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春のあと、言えなくなったこと④

そのことを、リサに言ってしまったのが次の一歩だった。講義の合間、リサは自分のことみたいに笑った。「え、よかったじゃん。ちゃんと合ってたんだ」

「……うん、ちょっとだけ、楽になったかも」

「でしょ? 雪乃ちゃん、たぶんずっと肩に力入ってるんだよ。そういうの、ちゃんと緩めないと損」

また、その言葉だった。雪乃は少しだけ笑って、「そうかも」と返した。そう答えると、リサは満足そうに頷いた。

「続けてみなよ。毎日ちょっとずつでいいから」


その“毎日”は、思っていたより簡単に日常に入り込んだ。寝る前に一回。朝、気持ちが落ち着かないときに短い音声を一回。講義の前、少し緊張するときに、呼吸を整えるメニューを少しだけ。使うたびに劇的な変化があるわけではない。それでも、使ったあとの数分だけは、胸のあたりに張りついていた薄い膜が少しだけ軽くなる気がした。考えなくていい時間。ちゃんとしていなくても許される時間。雪乃は、それを“楽”だと思ってしまった。


数日後、学内で彼に会ったとき、いつもよりほんの少しだけ自然に話せた気がした。

「最近、講義どう?」

「……思ったより大変、かも」

「わかる。最初、ペース掴むまでしんどいよな」

彼が笑う。雪乃も、つられるように少し笑った。ほんの数分。ほんの少しだけ。でも、帰り道、そのやり取りを何度も思い返してしまうくらいには嬉しかった。もしかしたら。少しずつなら。本当に変われるのかもしれない。その夜、雪乃はいつもより素直にアプリを開いた。

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