許されないまま直す
夏第6月第6日の夜、北門共通継ぎ目室には、五本の停止票より先に五つの砂時計が届いた。
白石、南井戸、西製粉、北門、南市場。時刻を合わせた砂時計を各現場へ一本ずつ運び、施設の操作責任者と立会人が、原契約を延長しない旨を読み上げる。リディアは北門に残った。継ぎ目室の机には、サラへ出した招請の返事も置かれていた。
「申立人として事実だけ出します。運用案には入りません」
店の受取印と、その一行がある。リディアは返書を事故申立ての控えへ戻した。
第7日第1鐘まで、あと半刻。北門責任者が現場栓の取っ手へ手を置き、ガルドは切離し桿の左右に残る退路を確かめた。壁際には領の書記が立ち、アレクシスの領印を預かった会計吏が、印箱から手を離している。
「五現場から異常が来た場合は」
「予定時刻を待たず、その現場だけ閉じます」
リディアは答え、停止票の技術実行者欄へ署名した。対象、時刻、施設代表、情報の原所有者、領権限者には、それぞれ独立した枠があった。
鐘楼の綱が鳴った。重い音が石壁を一度押し、北門責任者が栓を閉じる。リディアは三つ目の響きに合わせ、五端子を束ねた切離し桿へ両手を掛けた。
錆びた軸は、肩を入れてもすぐには落ちなかった。ガルドが手を出しかけ、リディアは首を振る。契約官の技術実行として署名した動作まで、警備長へ渡すことはできない。もう一度体重を掛けると、桿が石の受けへ落ち、五本の細い光が途中から消えた。
北門の現況灯が暗くなる。道標の石はただの灰色へ戻り、門外を歩く当直が、目と靴で路肩を確かめ始めた。
「北門、現場栓閉鎖。第1鐘」
責任者が読み上げ、立会人が栓印の割れていないことを確かめた。白石の時刻札が届いたのは一刻後だった。南井戸、西製粉、南市場も、二人の署名と栓印を別々の伝令が運んできた。リディアは到着順に綴じ、四地点の停止時刻を自分の目撃欄へ写さなかった。
同じ第1鐘、治癒倉庫では日常薬の優先投薬分が底を打った。ミナの連絡票には、清潔布、洗浄水、休息場所は残るが、薬の代わりと記すな、とあった。ヨナスとエルクの療養欄は続き、南方北行きの再開欄は空いている。
止めた五本の仕事は、人の足へ戻った。水量、枝水、道標、荷札を、一日十勤務で回る。第13日までの一週間、五区が自分の維持口から計十五枚を出し、夜番と昼番を雇う契約へ署名した。
低所得補助の三十六枚を使う案は退けられた。受領者が一人もいない補助金を、見回りの穴埋めへ移せば、次に薬が来ても買えない家だけが残る。領の自由財源にも、サラの補償にも付け替えなかった。
第7日の昼から、リディアは事故室の机を四つに分けた。到着後に確定した在庫と幅のある更新日を置く白札、契約当事者だけが正確な窓を読む青札、外部監査へ渡すまで二重に封じる黒札、病歴や拒否を本人と指定保管者だけが読む赤札だった。
紙を読む魔法は使わない。一枚ごとに索引を作り、移した者が受取台帳へ時刻を書く。判断できない紙は白札へ落とさず、保留箱へ立てた。
外部監査用の箱には、襲撃成立票と防止判断未共有票を別封筒のまま入れた。受領者名はまだ空白で、二本の鍵は領会計と事故保全庫へ分ける。誰が監査候補へ入れると決めるのか、その欄も埋まっていなかった。
当事者札の暫定命令には、「事故の関係者が必要とする情報」と記した。事故ごとに誰が決めるかを第9日までに定められず、決定者欄は空白のまま保留箱へ立てた。
第8日の夕方、アレクシスから記名の異議書が届いた。領主執務室の書記と会計吏が立ち会い、受領時刻まで記されている。
五線の再稼働には同意する。分類案の恒久化には同意しない。軍事源は二重封のまま、公開表は停止を続ける。
リディアは口頭の返事を持たせず、受領欄へ署名した。次に拘束のない月給一か月分を、領会計の補償判断口へ置く申請も同じ便へ返す。サラへの支払確定でも、水車事故の賠償でもないと、封筒の表へ書いた。
第9日第1鐘、白石から旧線を戻した。施設代表、情報の原所有者、領権限者が役割ごとに署名し、現場で切断痕と水位目盛を確かめてから、リディアが技術実行欄へ名を書く。新しい線を定着させるのではなく、六十日の期限を置いて、切ったばかりの古い経路へ力を通した。
南井戸の次に西製粉を戻すと、警告灯が二度明滅した。マルタは回転目盛から目を離さず、停止栓を握ったまま、赤い線を越えていないことだけを告げる。二度の明滅も再稼働記録へ残した。
北門の灯は、点いた直後に縁の色が薄くなった。北門責任者が石の亀裂を外から確かめ、南市場の表示は到着済みの荷札だけに限って、最後に五本目が戻った。
ガルドは、現場停止と当直手順の欄へ署名した。ペンを返す前に、リディアを見た。
「手順には従う。まだ、あんたを信用してはいない」
「承知しました」
リディアは署名時刻を読み上げ、書記に照合を頼んだ。
水利保守口では、六十日の運用と一度だけの延長を見込み、手動控え、休息当番、秋の検査班を組み替えていた。担当が確保されると、年番表から外してあった秋第9月第13日の定例出発札を、別の釘へ戻す。札の下で、空の保守荷台の車輪へ油が差された。
第4鐘、通常便の袋から私信が一通出てきた。夏第6月第6日付。三日前の王都から、セレスティアが、古い祈りの枝に焼けるような痛みがあり、大祭でつなぎ直す話が進んでいる、と書いていた。
神殿の受領印も、王宮の停止番号もない。リディアは私信箱へ入れ、公式文書箱には移さなかった。
返信には二行だけ書いた。
私信では止まりません。大祭対象表の除外欄か、公式停止欄へ、あなた自身の署名を出してください。
リディアは同じ日の通常便へ封筒を載せ、発送時刻を私信の受取台帳へ残した。




