第59話・壊レタ世界ノ真実
邪悪な存在は無へ変わった。
「うっ……」
洞窟の空気すら薄くなったせいか、魔力の大部分を消費したせいか、それとも左腕を失ったからか、わからないが視界がふらつく。
だが、倒れるわけにはいかないと意志の力で立った。
「遺品は……流石にないか。タキオンの方もなさそうだな」
天地開闢ノ創世歌は全てを無に置換する魔術。
これを、食らって無事だった物を僕は一つも見たことが無い。
タキオンには悪いが遺品は、あの毒付きナイフにしてもらおう。
その後、自分の左腕がどこかに落ちていないかと思ったが、完全消滅させられている様で影も形もなかった。
「さてと、帰りますか」
ということで、踵を返そうとしたその時だった。
僕たちが入って来た洞窟の入り口が塞がれ、真っ暗になる。
『待って、待って!!』
「そりゃそうだよね、明かりくらいはつけてくれる?もたもたしてると、壁壊して出て行くけど」
突然の出来事にも慌てることはない。
頭の中がアドレナリンでイカレてしまったのか――それもあるが、ここまで薄々何かに導かれている感覚はあった。
『本当にやめて!……っと、ほら穴開けたから入ってきて』
そう言うと本当に入り口とは反対側に穴が生まれる。
「どこに繋がってるのこれ」
『そりゃあ、僕の元にだよ。色々な事情があって、自立行動が出来なくてね。君に来てもらう他ないんだ』
「じゃあ、何で僕を呼ぶ?」
『それも、全て入って来てくれたら話すよ』
正直、残った魔力で壁を破ることもできないことはない。
(ただ、流石に魔力が心もとないな)
この状況で下手に抵抗して長引くのは困る。
道中の魔物に食い殺される可能性もずっと上がるだろう。
ということで、深いため息をついた後レインボーソードを拾い納刀してから誘われるままに声の主が待つ穴に足を踏み入れた。
***
洞窟の中から数歩進めば、壁は土塊へと変わる。
ここまでは、対した異変ではなかったがある時から足元から返って来る音が固くなった。
「……なんだ、これ」
進めば、進むほど僕の脳みそは理解不能の渦に叩き込まれていた。
辺りの壁が、動く、光る、音が鳴る。
一瞬、レリックの類かと思ったが魔力はほんの微細に漂っている程度
まるで、巨大な魔物の腹の中にいるような気分だった。
『ようこそ。愚かなる新人類よ。偉大なる我が名を知らぬはずがないな!!』
「知るわけないだろ」
暗闇の中、興奮したような声が響く。
だが、当然どこの誰か知るはずないので冷たく突き放した。
『そ、そりゃそうだよね。人に会ったのは数千年ぶりくらいだから興奮しちゃって……その、悪いとは思ってるんだよ』
「数千年ぶり?お前は一体……ていうか、人間なのか?」
大陸の南側の温暖な地域の王国に住むエルフたちでも最高は千歳前後だと聞いている。
だが、声の根源は老人というか僕よりも十歳くらい年下の男に聞こえた。
その瞬間、急に暗い部屋を眩い光が照らした。
「うっ……」
右腕で急な光を遮りながら、目元をこすると世界が徐々に鮮明になって来る。
けれど、視線のその先には目を疑う光景がそこにはあった。
「人間……じゃない」
『そうだ、人間じゃない。俺は『影山 阿歩炉』と呼ばれ、私は『強化人間プログラム』と呼ばれ、僕は『無涅 槃』とも呼ばれた存在……』
どこかで聞いたような自己紹介。
だが、そんなことよりも目の前の存在は生気がなく、確実に物体だというのに意志を持ち話している。
「決死人機兵装メサイアだ。ハードウェアじゃなくて、ソフトな方ね」
「ハード?ソフト?本当に何言ってるんだ」
「AI……って言ってもわからないか。うーん、機械もわからないだろうし、自分で考えられるめちゃくちゃ頭の良い人形、みたいな?」
「自動で動く自動人形に近いってことか」
王都の劇場でたまに使われている人形で、魔力を流せば決まった動きをする物もあると聞く。
ただ、目の前のそれは顔もないし、体もない、更に無機質な存在に思えた。
けれど、喋り方だけはやけに人間味を感じる。
「そう!そうそう!!よくわからんけど、多分そう!」
「適当だな。それで、何て呼べばいい?」
「メサイアでも、メグルでも、阿歩炉は……マズいな。個人的理由から名乗りたくない」
「そうだ、お前は影山 阿歩炉と何か関係があるの?」
僕の中にいるもう一人の俺。
そいつも、目の前にいる顔のないメサイアと名乗るこいつと同じ自己紹介をしていた。
「うーん。あるというか、本人というか。もちろん、君の中に影山 阿歩炉がいるのもわかってる。説明しづらいな……」
「だから、一体全体どういうことなんだよ!?」
「簡単に言うと影山 阿歩炉が洗脳されたのが無涅 槃って感じ?強化人間プログラムさんは、洗脳道具?なのかな?」
つまり、最初に影山 阿歩炉がいて、それが強化人間プログラムによって無涅 槃に変わったという事ではないか。
それが本当だとすれば、無涅 彼岸に阿歩炉を洗脳されたという話もつじつまが合う。
「ってことは、三重人格?」
「そう!そうそう!まさに、その通り!!そのうちの、無涅 槃の意識を転写して生まれたのが僕ってわけよ」
「じゃあ、僕には影山 阿歩炉の人格が宿ってるってこと……なのか?」
そうだとしたら、目の前にいる無涅 槃とあの雪原の荒野に佇む影山 阿歩炉の性格は相当違う。
それが、洗脳とやらの影響なのか。
――でも、あの変貌は他にも何か理由があるような気がした。
「本来はありえないけどね。だって、アイツは……いや、そんなことよりも本題に入ろう。君の体だってマズいだろうしね」
「ああ、手早くしてくれ」
すると、コホンと仕切り直すように喉を鳴らすと続ける。
「一言で言おう。世界が超ヤバい!!」
絶望的な語彙で、緊張感のある事実を告げてきたのだった。




