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私はもう保証人ではない

王太子の書記が三十七本の経路名を読み上げる前に、リディアは最終頁を押さえた。


辺境祭で使った壇は、東石橋の損害受付台へ変わっていた。香辛料、粉、革紐、陶器。昨日から増えた申告札を端へ寄せ、その中央に王家の再保証案が置かれている。第3鐘が鳴れば、待っている住民にも内容を示さなければならない。


「十日間」


リディアは期間欄を確かめた。指先で、紙の端を一度ならした。


「その間に、後任三名へ順次移す。東治癒院の四病棟を第一順位とし、地方連絡は蓄積の残る順に戻す」


向かいに立つユリウスは、昨夜の外套から王太子の礼装へ着替えていた。長靴だけは泥の染みが落ちていない。


「王都へ着いてから決めた案ではない。ヴァルターと出立前に組んだ。十日あれば、三名の負荷を測れる」


「非常時再接続の条項を使うこと自体は可能です」


広場の入口で、橋の損害札を抱えた者たちが足を止めた。ユリウスの後ろにはセレスティア、王宮書記、近衛長。その一歩外側に、見慣れない黒髪の男が青い革箱を持っている。


「では署名を」


「先に四点、伺います。三十七件を戻した時、私の容量をいくつと見積もりましたか」


ユリウスが書記を見る。書記は別紙を探し、首を横に振った。


「前に支えていた」


「解除前、右手の震えは日ごとに増えていました。途中で止める身体所見は、どこですか」


返事はなかった。リディアは次の欄へ指を移した。


「記憶が抜けた場合に、本人に代わって停止を求める人がいません。停止を実行する正規印も決まっていない。再接続で古い損傷が戻る可能性にも触れていません。いずれも空欄です」


「十日で命を失う負荷とは考えていない」


「誰が測りましたか」


ユリウスの声が低くなった。広場の入口まで届く声ではなかった。


「測るためにも、本人が王都に必要だ」


広場から、紙を擦る音が消えた。三十七件へ一度つないでから危険を調べる。その順を、リディアは六年前にも見た。一件を説明されて署名し、気づけば頁だけが増えていた。


「先につながなければ、分からないことはあります」


リディアは紙から手を離した。

「ですから、分からない危険も本人へ伝え、断った時に何が起きるかを含めて同意を取る必要があります。非常条項は、その順を消しません」


「今も東治癒院は、新しい患者を二病棟で受け入れられない」


「四病棟だけを戻す案も調べた」


ユリウスは二枚目を開いた。治癒院線を第一順位へ置くと、同じ蓄積石につながる南水路と穀倉線が下がる。切れたままの三十五件を避けて二件だけ通せば、戻り先のない流れが第四灯へ集まる試算だった。


「三十七件を以前の形へ置き、低順位側を閉じたままにする方が、十日の消耗は小さい。患者のためと言いながら、何も調べず連れ戻しに来たわけではない」


その頁にはヴァルターと二人の契約官の署名があった。リディアは計算を追った。数値は合っていた。身体所見の欄は、二枚とも空白だった。


「セレスティア様の出力は」


呼ばれたセレスティアが、自分の書面を開いた。祈るのは一日二刻まで。脚から胸へ痛みが上がった時点で止め、本人が拒んだ寝台へは流さない。末尾には、昨日の夜に本人が加えた傍書きがある。


「こちらは、わたくしが読みました」


声は広場の端まで届かなかった。セレスティアは一歩前へ出ず、署名した場所をリディアへ見せた。


セレスティアの紙の停止欄には本人の署名があり、リディアの再保証案では同じ位置が白かった。


「君の返書を待つあいだにも、薬師は床を減らした。三名の訓練が終わる前に病が広がれば、地方から祈りを集めるにも一つずつ許可を取るのか」


「その時間で亡くなる方がいるかもしれません」


リディアが答えると、見物人の間が揺れた。


粉袋を流されたマルタが、包帯を巻いた手を上げた。そこには損害札が握られていた。


「戻らないなら戻らないでいい。こっちの粉や薬まで止める話なのかい」


「その可能性があります」


リディアはマルタを見た。包帯を巻いた手の損害札まで、視線を下ろした。


「王家の優遇を受ける荷と、地方だけで結んだ線を、同じ条件では扱えないと殿下はお考えです」


「私が命じて薬を止めるとは言っていない」


ユリウスはマルタから広場へ向き直り、言葉を継いだ。

「ただ、王家標準へ接続しない領へ、商業倉と神殿の優先枠を当然には残せない。事故が起きた時だけ全国の備蓄を求め、平時の規則は拒むなら、別の地方が費用を払う」


不満の声は、今度はリディアの側へも向いた。南井戸の女が、子の薬はどちらの印で来るのかと聞いた。白石の男は、王家の種子貸付まで外れるのかと確かめた。リディアには、どちらも今すぐ保証できなかった。


アレクシスは彼女の隣へ来た。だが、再保証案には触れなかった。


「ヴァルハルト領が出せるものを言う」


彼は広場へ向け、片手を開いた。出せるものを数えながら、指を一本ずつ折った。


「王都技師のための作業室を出す。三十七経路の写しには、運ぶ護衛を付ける。後任を受け入れる宿も用意する。リディアが遠隔照会へ答える時間を確保し、その費用を領が出す。領内施設を試験に使う時は、施設責任者と私の印を先に出す」


ユリウスが彼を見る。アレクシスは、リディアの前へは出なかった。


「彼女の拒否も、領が保証するということか」


「彼女の身体へ、私の印は置けない」


アレクシスはそこで言葉を切った。まだ開いていた指を、下ろした。


「領が負う費用だけを、領の名で引き受ける」


リディアは王家案を閉じた。


「点検図、後任訓練案、症状が悪化した時の照会には応じます。十日の三十七件再保証には署名しません」


ユリウスは、閉じられた紙をしばらく見ていた。十日間の数字は、その内側へ隠れていた。


「婚約を戻せと言っているのではない」


「分かっています」


「王都へ来ても、君を以前の部屋へ戻すつもりもない」


「それも、分かっています」


リディアは王家案の紐を掛け直した。幼い冬に運ばれたスープも、夜更けの記録室も、どの欄にも戻らなかった。


「私はもう、保証人ではありません」


ユリウスは閉じられた王家案から目を上げた。拒否と技術協力を同じ行へ書くよう、書記へ命じる。


第5鐘に、王都へ戻る一行が動き始めた。入れ替わるように、青い革箱の男が損害受付台へ進んだ。


「王都商会統括、グレゴール・ハインツです」


彼は薬草第一便の受領札を置いた。その横に、返品された湿損束の札を並べた。


「王家標準外の受領規則が八つ、十六、三十と増えれば、回収対象の荷を同じ倉へ戻せなくなる。王都倉は十二地方の在庫を動かします。一領だけ、悪い束も呼び戻せない仕組みにはできません」


「この場で取引を封鎖なさるのですか」


「再審査へ移します。止めるのは優遇枠です。通常取引は、保証金と検査条件が整えば申請できる」


グレゴールは、辺境を懲らしめる顔をしていなかった。大きな倉の棚を一つ空け、そこへ別の荷を入れる時の顔だった。


青印が、次便の受領欄へ落ちた。乾く前の印の下で、届け先だけが白く残った。


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