第51話・理論上生まれた解
魔法、それは魔術の引き算によって生まれたものである。
詠唱を短くするため、言葉を刻印とし体に刻みそれを先祖代々受け継ぐ過程で他家と混ざり進化していく。
そのため――
「『業風炎花!!』」
このように刻印を一部起動させれば混ざる前の魔法を使うことが出来るのだ。
詠唱と同時にタキオンが向けた掌の先から大火が生まれ男を襲う。
火と風、基本の二つを同時に発生させ指向性を持たせた第三世代魔法である。
「この本の魔法を使うのは癪だが、仕方あるまい『提唱・絶望斥く神の奇跡』」
「召喚魔法じゃない!?」
それに対し、男は懐から取り出した禍々しい本を構え詠唱する。
すると、真っすぐ男の方に進んでいた大火は急に止まり、届くことはない。
「止まった。一体、何の魔法なの……?」
「それだけじゃない」
そう言うと同時に、業火の螺旋は彼女の方に進路を変えて戻ってきていた。
「『土灼水壁!!』」
しゃがみ、地面に手を当てながらタキオンが詠唱すると目の前にせりあがって来る彼女の体を隠せるほどの巨大な壁。
それが、業火に飲み込まれながらも彼女を守り抜き過ぎ去ったと同時に壁は崩れ去る。
(土壁?いや、性質は耐火レンガに近いものだな。だが……)
などど、冷静に男は分析する。
そんな中で、不自然な個所も発見していた。
「なぜ、粒子加速を使わない?」
彼女自身の名を冠した魔法。
理論上は光速にまで加速できるという破格の能力を持つというのに、これまで使ってきたのは汎用の魔法ばかり
「使って欲しいの?欲しいなら、使ってあげますよ」
「手加減ならやめておいた方がいい。呼びかけようが、何をしようが、この体の主が戻ることはない。君がすべきことは、俺を殺し主の仇を取ることだけだ」
「……そう、残念」
重ねて伝えていたはずだが、それでも悲しそうにタキオンは目を伏せる。
しかし、開戦時とは異なり魔法を男にぶっ放してくる素振りもない。
一瞬、洞窟に訪れる静寂。
それを破ったのは、痺れを切らした男の方だった。
「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ『提唱・希望引き寄せる神の奇跡』」
(また、召喚魔法じゃない。一体何を……?)
その疑問の答えはほんの僅か数秒後に痛烈に知ることになる。
本から放たれる禍々しい魔力。
「なっ、倒れ……!」
詠唱が成立した瞬間に彼女の体が前のめりに倒れていく。
それは、急に頭部に謎の力がかかり、バランスが崩れたことによる結果だった。
「ないっ」
突然のことに動揺しながらも、手を前に出し何とか頭からの転倒を回避する。
だが、それは男の狙いの下準備に過ぎなかった。
「ああ、回避する方法もない。『提唱・次元切り拓く神の奇跡』」
「『粒子加速!!』」
タキオンは前のめりになりながらも上目遣いで男の動きを確認していた。
そのため、相手の動きに嫌な予感が脳裏をよぎった瞬間に粒子加速を迷わず起動する。
加速状態に入った彼女は両腕を鞭のように高速に振るう。
(そうか、粒子加速は早く走るだけの魔法じゃない。両腕を振り続ければ、振るう力も強まり続けるのか)
そう、本来なら走って加速したい場面。
しかし、この状態では無理と判断し両腕をひたすら振るうことで加速し続けたのだ。
その終着点は――
「ふんっ!」
「腕の力だけで跳ぶとはな」
指数関数的に増えていく腕の力が求めている量にまで達するのに一秒もいらず。
地面を叩いた勢いで洞窟の天井ギリギリまで跳んで見せた。
この場でとれる緊急回避としてはこれ以上ないものだろう。
事実、彼女がさっきまで倒れていた場所は抉れ塵も残っていない。
「だが、その腕では次はないな」
地面に降り立った彼女は肩で息をしながら血まみれの右腕を抑える。
だが、大きな血管が破れたのか血は絶え間なく漏れていく。
「はぁはぁ、死ぬよりはマシよ」
「そうだな、アレに当たれば君は死んでいた。だが、やはりその魔法の加速には肉体の限界があるのか」
「さあ?もしかしたら、貴方の魔法が掠ったのかもしれなくて、加速は関係ないのかもしれないわ」
「当たったのなら、そんな跡にはならない」
男は当たり前のように自分の魔法を知り尽くしている様で、タキオンのハッタリが通じる様子はない。
「……やって見せる。やるしかない、やるんだ」
彼女は諦めたように観念したように笑みを浮かべながら星の見えない洞窟の天を仰いだ。
自身を繰り返し言葉で鼓舞し、もはや感覚もない右腕の拳を片方の手で握る。
「貴方のいう通り私の魔法には限度がある。加速すればするほど、負担も魔力消費も大きくなるんだ」
「急にどういう風の吹き回しだ。逃げたいと言うなら逃がしても構わないが」
「逃げる?私の魔法は逃げる為にあるんじゃない……」
「っ!!」
雰囲気が変わった。
それを感じ取った直後に男の表情が仏頂面から度肝を抜かれたような顔に変わる。
「誰よりも早く立ち向かうための魔法だ!『粒子加速・限界超越!!』」
本来の粒子加速には、使用者が死なないように自動的にある程度加速限界が決められている。
なので、理論上光速まで加速できるというのは本当に夢や幻の類だ。
(だけど、粒子加速・限界超越は加速限界を外し理論上の世界に踏み込める!!)
男を中心点として、タキオンはその周囲をひたすらに走り回り続ける。
それにより、加速し続ける彼女の体は徐々に熱を帯び始めていたが、それでも加速を辞めない。
やがて、誰の目にも捉えられないまで加速するのだ。
(だけど、これは諸刃の剣。人間の体がこのスピードに長時間耐えられるはずもない。逃げれば、勝手に燃え尽きる……)
だが、男にそのつもりはない。
もちろん、迎え撃つ気満々であった。
手の中で禍々しい輝きを放つ魔法書を用いて
「悪いな、大人はズルい生き物なんだよ。いや、君も大人か、失礼した『提唱・絶望斥く神の奇跡』」
「ッ!?体が……」
ニヤリと口角を上げると同時に、加速し続けていたはずのタキオンが見えない力により減速し始める。
「とる!!」
時間が経てばたつほど不利になる。
そう判断した彼女は周囲で走り加速し続けるのを辞め中央の男の喉元向かって駆け出した。
減速したとはいえ、本来このスピードを見切れる人間はいない。
「早い、確かに”点”で見切るのは無理だな。だが、”面”ならどうだ」
「何で、体が遅く……」
男の真後ろを完全に取った神速の蹴り。
体の節々が焼け焦げながらも放ったその一撃は彼に近づけば近づくほど勢いをすり減らしていく。
「これで、終わり……」
そう告げながら振り向いた直後だった。
「だと思ったのかしら!『粒子加速・再槍の超越撃!!』」
一度加速を辞めたら、再度加速しなければならない魔法の弱点を補うために生まれた魔法。
その能力は――
(一定時間内の加速をもう一度だけ乗せることが出来る!!)
既にあと一歩という所まで来たのだ。
ここで、再加速を行なえば確実に奴の首を取れる。
妨害が来たとしても、この加速状態で貫通できるものはないだろう。
「ああ、終わりだ『提唱・次元切り拓く神の奇跡』」
ただ、そう本当に惜しい。
普通なら、勝利していたのは彼女の方であっただろうが、残念なことにあまりにも相手が悪かった。
タキオンの超加速、それは男の放つ魔法を貫通できず。
「う、そ……」
むしろ、彼女はその魔法によって下半身を失い。
加えて、洞窟の壁に叩きつけられる結果となる。
だが、加速状態のまま弾き飛ばされたせいか、空気に触れた傷口はすぐに焼けてしまい下半身を失ってなおタキオンは生きていた。
「ま、さか、空間を引き裂く魔法……」
「そうだ、火、水、土、風。万物を硬度関係なく切り抉る魔法。それが、提唱・次元切り拓く神の奇跡だ」
それを、せめてもの手向けとして男が伝えた直後――
「お前、何やってんだ!!」
アポロ達一行が、洞窟内に突入した。
『提唱・絶望斥く神の奇跡』
・物体を弾く魔法
・万物を弾けるため、魔法だろうがデバフだろうが効かない。
『粒子加速・再槍の超越撃』
・一度、最高速まで達した勢いをもう一度だけ再加速する魔法




