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証言を引く朝

冬第11月第29日、第2鐘。通常馬車の着場で三つ目の宿駅印が押され、リディアは三日分の揺れを脚に残したまま王都の石畳へ降りた。


登録院の到着受付は、安全通行状と本人出席控えだけを受け取った。資格は有効、臨時契約官雇用第二号も王暦219年春第2月第1日の同時刻まで有効と欄外にあり、到着印の下には第12月第1日の開廷時刻が記されている。


隣の目的限定受付で、二枚の薄い札が別々の挟み板に留められていた。署名日は第27日。公開用匿名陳述と、閉鎖された室内での反対尋問への同意で、撤回期限はいずれも第30日第3鐘だった。


リディアが知れるのは、本人署名、目的欄、受領時刻だけだった。イルマが二日前にどの椅子へ座り、何を考えて筆を持ったかは、どの欄にも書かれていない。


「秋第9月第5日の資料と綴じていますか」


受付係は二枚の挟み板を離したまま答えた。


「公開用陳述は冬の新規資料です。閉鎖反対尋問も別受領です。東治癒院の実名封印医療原本と、以前の匿名要旨には別の保管番号があります」


その日の第4鐘前、受付の外廊下を配達人が駆けてきた。濡れた外套の内側から角の潰れた封筒を出し、目的限定受付の台へ置く。宛名はイルマ本人で、外からは本文が見えなかった。


受付係は開けずに、外封の状態を四方から写し取った。到着鐘、配達人の名と旅券番号、受付簿の行、受領者であるイルマの署名が、本文とは別の票へ順に固定される。


イルマは台の端に右手を置いた。立ったまま署名を終えると、右脚へ体重を移す前に短く息を止めたが、封筒をリディアへ向けることはしなかった。


「開封の立会いを申請します」


独立書記が受領し、イルマ本人情報を扱う証拠保全室へ運んだ。リディアには入室資格がない。彼女は廊下の長椅子に座り、閉じた扉の向こうで最初の封糸が切られる音だけを聞いた。


半刻後、書記が小窓から一枚の認証票を出した。脅しの文句も、引用された数字そのものも黒い覆いの下にある。読める記載は、非公開保管番号と同じ形式の番号が本文中に存在する、という一行だけだった。


「どの保管先から漏れた番号ですか」


「この票で認証できるのは、非公開番号の引用があることです。差出人と入手経路は認証していません」


認証票に続いて、書記は再二重封の受領票も小窓から差し出した。開いた本文は別の内封へ戻し、新しい二本の糸を掛けたこと、外封原物は同じ証拠番号の別区分へ収めたことが記されている。外封の拓本と受付の認証写しは、原物の二重封へ糊付けしていない。


リディアは宿の手配票を鞄から出しかけた。認証票には差出人も入手経路もない。紙を鞄へ戻した。


翌第30日、第2鐘。撤回受付の椅子は、机へ正面を向けると右側だけ脚の置き場が狭かった。イルマは座る前に椅子を半歩引き、右脚を両手で持って前へ置き直した。


机には四枚を積まず、二枚の新規資料だけが左右に置かれていた。公開用匿名陳述の撤回書と、閉鎖反対尋問同意の撤回書。受付係は第27日の受領番号と、今日の締切鐘をそれぞれ照合する。


リディアの弁護人は、公開用陳述が残れば医療要旨だけでは届かない生活上の支障を示せる、と前夜の整理票へ書いていた。閉鎖反対尋問があれば、提示側の疑問にも本人の声で答えられる。二枚が撤回されれば、審理で使える言葉は狭くなる。


前夜の整理票は、宿の手配票と一緒に鞄へ入っていた。リディアは留め金へ触れ、手を離した。


「撤回する理由を記録しますか」


「しません。対象だけ読みます」


イルマは先に左の紙へ指を置いた。


「この二つを引きます。脚の原本と、前に選んだ要旨は残します」


公開用匿名陳述の番号を読み、署名した。紙を返してから右の閉鎖反対尋問同意を引き寄せ、同じ名をもう一度書く。二つの署名時刻は同じ欄へまとめられず、受付係が一枚ずつ第3鐘前の印を置いた。


リディアは向かい側の席を使わなかった。壁際に立ち、渡された撤回札の番号だけを復唱する。


「公開用匿名陳述、冬第27日受領分。閉鎖反対尋問同意、同日受領分。この二つですね」


「それだけです。医療の原本は治癒院に残す。前の要旨も残す。娘について空けた欄は、空けたままにしてください」


「その範囲で受け取ります」


イルマは机の端を押して立ち、右脚が追いつくまで一歩目を待つ。廊下の先には診察室と別の扉があり、その脇に、座面を高く直した仕事用の椅子が預けられていた。


椅子の座面には新しい革が張られ、右前だけ浅く削られていた。イルマは削った縁を親指で確かめ、受付係へ向き直る。


「昨日の夜は、脚が二度つりました。診察にはその時刻だけ伝えてあります。陳述へ足さないでください」


受付係は通院票を開き、審理資料ではない欄へ時刻を書いた。リディアの撤回札には、その言葉を移さなかった。


「次の通院は第何鐘ですか」


受付係が日程票だけを確かめる。


「第2鐘半です」


イルマは自分の歩幅でそちらへ向かった。娘の名も、住まいも、仕事場の場所も、誰も呼ばなかった。


第3鐘、二枚の撤回書は目的限定受付の別々の箱へ入った。撤回札も一枚ずつ切られ、リディアには控え番号だけが渡される。


東治癒院へ返る便には、実名封印医療原本の存続受領札が載った。以前の匿名要旨は登録院の既存棚へ戻り、脅迫状の二重封は事故保全部の施錠扉へ運ばれる。三つの運び手は廊下の分岐で別れ、同じ扉には入らなかった。


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