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春のあと、言えなくなったこと②

リサに声をかけられたのは、その少しあとだった。学食の隅で、ひとりでトレイを持って空いた席を探していたとき、隣にするりと座ってきたのがリサだった。明るくて、かわいくて、誰とでもすぐ打ち解ける子。同じ講義で顔を合わせることは何度かあったけれど、こんなふうに距離を詰められたのは初めてだった。


「雪乃ちゃんってさ、最初ちょっと近寄りがたかったけど、喋ると全然そんなことないよね」

「え……そんなこと、ないよ」

「あるある。雪乃ちゃん、自分で思ってるより損してるタイプ。でしょ?ほんとはもっと色んな事、イージーモードでやれるのに」


リサはそう言って、紙パックのカフェオレにストローを差した。何気ない口調だった。押しつけるような感じはないし、馬鹿にしているふうでもない。ただ、あまりにも自然に言われたせいで、その言葉は雪乃の中に小さく残った。損してるタイプ。ほんとはもっと楽にやれる。そんなこと、自分がいちばん思っていた。

「雪乃ちゃんって、緊張しやすい?」

「……うん、たぶん」

「だよね。私も前、そういうのちょっとあったからさ。今、スマホのアプリでそーゆーの『整える』の使ってるよ。寝つき良くなったり、気持ち切り替えやすくなったりするやつ」

「アプリ?」

「自己改善系っていうのかな。怪しいやつじゃなくて、音声流してリラックスするとか、そういう感じ。結構いいよ」

雪乃は曖昧に笑った。怪しい、と思わなかったわけではない。けれど、そう思った自分の横で、別の自分が小さく顔を出していた。もし本当に少しでも変われるなら。もし、もう少しだけ人前で楽に笑えるようになるなら。


その日の帰り道、雪乃は講義棟の前で彼を見かけた。話しかけようか迷って、結局、少し遠回りをしてしまった。向こうはこちらに気づいていなかった。それだけのことなのに、胸の奥がちくりと痛んだ。

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