残した警告、届かなかった警告
冬第12月第2日、第1鐘。前日の受領鐘を鳴らした王宮受付箱の前に、リディアは立っていた。
資格審査部の実地照合には、輪番審理長、事実提示官、弁護人、独立公証記録官が同行した。ローヴェンは証拠保管官として最後尾に立ち、封じた物の番号だけを携えている。
受付箱の蓋は開けられなかった。王宮の保管者が出した受付原本五枚と受領票が、箱の横に設けた照合台へ置かれる。第1月第2日、第1鐘前。頁数五。角印はある。
リディアが当時持ち出した王宮引継ぎ書の私物控えは、審理提出時からローヴェンの受取札つき封に入っていた。今日持ってきたのは、その認証写しだけだ。秋第9月第3日に銀筆とともに封じられた自作点検控えとは、保管番号も頁数も違う。
「私物控え原物、封番号四四。開封なし」
ローヴェンはそれだけ告げた。認証写しを受付原本へ重ねることはせず、机の右側へ並べる。
一頁目の赤い追記、三十七経路の名称、最終点検日、蓄積石の見込み時間。文字の並びは合っていた。最終頁へ来ると、受付角印の隣で一つの欄だけが白く残る。
弁護人が受領票を持ち上げた。角印と頁数が審理長から見える向きへ回す。
「王宮受付の正式印があります。書面は期限内に王宮へ渡されています」
事実提示官は空欄へ指を置いた。受付印の外ではなく、受領者名を書くために囲われた内側だった。
「しかし、怒りと嫉妬から担当者への説明を避けて王都を去った。離脱そのものにも過失があったのではありませんか」
審理長は、どちらの文にも回答を許さなかった。受付箱の脇に二枚の番号札を置き、一枚へ王都離脱の適法性、もう一枚へ離脱後に開始した警告の追加伝達と書く。
「婚約解除、離職、保証解除、移動の可否は前者です。受付後に何をしたかは後者です。動機の一語で二つを綴じません」
リディアは二枚の分離動議へ別々に署名した。
「最終頁を確認してください」
審理長に促され、リディアは空欄を見た。認証写しにも同じ白い枠が残っている。
「受取人は空白です」
独立公証記録官がその言葉を逐語原案へ移した。事実提示官が意図を尋ねようとしたが、次の地点で確かめられるのは紙の移動だと止められる。
一行は受付箱から当直交代卓まで歩いた。夜番と朝番が同じ机を使うため、天板の中央には交代時刻を刻む細い溝がある。王宮保管者は、当時の交代表と書面束の移動札を、溝の左右へ分けて置いた。
五枚は第1鐘の交代前に受付箱から出され、夜番の未配布束として卓へ載った。主任登庁予定は第3鐘。受領者欄が空白だったため、個人宛ての手渡し棚へは入らず、朝番の整理束へ移されている。
「第三鐘まで残る方法はありましたか」
弁護人はリディアを見た。アレクシスの限定事実書のうち、ここで照合できるのは、彼が見た控えの状態と東門を出た時刻だけだった。王宮内で誰が読んだかも、リディアの胸中も書かれていない。
リディアは交代卓の溝へ指を置かなかった。あの朝、若い書記が格子の向こうで両手を握っていた姿だけを思い出す。
「第三鐘まで待てました」
二つ目の答えが原案へ入った。審理長は待たなかった理由を離脱違法の番号へ移さず、追加伝達側の時刻欄だけを開いたままにする。
次の書庫棚までは、石廊下を二度曲がった。歩いてみれば短い。けれど名のない五枚は、交代卓で半日を過ごし、翌日の整理鐘に一般引継ぎ棚へ運ばれていた。
棚札には頁数と受付番号があり、紛失した形跡はない。主任受領印も、神官長受領印もなかった。書面は消えずにここへ届き、危険を判断する誰かの名だけを得ていない。
弁護人は最初の意見原案を出した。五頁の受領事実から、警告全体の完了までを一文で結んでいる。
「受付印をもって、王宮への警告伝達は完了した」
事実提示官側の上席は、その文を「書面五頁を王宮受付が受領した」へ直すよう求めた。独立公証記録官は原案へ版番号三を押し、消さずに残す。修正文は版番号四の別紙として隣へ置かれ、どちらも同じ綴じ穴へ上書きされなかった。
書庫棚の終わりで、ローヴェンが私物控えの移動を問われた。彼は列の前へ出ず、最後尾から封番号票を掲げる。
「審理提出後は、私の受取札つき証拠封です。今日の照合は認証写し。所有者はリディア・エルンスト」
「その控えから、王宮側が警告を理解したと判断できますか」
「保管番号は答えました」
ローヴェンは意図へ踏み込まず、列の後ろへ戻った。証拠封の鍵も、外套の内側から出さなかった。
第3鐘、書庫を出た一行は、王宮外便廊下へ向かった。アレクシスの限定事実書の残りが、歩きながら記録官に読まれる。私物控えは五枚で封なし、第1月第2日第1鐘の直後に東門を出た。翌第3日第1鐘、最初の宿駅で王都東治癒院の停止公報を二人が読んだ。
公報を見た後、王都へ戻る替え馬はあり、北へ進む馬車もあった。
外便廊下の壁には、通常便、認証便、至急便の窓口が順に並んでいた。至急便だけは赤い縁があり、宿駅からでも王都へ折り返す送付票を受ける。リディアは同じ形の札を、あの朝にも見ていた。
「停止公報を知った時刻について」
「宿駅で停止公報を読みました」
三つ目の答えが記録される。審理長は、治癒院停止の全損害をその一文へ結びつけず、何を知った後にどの手段が残ったかだけを追加伝達の番号へ移した。
第4鐘前、至急便窓口へ着いた。受付溝には当時の日付ごとの送付票索引があり、リディア名、アレクシス名、引継ぎ書受付番号のどれにも一致する票はなかった。不在を示す索引は、新しい送付証明にはならない。
資格審査部がこの場で扱う範囲を、審理長が確認した。二つの番号ごとの事実認定、証拠保全の継続、追加伝達の相当性を三名以上の資格評議部へ付議するかどうか。資格停止、拘束、損害賠償、地方雇用の解除は、窓口の前では決まらない。
リディアは四つの事実を一枚の自白へまとめる紙を受け取らなかった。独立公証記録官が、受取人、待機可能時刻、公報認識、追加便の四欄を別々に指す。
最後の欄には、送付票番号を記す細長い枠があった。リディアは空の受領溝を見た。
事実提示官が、リディア名義の送付票はこの窓口へ来たかと問う。リディアは空の受領溝から目を逸らさなかった。
「ここへは来なかった」




