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国境の古い名

第4鐘を過ぎた白鹿詰所では、流入管の空音が壁の中まで響いていた。管へ触れたヨハンの指にも、もう水の震えは返らない。


ヨハンは貯水槽の十二本の栓を順に押し、一日四樽の使用札を成人医療責任者へ渡した。最後の栓からも水は漏れていない。治療室の患者へ使う順を、医療責任者が寝台番号と時刻で分けていく。


「三日目の最後まで残すのではありません。飲ませる時に使います」


リディアは十二樽を一つの塊として見ていた指を引いた。


城下から来た騎手が、筒を一本だけ受付へ置いた。学校用の閲覧写しが戻ってきたのだ。封の外には教員と成人書記の立会印があり、開かれた回答欄には、ニナの手で二字だけ書かれていた。


不明。二字の横には、答えを見た成人書記の小さな立会印があった。


リディアは写しを証拠封へ重ねず、学校閲覧票の保管者へ返した。


治療室を出ると、ヨハンは空の小樽を肩へ上げた。水が届く順に歩く、とだけ言い、詰所から上岸の家へ向かう。


家の戸口では、リナが片方の長靴を脱いでいた。ヨハンは踵の縫い目へ新しい革を当て、濡らした錐で穴を通す。娘はその隣で昼食籠の留め具を曲げ直し、蓋が勝手に開かないか三度振った。


「明後日も第2鐘か」


「黒パンと干し肉。林檎が残ったら、それも」


「近道へ下りるな。いつもの上を行け」


「この靴なら滑らないよ」


リナは革を継いだ踵を床へ押し、片足ずつ体重を掛けた。

家の裏から続く上岸通常路を歩くと、斜面の低い側にフリーダ・バウムの屋根が見えた。半分だけ新しい板が並び、残り半分には古い板と押さえ石が載っている。


フリーダは種麦袋を倉の床から高棚へ上げていた。夫と息子が一袋ずつ受け、彼女が縫い口の湿りを確かめてから奥へ押す。


「灌漑を三日止めたら、畝はどこまで持ちますか」


リディアが尋ねると、フリーダは窓から畑を見た。畝の端では、朝に立てた土がもう崩れ始めている。


「今日の根は持つ。初雪前にもう一度乾けば、春の芽が減る。けれど、この袋を濡らすよりは畑を乾かす」


屋根板を押さえた手には木屑が刺さっていた。フリーダは抜かずに、次の袋の底へ掌を当てる。一年分の種麦だった。


さらに水の低い方へ行く前に、道は炭荷場へ分かれた。マティアス・ローエが空荷の車輪を浮かせ、傷んだ鉄輪を小槌で叩いている。回すたび、一か所だけ鈍い音がした。


荷台の脇には十四袋の高さで刻線が引かれていた。一袋二十斤、車軸が二百八十斤まで耐える印だ。


「今日の一往復が閉門で消えた」


マティアスは車輪から耳を離さなかった。鈍い音が戻る位置へ、炭で短い線を引く。


「染色工房へ炭を渡せば二枚。二枚ずつ貯めて、初雪までに鉄輪を締め直す」


レオンハルトは下流の工房名を自国の抄へ控え、三軒であることをマティアスに確かめた。


ヨハンは保守費の袋から銀貨二枚を出した。閉門で失った正当な一往復分だ。マティアスが受領札へ名を書くのを待ち、別紙を開く。


「三日のあいだ、一度だけ保守荷を運んでくれ。炭の通行ではない。荷は入口で数え、帰ったら札を箱へ返す」


「二枚とは別か」


「仕事の賃金は別だ。例外承認は俺の名で出す」


ヨハンは外部雇い追補欄へ自分で署名した。常設班は成人八名で、対岸へ送る名簿もその八名を前提にしている。追補名簿と実荷明細を作る欄はヴァルハルト入口にしかなく、ルメリアの退出簿へ写す工程はなかった。


リディアは札本体の雛形を借りた木筆でなぞった。番号、対象施設、開始、終了。所持者名も、積荷も、一回使った印も、退出側の副署もない。


「今夜、形を変えますか」


ヨハンの問いに、対岸の水番責任者は首を振った。手元の常設班名簿には、八本の署名線しかなかった。


「両方の発行手順を変える権限は、この場にはありません。今回の例外を片岸の紙だけで通すなら、その不足も残してください」


レオンハルトは、施設名を双方の原本どおり残し、白鹿下沢分水標を上流の杭へ寄せず、不足量を別欄へ記すよう求めた。


治療室十二、飲用二十四、家畜十二、灌漑十八。必要な空樽は六十六あった。既存門を4分の1だけ上げて三日間に渡せる見込みは、三十六樽だった。


「治療室へ十二。飲用へ十八。家畜へ六。灌漑は開けない」


リディアは読み、木筆を置いた。紙の上でも、空樽三十個ぶんの余白は埋まらない。


「不足は、飲用六、家畜六、灌漑十八。私はこの順の計量案を出します。配分を決める署名はしません」


レオンハルトは数字を見た後、乾いた灌漑口まで歩いて戻った。靴に付いた白い土を落とさず、四つの欄の前へ立つ。


「二地点を別に認証すること。開度、期間、総量、不足を、四者が別欄へ書くこと。それなら測定に立ち会います。恒久の権利とは認めません」


第15日第1鐘を迎える前、既存分水門の歯へ4分の1の赤い物理印が付けられた。水際には空の樽が、十二、十八、六と縄で分けて置かれた。合計三十六。乾いた灌漑口には、樽ではなく零の札だけが立てられる。


四つの署名欄は、まだ空いていた。ヨハンが列の先頭にある一樽を両手で転がし、閉じた門の前へ置いた。


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