第60話・リユニオン・ウィズ・ジ・ディーシスト
別に最終回というわけじゃありません
世界が超やばいとメサイアは絶望的な語彙で危険を僕へ告げた。
「……はあ」
こいつ、自分のことを頭の良い人形とか自称していた気がするが――
思わず、僕も返しに呆れが混じる。
「コホン、説明しよう。君たちの住むここ『トラウアンデ大陸』は旧人類が作った巨大な人工島なんだ。別名、トラウアンデ・レリックね」
「人工島?これが、この大陸がレリックだって言うのか!?だとすれば、何でそんなものを作ったんだ!?」
旧文明にこんな巨大な島を作る技術力があるとしても、そこに彼らが言う新人類たちを住まわせる理由が見つからない。
わざわざ、自己で衣食住を賄える大陸を作り人を住まわせるとすれば――
「気づいたね。そう、この大陸が存在しなければいけない理由はちゃんとある」
「……まさか、養殖場なのか?」
「大正解。旧人類が新人類の体に転生するための世界。死者と再会する場所『リユニオン・ウィズ・ジ・ディーシスト』と呼称するべき場所だよ」
その意味は『死者との再会』
今回、僕たちの前に現れ牙を向いたたのは旧時代に死んだ人間たちが現世に転生して来た姿。
「それで、どうなるんだ?」
「もうじき、そう長くない後に『大転生』って言うこの大陸にいる全ての人類を対象に旧人類の魂が置換する魔法が発動する」
「それって、アンルーフに起こったようなことが全人類に起こるってことじゃないか!」
転生が起これば、アンルーフのように意識は完全に消えて置換される。
すなわち、もうじき全人類に死が訪れるという事ではないか。
「うん。だから、それを何とかするために君に力を貸してほしいってわけ」
「それは、願ったり叶ったりだけど。旧人類に作られたお前にどんなメリットがあるんだ?」
作られた存在。
それが、わざわざ作り手の意志に反して転生を止めようとしている。
それは、新人類たちの命を救うと同時に、旧人類たちを滅ぼすことも同義だ。
「……」
数秒の沈黙の後――
「僕は、無涅 槃になりたい」
「お前はそうじゃないのか?」
「そうだけど、そうじゃない。所詮、コピーに過ぎない……本物はとっくの昔に仲間を逃がすための殿になって殺された」
「そ、そうなのか。立派な……いや、壮絶な最期だったんだな」
AIとやらがどういった物かは全く知らない。
だけれど、彼の言葉には確かな悲壮感があったし、人間と言われても正直頷いてしまう。
だからこそ、下手な言葉選びは出来なかった。
「それで、お前はその『大転生』を止めれば無涅 槃になれると思っているわけなのか?」
「……正確には、無涅 槃ならそうした。必ず、今進んでいる人々の歩みを過去の者たちが奪っていいはずがないとそう言うはずだから」
「同感だ」
「そりゃあ、まあ、うん……」
共感しただけだというのに、メサイアは何か言いたげに言葉を濁す。
「それで、どうすれば『大転生』を止められるんだ?」
まだ、肝心の部分を聞いていなかった。
それこそ大陸の命運がかかったような大魔法をどうやって止めればいいのか想像もつかない。
「簡単さ。この島の中枢。いわば心臓部……魂の集積機関としての役割を果たしているハードとしての『人機兵装メサイア』を破壊するんだ」
「う、うん?どういう事?お前がメサイアなんだろ?」
「僕は言うなれば中身。だけど、実際に動く手足や頭を動かす権限が無くてね。結局、破壊するしかないんだ」
考えてみればこいつはさっきから姿を現さず声のみで対話している。
メサイアの言うことが本当なら、わざわざ僕をこの場に呼び寄せたのにも説明がつく。
「待て、待てよ」
だが、彼の言葉を頭の中で咀嚼していたタイミングである疑問にたどり着いた。
「魂の集積機関。そこには、死んだ魂が集まってるんだよな」
「うん。旧人類の魂がそこに集められて一括で転生させるわけだからね」
「き、旧人類だけか……」
「もしかして、誰か会いたい人がいたのかい?」
頷く。
もしも、そこに魂が集まっているとすれば僕の目標とするおばあちゃんとの再会も可能かもしれないと考えた。
だが、そう上手くはいかないらしい。
「残念だけど集まってるのは旧人類だけだから……いや、待てよ。君のおばあちゃんの名前を聞かせて欲しい」
「な、名前を?いいけど、ナナ・アキトキだよ」
「ナナ・アキトキ……ナナ・アキトキ?」
家名は現在の貴族の物ではないが、おばあちゃんは自身を没落した騎士の家の生まれだと言っていた。
名前の方も、別に珍しい物じゃない。
「ナナ・アキトキ。アキトキ・ナナ……明時 無無!?」
「うわっ、何だよ。急に大声出して」
「いや、君のおばあちゃん転生者じゃないか!!しかも、よりにもよって無無先輩かよ!?」
「おばあちゃんが転生者!?」
まさかの事実。
しかも、メサイアの反応を見るに彼の――いや、正確には無涅 槃の知り合いだと推測できる。
だが、考えてみればおばあちゃんはどこか浮世離れしていた部分が多かったと思う。
そもそも、奴隷商から労働力が必要というわけではないのに僕を買って学園まで通わせる時点でおかしい。
「なるほどね。何で、君に阿歩炉の魂が入っているのか謎だったけれど転生させたのは先輩か……」
「まあ、それは良い。それよりも、一度転生しても『人機兵装メサイア』に戻ってこれるのか?」
「理屈的には戻ってこれるし再会も出来なくはないと思うよ。でも……」
言葉を濁す。
結局の所この場では、知ることができないという事だろう。
「そう、か。なら、最後に一つ聞きたいことがある」
何となく予想はついている。
だが、それでも聞いておかなければいけないような気がしたんだ。
「どうして、僕を選んだの」
「理由は二つある。一つは、君が転生済みだというのに意識を保っていること。二つ目は後付けだけど……」
ここまでは予想通り。
だが、二つ目があるのは予想外だった。
「君の寿命が短いから」
「……どう、して」
最近も慌ただしい日々が続いていた。
だが、その中でも僕はほぼ常に冷静な面持ちを崩すことはなかったと思う。
だけれど、今この瞬間だけ僕の鉄仮面が外れてしまったのだ。
「この部屋に入った時点で君の体を調べさせてもらった。毒が効かないのは便利だけど……魂と肉体の整合性があってないから時期に死ぬよ」
「魂と肉体の整合性。なるほど、そりゃあ原因がわからないわけだ」
「やっぱり、わかってたんだ」
「自分の体だからかな。わかるんだ、明らかに衰えてるって」
肉体はそこまで顕著ではないが魔術がまずい。
基本的に力押しではなく技量で戦っていくタイプなので誤魔化しが効いているが、数年前と比べて明らかに弱くなっている。
「あと、どのくらい生きられる?」
「運がよくても二年くらい。けれど、まともに動ける時間はもっと短い。それこそ、数カ月くらいかな」
「十分だ」
拳を握りながら、そう呟く。
数カ月あればその間にアフェたちを育て独り立ちさせるのも良し、誰かに託すも良し。
「安心した」
言葉通り、心底安堵した。
幸いにも信頼できる伝手なら自信がある。
それだけ時間をもらえればあの子たちの未来を守ることが出来るだろう。
「やっぱり、君を選んで正解だった」
「短い寿命が良いってことは、行くのは死地か」
「そうだ。あそこには、旧人類の守護者たる最強の番人が待ち構えてる。だが、君の天地開闢ノ創世歌なら問答無用で倒せるはずだ」
「最悪、自分事ね」
自分が死ぬと言われても大して恐怖はわかない。
むしろ、笑みが浮かぶ。
この状況、おばあちゃんと再会できる可能性を掴みながら、かけがえのない仲間たちの未来を守れるというこれ以上ない良いシチュエーションだ。
「これで話は終わりだ。聞くまでもないと思うけど、僕と一緒に救世主になってくれない?」
「僕の命で……誰も、誰も失わずに済むのなら」
「なら、これは餞別だ。持って行きなさい」
そう言うと、目の前の地面がせりあがり柱となったと思えば頂上が開いた。
「ブレスレット?」
「腕時計型端末だよ!?コホンっ、これには僕の分身が入っている。きっとこの先の戦いで役に立つだろうね」
「そうか、なら貰っていく」
よくわからないが、ともかく役に立つそうなのでもらっておく。
そして、右腕に着けようと手首に重ねると自動で巻きついた。
「それで、人機兵装メサイアはどこにあるんだ?」
「せっかちだな。いや、そのね……わからないんだ」
「は?」
「し、仕方ないじゃないか。使えるリソースには限度があるんだから」
仕方ないでは困る。
こちとら、ついさっき覚悟を決めに決めまくったというのに鼻を折られた気分だ。
「でも、策が無いわけじゃない!人機兵装メサイアが魂の集積機関ということは旧人類が倒されれば自動的に戻っていくわけで……」
「却下。それって、要するに殺せってことだろ」
甘いと言われても仕方ないが、必要以上の犠牲を出したくない。
というか人を殺したくない。
「違う違う!!その、腕時計を使うんだ」
「このブレスレットを?」
「腕時計型端末!!端末って呼んでもいいから……で、それも君たちがレリックと呼ぶ物の一つなんだ。適当に押してみて」
何故かブレスレットと呼ばれることに酷く拒否反応を示すメサイア。
言われ通り、適当に押してみると光を放った。
「この状態で敵に押し当てて『初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった』『輪廻返還』って詠唱するんだ」
「すると、どうなるの?」
「魂の結び付きが弱ければ転生が解除されて元の場所に戻る。つまり、集積機関を辿れる!!」
「……へえ、そりゃあいい」
すると、僕は適当に端末を押して光らせたのちに自分に押し当てる。
「『初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった』『輪廻返還』……何も起きない」
「君と阿歩炉の魂は相当結びつきが強いんだろうね」
「そっか、って……いや、無理か」
一瞬、もしこれが先ほどの場であればアンルーフを取り戻すことが出来たんじゃないかと考えた。
だが、メサイアは動けないし、存在がバレていたら真っ先に殺されていただろう。
「じゃあ、はい。これで終わり。もう、帰っていいよ」
「雑だな。ていうか、どうやって帰ればいいわけ?」
「抵抗するなよ。『強制帰還』」
「ちょっ……!?」
そう唱えた瞬間――僕は有無を言えないほどの速度でその場から消え去った。
***
「……これで、良かったのかな。無無先輩」
無機質な体では天井すら仰げず、ただ悲し気に残されたメサイアはそう呟いた。




