止められなかった祈り
秋第8月第26日、第2鐘。セレスティアの指は、東治癒院の対象表に残る焦げ跡で止まった。
祭礼用に清書された紙の下へ、古い床線の薄い写しが重ねられている。現在の再診寝台、焼損した旧患者枝、当時そこに残った身体の痕。それぞれ別の欄なのに、細い朱線で同じ七灯の第四枝へ束ねられていた。
寝台の患者番号を、セレスティアは覚えていた。辺境で、右脚の向きを両手で直しながら、自分の仕事へ戻りたいと言ったイルマの番号だった。王都へ帰った彼女は、定期の物理診察を受けるため、今夜だけ東治癒院の同じ床線上にいる。
大祭、祈り、旧線再接続。その三つの同意欄には、何も書かれていない。
セレスティアが焦げた枝の印へ触れると、右の腿から足首まで熱が一本走った。指を離しても、東治癒院の床線が焼けた夜と同じ脈が皮膚の下に残った。
「この枝を外してください」
儀礼運用官は、対象表の最終頁を開いた。除外理由、影響する七灯、代替経路、申請者の資格。その下に、聖女候補本人の署名欄がある。
「封印締切は日没です。候補が既存患者枝を除外する場合、明日の主祈祷者からも外れます」
儀礼運用官の指は、候補席を外れた後の審査票へ移った。事故調査の対象表をどこまで読めるかは、そこで改めて決まる。
セレスティアは署名欄の上へ手を置いた。王家へ提出する公式停止欄も、その隣にある。どちらかへ名を書けば、少なくとも東治癒院の旧枝は明日の等配分から外れる。
礼拝堂の外では、使節団の馬車が列を作っていた。南方の薬材商は、七灯の公開確認が終われば冬の供給契約へ印を置く。広場の木柵は二重になり、警備兵は群衆を七つの入口へ分けていた。
ユリウスは、西回廊で倒れた露店の脚を自分で持ち上げていた。前日から入った見物人が通路を狭め、店主が移動を拒んでいる。王太子が手を離すと、近衛が新しい場所まで運んだ。
「東治癒院の枝に、同意がありません」
対象表を差し出すと、ユリウスは先に空欄を見た。その指が、次に中央蓄積石の出力表へ移る。
「危険は認める。明日は祭礼赤目盛の八割まで落とし、院内に閉栓の者を置く」
「七灯を同じ明るさにするため、通常の優先札を外します。弱い枝から戻るかもしれません」
「だから一度だけ、制御した結果が要る」
窓の下には、薬材箱へ押される仮封と、使節団の旗が並んでいた。ユリウスはそれらを隠さず指した。
「失敗すれば、供給も王家の信用も失う。成功すれば、焼けた枝を全て調べる予算と、祭礼を止めて組み直す時間を取れる。今夜止めれば、調査する席そのものが残る保証はない」
セレスティアは対象表を持って祈祷準備室へ戻った。衣装箱の底に、夏に送った私信の控えがある。その上へ、リディアから届いた返信を重ねていた。
私信では止まりません。
続く一行には、除外欄か公式停止欄へ、自分の署名を出すよう書かれている。
机には、借り物の聖句集と候補印が置かれていた。候補でなくなれば、明日だけでなく、焼けた枝の保守簿を読む許可も失うかもしれない。誰かが後で正しく調べると願うより、自分が席へ残る方が患者を守れる。そう考えるたび、その「後で」の前に横たわる身体を、セレスティアは見ないふりをした。
日没前、儀礼運用官が封印箱を持ってきた。セレスティアは旧枝除外欄を開き、ペン先を下ろす。
黒い点が一つ落ちた。そこから名を書けば間に合う。
「総量を下げたまま、痛みが増えたら、私の祈りを切れますか」
「主祈祷者の入力は切れます。ただし、中央石の残流と各施設の枝は、現場で閉じるまで残ります」
セレスティアは除外欄からペンを上げ、隣の主祈祷者受諾欄へ自分の名を書いた。公式停止欄は空白のまま、表が封じられる。
夜、東治癒院の窓には常夜灯が二つ点いた。あの寝台でイルマが眠れているかは、ここから分からない。対象表は封印箱の中にあり、セレスティアの署名だけが受諾欄に残っていた。
第27日第1鐘。七つの覆いの前で、セレスティアは祈祷位置へ立った。通常の用途別優先札が、青銅の溝から一枚ずつ外される。代わりに七本の配分桿が、同じ目盛りへ揃えられた。
ユリウスが群衆へ合図し、中央蓄積石の留め金が開く。セレスティアは両手を組み、自分の声で言った。
「もう一度だけ、祈ります」
熱が掌から七本へ分かれた。正面の第一灯は暗いまま、最も遠い第七灯の覆いへ先に火が入る。次に第六、第五と、祈りは戻る方向へ燃えた。
第一灯までが点いた時、七つすべてが、赤みを帯びた同じ明るさになっていた。




