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春のあと、言えなくなったこと③

帰ってから、寝る前に、リサから送られてきたアプリのリンクをもう一度見た。「緊張しやすい人へ」「自己肯定感を整える」「自然な自分へ」やさしい色合いの画面。安心させるような言葉の並び。それらを眺めながら、雪乃はしばらく動けなかった。やめておいた方がいい気がする。そんなもので変われるわけがない、とも思う。でも、それでも。少しだけなら。試すだけなら。そう自分に言い訳して、雪乃は指先でインストールの表示を押した。


最初に使った夜のことを、雪乃ははっきり覚えていた。部屋の明かりを落として、ベッドに腰を下ろし、イヤホンを耳に差し込む。アプリを開くと、落ち着いた色の画面に、短い案内文が表示された。

「深呼吸してください。無理に変わろうとしなくていい。少しずつ、楽になりましょう」

どこにでもありそうな文面だった。それなのに、その日はどうしてか、ひどくやさしく見えた。


音声は、穏やかな女の声だった。急かしもしない。責めもしない。ただ、呼吸に合わせて言葉を落としてくる。

「肩の力を抜いて?考えすぎなくていい。いまは、何も考えずに、ただ私の声に耳を傾けてください。」

雪乃は、途中から自分がどこまで意識して聞いていたのか、よくわからなくなった。眠っていたわけではない。けれど、いつものように頭の中であれこれ考え続ける感覚が、少しだけ薄くなっていた。


イヤホンを外したあとの部屋の静けさは、いつもよりやわらかかった。それだけだった。何か劇的に変わったわけではない。急に明るくなれたわけでも、誰とでも喋れるようになったわけでもない。でも、翌朝、目が覚めたとき、少しだけ身体が軽かった。そんな気がした。変われるかもしれない。そんな予感がした。

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