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戻されずに行く

秋第9月の末、境界金庫の保管票には、二本の封糸と開示待ちの番号が残った。冬第10月には新しい月次票がその下へ綴じられ、家から返ったのは審査継続の一行だけだった。


季節はさらに進んだ。城下の水桶には朝ごと薄氷が張り、停止栓の取っ手には素手で触れないための麻布が巻かれた。補償窓口ではフリーダ一家の乾燥倉代と仮住居代が別々に受領され、種麦の損失欄だけは支払済みにならないまま冬第11月へ入った。


第25日、第2鐘。リディアはヴァルハルト城の公証受付で、登録第7241号宛ての通知筒を受け取った。秋の比較から、およそ二暦月が過ぎている。


外封には王国契約官登録院の印と、通知前に定められた争点数があった。筒の中には安全通行状、答弁期限、書面答弁と本人出席の選択欄、閲覧できる証拠範囲が、同じ受領番号の下で分冊されている。


リディアは見出しの革タブを端から開いた。水車事故の頁で、物理確認を省いた時刻と三日停止の行に指が止まる。公開運行表の頁とベルト死亡の頁は別のタブに分かれ、北東境界の暫定作業札、その次には王都離脱と離脱後の追加伝達が別々に並んでいた。


初めて知らされた告発はなかった。全頁を通知したという受領票には、今日より前の発送時刻と、返答を選べる期限がある。母の筆跡比較報告を差し込む欄は用意されていなかった。


受付机の右には、書面答弁用の封筒が置かれていた。ここに残れば、停止栓も補償票も自分の目で追える。三日間の道と王都の審理室を避けても、欠席とは記録されない。


本人出席票の最上段には、領側が先に用意した身分欄があった。そこだけ、アレクシスの家令が使う濃い墨で埋められている。


ヴァルハルト領代表。四区の合意印を束ねる時に何度も使った肩書だった。


その肩書で行けば、国境合意も五区の復旧も、領の印ごと背後へ立てられる。公開表の判断や水車の確認省略に、領全体の成果を並べることもできた。


リディアは公用筆を取り、肩書の中央へ一本の線を引いた。紙を破らない強さで端から端まで消し、下の選択欄へ書く。


本人出席。


その横に、リディア・エルンストと自署した。登録番号は残し、領代表印の枠は空欄のまま受付へ向ける。


「書面なら、今夜までここにいられる」


背後でアレクシスが言い、書面答弁用の封筒を指した。


「ここにいることを、答えたことにはできません。領の仕事を、私の答弁にも使いたくない」


アレクシスは別紙を三つに折らず、机へ広げた。三欄に人数、費用上限、第二号の番号と満了時刻を書き、自分の名を置く。


「私が保証できるのは三つだけだ。道中の護衛。弁護人の費用。戻った後の職」


「審理の結論は」


「王都が決める。身柄についても、私の印では決められない」


リディアは三項目の受領欄へ一つずつ印を置いた。

城を出る前に、リディアは停止栓の持ち場へ向かった。水番責任者はすでに朝の目盛を読み、前月と同じ担当印で日常票を閉じようとしていた。


「第29日まで、新しい流量変更を私へ送らないでください。既定の範囲で止める判断は、あなたの署名で」


水番は顔を上げず、凍った麻布を取り替えた。


「昨日までと同じです。異常なら現場栓を止め、二名で時刻を残します」


点検台の端には、第27日朝の記録用紙がもう挟まれていた。水番責任者と副担当の印座がある。リディアは傾いた挟み板だけを直し、筆を取らなかった。


「私の帰着確認は要りません。翌朝の二名照合で閉じてください」


「その手順で冬第10月から動かしています」


返事のあいだにも、副担当が外の目盛棒を読み上げた。水番責任者は値を書き、リディアの顔を見ずに時刻を添えた。


補償窓口では、会計吏がフリーダの仮住居延長票を金額欄へ回していた。未払いの種麦損は赤い紐で残り、急いで完了印を押せる状態でもなかった。


監査連絡口にはF-03の月次保管票が届いていた。ローヴェンの封番号と、開示請求が審査中であることだけが記されている。既存担当の書記が受領時刻を記した。


「王都から指示が来たら、私の宿へ回しますか」


「保管と現場運用の指示なら、担当先へ直接です」


書記の答えに、リディアは頷いた。


第26日第1鐘、通常馬車が発着庭へ入った。王都まで三日かかる定期便で、早馬用の交換札はなく、夜ごとの宿駅が旅程票に三つ記されている。


護衛二名が前席へ乗り、弁護人への費用封は御者台の鍵箱へ収められた。リディアの鞄に入ったのは通知控えと着替えだけで、F-03も母の比較報告原本も、事故の原本もない。

アレクシスは踏み台の脇へ立ち、差し出した手でリディアを車内へ上げた。


「第29日に着く」


「旅程どおりなら」


扉が閉まる。リディアは窓から城を見上げず、膝の上の受領控えを開いた。抹消した肩書の下で、本人出席の四文字だけが揺れている。


馬車が庭を出ると、停止栓の持ち場にある小鐘が窓越しに聞こえた。門へ曲がる手前、開いた窓の向こうで、水番責任者が第1鐘の日常票を自分の台へ置くのが見えた。


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