信用を公開する
夏第5月第15日の第1鐘、薬舗の前には、まだ売る薬がないのに十二人が並んでいた。一番前の女は、夜明けから石段へ座っていたという。次の南方便がいつ着くか分からず、今日かもしれないと思って来た。腕の籠には水と固いパンがあり、家には熱を出しやすい父を一人残している。
「着かない日にも、ここで待たせています」
リディアは五区の購入代表を水車小屋へ集め、公開運行表の案を出した。板に載せるのは供給者名、到着日と鐘、台数、品目と数量、遅れる場合の訂正掲示時刻である。出発時刻、使う道、宿、合流点、護衛の名は出さない。
正確な時刻を出す代わりに、安全附表も付けた。南荷出し所運行組合と加盟厩は、公開便が出る前後の替馬売買を、時刻、頭数、商会札か村札を示したか、という三項目だけ日次抄にする。個人名も住所も旅先も城下へ送らない。公開表を使う運送人が同意した便だけ、到着書類へ抄を付ける。
カミラと、先に表を使う二人の既存商人が署名した。トーマは城下の公開表配車係として受け取る。厩の私帳を勝手に読む権限を、公開の名で作らないためだった。
「南から三日だ」
アレクシスは公開案の余白へ、到着第4日第2鐘、と書いた。その下から三日を引き、第1日という数字を置く。
「道を隠しても、出た日は絞れる」
「幅を持たせてください。第4日から第5日の間、と」
カミラも、正確な鐘の公開へ異議を入れた。南市場の代表はその異議を聞いたうえで、三十六枚を共同買付へ出す札を机へ置いた。
「幅の二日間、うちの店は二人ずつ列を見張ります。金を先に出し、何が何台来るかも分からないなら、共同で買う意味がない」
西製粉のマルタも、二十四枚の札を並べた。水車事故のあと、粉便は予定日を一日ずつずらし、そのたびパン屋が空の荷車を待った。
「道の名はいらない。第何鐘に秤を空けるかは要る」
白石のヘニングと南井戸のエッダは十八枚ずつ、北門は二十四枚を出す。北門の責任者だけが、城へ入る日を一日の幅で示す案を選んだ。
「正確な鐘を出せば、門前へ荷も人も集まる。門を守る側は、信用された数だけ塞がれる」
リディアは到着前の四半刻だけ北門の荷列を別路地へ回し、遅延訂正は到着予定の一刻前に出す案を足した。それでも北門代表は日付幅を選んだ。
五区の表決は四対一になった。アレクシスは、領主の賛成で決まったようには書かなかった。正確な鐘を求めた四区の名と、幅を求めた北門の名を残す。自分の欄には、既知の三日行程から出発窓を逆算できる、と異議を記し、その下へ領の公開印を押した。前金百二十枚を集める条件を、買い手が決めたからだった。
次の二台は、日常薬、清潔布、針包と、越冬薬草、保存油に分け、基礎価格を各六十枚、計百二十枚とした。危険手当九十六枚のうち、出発分四十八枚はエリオ商会が立て替え、二十日後に手数料込み五十二枚を受け取る。到着分四十八枚は南市場商人会が現金で供託し、領会計と商人会の二本鍵で封じ、二台の受領時だけカミラへ渡す。
「出発時には百六十八枚を払い、着けば残り四十八枚です。合計は二百十六枚になります」
基礎価格を払った時点で商品は五区所有となる。梱包不良と指定路離脱は南方商会、武装襲撃は買い手側の損失とし、二つの初動路と松割・柳床の二候補外へ出た時刻を門札と宿札で照合する。
最初の公開表は、夏第5月第20日第3鐘、記録紙一台だった。以前から南北を往復している紙商人の便で、薬の共同買付口も騎士団の護衛も使っていない。
紙が不足していた薬舗と受付所は、午前から荷棚を空けた。北門の路地には待つ荷車が二台だけあり、予定の鐘が鳴る前にトーマが通行札を分けた。第3鐘の二打目で、一台の幌が門影へ入った。
表の脇に、到着済みの白札が掛かる。荷札の束には、南荷出し所の杉厩が付けた第17日の日次売買抄もあった。商会札も村札も示さない買い手が、替馬二頭を現金で買っている。トーマは合法売買の控えとして、ほかの厩札と一緒に配車机へ綴じた。
石段で夜明けから待っていた女は、その日は並ばなかった。前日のうちに薬舗で次回の予約札を受け取り、父のそばにいた。リディアがそれを知ったのは、受領帳の受取人欄へ同じ名があったからだった。
二度目は第27日第3鐘。保存油と清潔布を運ぶ別の既存商人が、遅延訂正を使わず着いた。この便にも共同買付の金と騎士団資源は入っていない。川手厩の第24日分の売買抄が、帰路用の書類に挟まっていた。ここでも札を示さない買い手が、替馬三頭を現金で買っている。
一度目には鐘楼を見上げていた者たちが、二度目には第3鐘の半刻前にだけ集まった。薬舗の主人は、入荷なしの日に戸板を閉めたままにできた。公開板の周りで、表は当たる、という言葉が増えた。
リディアが二枚の到着札を並べると、次の予定を聞く者が公開板の前に残った。薬舗の主人は、空の棚へ「第4日第2鐘予定」と書いた札を掛けた。
夜、彼女は第3便の公開文を記録室へ持っていった。以前なら、アレクシスは夜の机で軍道側の遅れと商人の予定を照らし、書けない地名だけを裏紙へ伏せた。冷めた茶を二人とも忘れ、夜番が扉を叩くまで紙を広げることもあった。
その夜、机には一客しかなかった。もう一客を置いていた場所には、黒い紐の軍務筒が載っていた。
「運行表の確認は、明日の執務時間に」
アレクシスは黒い紐を掛けた軍務筒を閉じ、書記へ渡した。筒に何が入っているか、リディアの閲覧欄はない。
「公開時刻だけでも、今夜中に南へ送らなければ」
「領印は押した。商用表の控えは会計吏が持っている」
リディアは、二台の到着を第6月第4日第2鐘、遅延訂正を同日第1鐘とする公開文を持ち帰った。供給者と品目は出し、道、宿、護衛は伏せた。
第29日第1鐘、既存便の空荷車でリディアと六人の護衛が南へ向かった。これは二日後に一行を降ろしてさらに南へ帰る回送車で、カミラが用意する二台と荷馬二頭には数えない。
出発前、トーマは、第17日と第24日の公開到着から各三日前に、札のない現金客が替馬二頭、三頭を買った売買抄をガルドへ渡した。二便は無事で、二枚だけでは禁じられない。第1日にも同じ動きがあれば出発前に知らせる手紙を検量係へ付けた。
第6月第1日第1鐘、一行が南荷出し所へ着くと、回送車は南へ去り、六頭の騎乗馬だけが厩へ入った。出発予定の第3鐘まで、あと二刻だった。




