から跳ねた。紙端へ灰色の点が付き、喉の奥には大祭の日の金属味が戻った。痛みを知っていた、と書けば、なぜ止めなかったかが残る。王宮の命に従った、と書けば、主祈祷者受諾票へ自分で名を置いた手が消える。
宿駅の夜は、候補用の客室ではなく証人用の相部屋だった。護衛が扉の外へ立っても、寝台の湯差しは自分で受け取り、朝の出発鐘には濡れた裾を自分で火鉢へ向けた。候補印を返した後も身体の熱は消えず、指を組むと掌に大祭の震えが戻った。紙へ足したのは、震えを観察した時刻だった。
三つ目の宿駅を出た夜、彼女は聖句をすべて線で消した。その下へ、見たものと自分がしたことを書いた。馬車が王都の外壁へ入った第7日第1鐘、到着係は証人移動票へ三つの宿駅印を照合し、候補名簿ではなく監査証人宿の台帳へ木札番号を移した。
翌第8日、王国儀礼運用局の候補資格評議室では、祈祷台の位置を四隅に資料を置く長机が占めていた。
机の四隅に、候補印返却受領札、経路痛の観察票、公式停止票を収めた未開封の鞘、痛みを知った後の再祈願時刻が置かれていた。三人の評議席は互いの紙を重ねず、セレスティアの正面を空けている。
彼女は胸元から受領札の写しを出し、机へ下ろした。原本の候補印は監査金庫にある。返却札には、物理保管の移転と職務・俸給の拒否が別々に記されていた。法的資格の失効を示す位置には、候補章の地色がそのまま残った。
印を返せば、候補でなくなると思っていた。そう思う方が、自分には都合がよかった。境界で仕事を拒み、ガルドの同意を守って熱を均した事実を前へ出せば、大祭前に止めた筆は古い役職の中へ置いてこられる。
最初の質問札が、机の中央へ回った。経路痛を自覚した時刻。セレスティアは観察票の第26日第2鐘を読んだ。
二枚目は、公式停止票を封じた理由だった。候補でなくなれば対象表を読めなくなること、席に残る方が患者を守れると思ったことを答えた。地位を失うのが怖かった。その言葉で息が途切れ、声が二度に分かれた。
三枚目には、ユリウスの継続要求と、再び祈りへ入った本人の時刻が並んでいた。
「祈り手は、求められた光を――」
借りた聖句の音程が、喉の高いところで止まった。セレスティアは一度水を飲み、質問札へ指を置き直す。
「焼けたのに、止めませんでした。もう一度と言われて、私は応じました」
ユリウスの命令とヴァルターの管理を時刻表の横へ置き、停止線の手前で止めた手と再び組んだ両手を自分の行へ書いた。大祭後に祈り入力と等配分同期を切った時刻、その前に続けた時刻が同じ票へ並んだ。
三人の評議席は、同じ票へ一つずつ印を置いた。候補印の返却番号は引用されていたが、返却票へ追記はされない。別番号の候補資格剥奪票が細い受領溝を通り、セレスティアの前で止まった。
彼女は受領線へ自分の名を書いた。候補印を持っていた手で、候補資格を失った票を受け取る。監査証人宿と護衛の記載は、候補職の終了線に巻き込まれず残っていた。
椅子を立つ時、次の儀礼日程表が机へ戻された。彼女の席番号には終了線が引かれ、候補資格決定の受領袋へ収められた。受領官は証人席第十七号の木札を彼女へ返し、その角が外套越しに腿へ当たった。
第3鐘、セレスティアは儀礼運用局を出て、石廊下を渡った。教会管区法廷は別棟にあり、入口の鍵穴も、受理票の色も違った。
ヴァルターは匿名箱を膝の前へ置いていた。蓋の鍵は彼の職務鍵とは別で、古い革紐に結ばれている。認証抄では氏名部分が封じられ、迫害のあった年と鍵を預かった人数が表へ出ていた。
「この箱へ名を置いた者は、名が祈りより先に裁かれる土地から来ました」
彼は迫害年を古い順に読み、鍵を預かった人数を各行で確かめた。声は礼拝堂で聖句を読む時より低かった。
「国家の台帳へ名を移せば、祈りに来たこと自体が家族へ返ります。私は、そのために鍵を預かりました」
「名を開けるよう、私は求めません」
セレスティアは匿名祈願の認証抄を卓の向こうへ留め、別に置かれた過負荷事故票へ指を移した。祈願の目的と信徒名は封の内側にあり、発生時刻と身体状態を書く面は、作成時の紙肌を保っていた。
「でも、ここには私の痛みもありません。大祭の前からあった痛みも、祈った後の事故も」
「事故記録を外へ分ければ、匿名番号から人を追えます」
「氏名を渡さず、事故を別の者に預ける道はありませんでしたか」
ヴァルターは、匿名箱の鍵を握ったまま、迫害年の次の句を口にした。祈る者を隠す者は、その戸を守れ。声は続いたが、事故記録まで同じ戸の内へ入れた理由に来ると、句の終わりが落ちた。
セレスティアは公式停止票と再祈願時刻の写しへ自分の名を書いた。匿名祈願抄は封を保ち、匿名箱側の保管線へ戻された。
第4鐘前、法廷の受領溝から職務停止票が出た。午前の剥奪票とは番号も封蝋も違う。ヴァルターは票を読み、腰の鍵束から教会職務鍵を一本外した。匿名箱の鍵は革紐に留め、職務鍵を小さな別封へ置く。
法廷書記の手が、匿名箱の認証抄を非公開棚へ戻した。氏名部分は封印を保ち、迫害年の保護記録も元の棚へ収まる。一方、事故欠落部分の写しは職務停止票へ別糸で留められ、その糸が停止票の穴を通った。
法廷外の受領台も二列に分かれていた。一方には匿名信徒名の非開示継続札、もう一方には事故記録を教会外へ分ける申述札が積まれ、どちらにも同じ管区章があった。無言の書記が束を反対の階段へ運ぶ。セレスティアの証言控えは後者へ入り、候補番号の位置を避けて「祈り手」と記されていた。
金属が封箱の底へ触れた音のあと、ヴァルターは教会棟へ戻る狭い階段を下り、セレスティアは外廊下へ続く石段を選んだ。
ヴァルターの足音が下へ遠ざかる間に、セレスティアは証人席第十七号の木札を首へ掛け、登録院の門を横切った。王国評議会政策受理口では、全辺境契約の一括無効まで含む見直し案が、登録院の箱とは違う番号を打たれた。
無言の受領官が、その紙を独自の受付箱へ入れた。セレスティアは木札を外さず、閉じた蓋の前から歩き出した。




