第53話・輪廻転生
転換編ラストバトル……?
俺が目覚めたのは、ちょうど黄昏の時の頃。
ルフトズのクランマスター専用の部屋で倒れていた。
「……うっ」
目の前にあるのは一目見て禍々しいと感じる本。
今にも焼却処分してやりたい衝動が沸き上がるが、それを抑え手を伸ばす。
「あ、あぁああああ!!」
その本に触れた瞬間、濁流のように記憶が俺に流れ込んでくる。
アンルーフであった時の記憶、かつて生きていた頃の記憶、この本の使い方など、複数の記憶が混ざり合い、しばらくは頭を抱え続けたが――
(なぜ、こんなことになった?)
自身の最後――何となく死んだことは覚えているがうまく思い出せない。
だが、前後のことはある程度覚えている。
「俺は、確か……テロを、そうだ防衛大臣を暗殺して日本を武装国家に変えるつもりで、それと……」
しかし、その目論見はある少年に敗北したことで叶わぬことになったはずだ。
「そうだ、阿歩炉の汚名を雪ぐ。そうだ、そうだ!!」
自身の悲願にして、本当の願い。
死んだ息子の汚名を拭うことで、親として生前何もできなかった悔いを果たそうとしていたのだ。
「……だが、この世界なら」
自分自身が蘇ったように、この本を使えば息子をこの世界に呼び出すことが出来るのではないか。
もちろん、これをすれば元の人格は塗りつぶされるだろう。
(適当な者を使って呼び出すとしよう。何、幸いにもこのクランとやらには屑がたくさんいるようだしな)
だが、この後俺は何度も失敗しその狙いは――
***
「息子の器!!」
僕達を歓迎したのは、アンルーフの皮を被った全く別の男の興奮した声だった。
目は血走り、到底正気には見えない。
なおかつ、傍らに倒れるタキオン。
それを見てこの場でその場から動かない奴はいない。
「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者らに勝利の加護を与えたまえ。”強化の奇跡”』」
すぐさま全員戦闘態勢に入り、前衛は前に出て、ファナさんが全員に強化をかける。
それに対し、相手は手に持つ見ただけで眉間に皺が寄ってしまうほど禍々しいオーラを放つ本に魔力を込めた。
「『提唱・絶望斥く神の奇跡』」
「なっ、近づけぬぞ!!」
「何かに押されてます!!」
魔法が成立すると同時にベラルトさんとイージスがじりじりと後退し始める。
だが、何か押すような物はどこにもない。
(見えない力が働いてる?弾く魔法か……!)
どこまでが限度かは知らないが、ベラルトさんが押されるということは相当強い。
「っ!!アイツの魔法の正体は斥力と引力、それに空間を裂く魔法よ!」
「助かる……!前衛は空間を裂く魔法ってやつに要注意!!」
どうしようかと思案を巡らせたその時、息も絶え絶えな声でタキオンが奴の魔法を知らせてくれる。
本当に値千金の情報だ。
正体不明でないなら、いくらでもやりようはある。
「それだけだと思ったか」
だが、また奴の気配が更に重くなる。
「『提唱・重責圧し潰す神の奇跡』」
「くっ、今度は体が重く……!全員、魔力を纏って!少しはマシになる」
「纏えって言われても、対抗できるのはベラルトかあんたくらいよ!!」
「わ、私も一応行けますよ!」
奴の魔法がかかると同時に体に重りでもつけたように重くなりその場で膝をつく。
何とか、魔力を纏うことで魔法を相殺してはいるものの他に動けるのは力の強いベラルトとイージスくらい。
(斥ける力に、引き寄せる力、押しつぶす力。なんか、覚えがあるぞ。あれは、まさか……)
魔法の発生源である、あの本をじっくり見る。
「その本、魔王が持ってたやつじゃないか!!」
「ああ、そうか君は魔王を倒した騎士たちの一人だったね。そうだ、この体の主が持つ伝手を総動員して手に入れたんだ。結局、本人が使うことはなかったがね」
僕がまだ騎士であった頃。
北の大地に住む魔族たちの王である魔王がクーデターによって退位し、新たな魔王が生まれた。
そいつが、僕たちの国に進軍してきたせいで戦争となり、長期化を防ぐため選抜された少数精鋭で魔王を討つことになったのだ。
その時も、今のようにあの本に大変苦戦させられたのを覚えている。
「気を付けろ!あの本はあらゆる力を操る魔法を使う。浮力も重力も引力も斥力も使いたい放題だ」
「なんだと!?だとしたら、あの空間の魔法は一体何なのだ?」
「僕もわからない。あんな魔法見たことが無い!」
それに原理はわからないが、あの本を使っても魔力が減らないのか平気で何十発も連発して来る。
だが、弱点が無いわけじゃない。
「その代わりあまり射程は長くない。なるべく距離を取ればかかる力もそれほどじゃない!」
「大体の魔法が知られているか。なら、これはどうだ『限定徴兵命令・加具土神之腕!!』」
「召喚魔法まで扱えるのか!?」
体を乗っ取られたアンルーフ本人の刻印に魔力が通ると同時に奴の両脇から白い渦が現れる。
そこから伸びてきたのは見るだけで熱くなるほど燃え滾った巨大な両の腕。
(白い渦……ベスクワルが最後に出した契羅機神と近い何かか)
明らかに人や単なる魔物の類ではないことは確かだ。
幸いにもここが狭いおかげか完全顕現は避けられたものの脅威である事に変わりはない。
「さあ、第二ラウンドだ!」
「ッ!!」
撤退も視野に入れながら奴のコングと共に戦いは激化していく。




