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灯を信じない調査官

秋第9月第3日、第1鐘。黒封を下げた馬車は、五区の成果説明が始まるより先に城の受領台へ着いた。


降りてきた男は、北門の灯を見上げなかった。旅装の泥も落とさず、黒い革筒から発行権限文、調査範囲、送付目録を順に出す。最後に、品目ごとに空欄の受取札を並べた。


「王国監査局事故保全部、契約監査官ローヴェン・ハルト。本人照合を」


官用旅券には三十四歳、王都発行日、馬車の継送印がある。リディアは顔と署名を確かめ、受領台の書記へ回した。ローヴェンも彼女の登録札を一度見ただけで、返却時刻を書かせる。


「五線は二月余り、大きな事故なく動きました」


五区代表が用意した成果抄へ、ローヴェンは手を伸ばさなかった。代わりに、先着していた独立書記の事前点検票を開く。


「原契約の停止時刻」


「夏第6月第7日、第1鐘です」


「再稼働は」


「第9日。旧五線を一本ずつ、同じ切断痕で戻しました」


「新線ですか」


「いいえ」


問いは一度に一つだった。リディアが答えるたび、ローヴェンは送付目録の該当番号だけを開き、停止札と三者署名を照合する。


暫定四層命令の頁で、彼の指が止まった。外部監査封印箱へ資料を入れる候補決裁欄には、いまも名がない。受領者が決まるまで二重封にする手順はあるが、何を候補に選ぶかの権限者が空白だった。


「候補資料を決めた者は」


「定めていません」


ローヴェンは空欄を指で囲まず、事前点検票の同じ空欄へ照合印を置いた。次に旧公開運行表を取り、到着鐘と数量の下にある異議欄、領印、更新責任者を追った。


「危険時に停止を決める者は」


「記載がありません」


「停止する数値は」


「ありません」


ローヴェンは、分類決裁者、停止権者、危険閾値の三項目を主な保全候補へ置いた。第四灯の旧署名痕は、次の行へ記した。


アレクシスは、軍事源を公開しない異議書と、領印を押した旧運行表を別々に提出した。立会人は領書記と会計吏。ローヴェンは封印された軍道座標を開かず、警告未共有票の外封だけを確認する。


襲撃成立票と防止判断未共有票も、一枚へ重ねなかった。最初の封筒を左、次を右の保全箱へ戻し、それぞれに別の受取番号を付ける。リディアが説明を足そうとすると、ローヴェンは次の品目へ進んだ。


「停止権の旧例があります」


ガルドが北門警備記録庫の認証抄を差し出した。若い頃の閉門勤務票で、命令元は王都、閉門実行者はガルド・ノイン。門外死亡者欄には、彼の妹の名があった。


ローヴェンは顔を上げた。


「提出理由は」


「命令者と、栓を閉じた者と、外で死んだ者が別だからだ」


「当時の判断評価も求めますか」


「今日は求めない」


ガルドは認証抄の提出者欄へ署名した。ペンを握る指は動かなかったが、名を書き終えると、死亡者欄を伏せず机の中央へ残した。


第2鐘、ローヴェンは送付目録の銀筆の行を読み上げた。リディアは腰の革差しから筆を抜き、蓋と軸の傷を見せる。何年も指の形になじんだ重さが、他人の白布へ置かれた。


「限定鑑定と事故保全のため、一時封印します。所有権は移りません」


銀筆は細い箱へ入り、二重の糸を掛けられた。ローヴェンが品目、時刻、目的を書き、リディアへ受取札を渡す。同じ時刻から、自作点検控えと関係原本への彼女の閲覧権も止められた。


「必要な修正が出た場合は」


「原本を見ずに案を出すか、受領申請をしてください。私が許すとは限りません」


第3鐘、王宮に残る保守簿の該当範囲認証写しと、リディアが王都から持ち出した私物の自作点検控えを、別の布の上へ並べた。王家原本は王宮から動いていない。ここにあるのは、その認証写しだけだった。


認証写しの葉番号を追い、自作控えを同じ冬へ開く。十七葉の次で、リディアの指が止まった。


「私の控えは、十九葉へ飛んでいます」


ローヴェンはまだ頁をめくっていなかった。リディアが綴じ糸の際を持ち上げると、紙を切った細い毛羽が残っている。認証写しには、冬第十八葉があった。


「欠落を、あなたが申告するのですね」


「はい。いつからないかは分かりません」


「内容が同じだと考えますか」


「確認できません」


彼は、十七から十九へ飛ぶこと、綴じ際に切断痕があること、本人が初回照合時に申告したことだけを書いた。第十八葉の筆者も、切った者も、理由も記さない。認証写しの本文を読み上げることもしなかった。


第4鐘前、北門から現況灯の色抜け札が届いた。警告色の縁が消え、石の異常か継ぎ目の疲労かは、まだ測れていない。


リディアの手が、いつもの革差しへ動いた。そこには銀筆の代わりに、受取札の硬い角がある。彼女は手を下ろし、北門責任者へ、原契約の色抜け条件による即時停止を返した。


継ぎ目室の扉の外で、リディアは待った。中へ入った北門責任者が自分の名を読み、物理栓を閉じるまで、灰色になった灯へ触れなかった。


やがて壁の向こうで、鉄の栓が石の受けへ落ちた。


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