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第49話・突入!ムーンライトフォレスト



 少し植物の漏れた迷宮の入り口の扉を開ける。


 道中、それぞれ役割を確認しながら、淡い灯を放つレリックで照らされた階段を下っていくと開けた場所にたどり着いた。


「……わぁ」


 誰か、がそう声を漏らした。


 空にあるのは太陽ではなく、月。

 その周りにある星々がまるで化粧のようにその存在感と美しさを際立たせている。


 淡い光が木々や動植物を照らし、何も知らなければ幻想的な物語の世界にでも入ったようだった。


「早速、お出ましみたいだな」


 ベラルトさんがそう言いながらお馴染みの大剣を抜き出すと同時に前衛のイージスも大盾を構え前に出る。


 僕も既に察知している。


「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者らに勝利の加護を与えたまえ。”強化の奇跡(エンハンスメント)”』」


 ファナさんの祈りによって僕達全員に奇跡がかかる。


「これは……!」


 そう感嘆の声を漏らすほど、目に見えて自身の能力が向上したことがわかった。

 それも、精密かつ膨大な魔力を操作し全員に満遍なく強化を施している。


 加えて、単純に筋力だけでなく身体機能が強化されているため魔術もいつもより威力が上がっているだろう。


「来ました。『ムーンライトディア』の群れです!」

「早速Aランクの魔物のお出ましか!」


 僕達という侵入者が森に足を踏み入れようとした途端にそれらは姿を現した。


 目を引くのはまるで雨の受け皿のようになっている二本が一本になった角だ。

 それ以外にも、発達した前足の筋肉から放たれる突進の威力は想像もしたくない。


 それが、視界に入るだけでも十体


「イージス、ベラルトさん。一瞬止めて!『”土”よ。我が身体の中心半径3m先から長さ3m、深さ3mまで”沈み込め”!』


 いつもとは詠唱を少し工夫して二人が魔物の攻撃を一瞬せき止めた隙にい周囲に深さ3mの堀を出現させる。

 ”沈み込め”にそこそこ魔力をつぎ込んだおかげかとんでもないスピードで地面が凹み鹿を次々落としていく。


 だが、順調に事が進んだと思ったその時――唯一落下していない一頭と目が合った。


(『ムーンライトディア』その特徴は発達した前足による突進、そして受け皿のようになった角に光を集約させた光線による焼却……)


 脳みそを光の速さで思考が廻る。


「土煙上げろ、ベラルト!!」

「おう!!」


 敬称も忘れた怒号のような指示がベラルトさん(前衛)に飛ぶ。

 だが、彼は訳も聞かずノータイムで大剣を思いっきり振るうと爆音と共に土煙が上がる。


 その瞬間、土煙の向こう側に光が見える。


 だが、土煙に光が突入したことで拡散したことで熱を発すことはなく辺りを照らすだけだった。


「イージス。大盾上に構えて!!足場にする」

「わかりました!!」


 魔物の大群、堀の出現、土煙の発生、突然の発光。

 状況の変化に追いつけない者にとっては台風のように時間が過ぎ去っていく感覚だろう。


 だが、イージスは僕の声を聞くと迷わず盾を頭の上に構えた。


 そこを足場にし、跳躍し堀を越えたと同時に魔物を目が合う。


「とった」

「フルゥォ!?」


 そのまま、再度光が集約する前にレインボーソードを腰から抜き首を両断した。


 死体が跡形もなく消え魔石に変わったことを確認して、振り向くとベラルトさんを中心にして堀に落ちた他の魔物たちにトドメを刺していた。


「終わったぞ。だが、入り口から手痛い歓迎だな」

「引き返すなら今だけど」

「冗談はよせ、むしろ面白くなってきた。それに、ちょうどオレ達にツキも回って来たみたいだしな」

「……月?」


 カタリナが呟いたように、上に巨大な月が回っているがそうではない。

 ベラルトさんが言ったのは、僕達の足元から森の奥まで続く足跡のことだ。


「足跡、二つある?一つはタキオンっぽいけど、二つ目はアフェにしては大きすぎる。ちょうど、成人男性くらい」


 おそらく逃げている途中についた物だろう。

 逃げるのに精一杯だったのか、ダミーを用意したりして攪乱して来ている様子もない。


「そ、それは、もう一人敵がいるという事ですよね」

「成人男性……もしや、私の愚息ベスクワルが目の届かぬ間に抜け出し迷宮に入りタキオンを合流したのかもしれませんな」

「その可能性も視野に入れて、とりあえずこれを手繰っていこう」


 ただ、口ではそう言っていたがこの足跡の違和感をしっかり見つけていた。


(タキオンの足の上に男の足跡があるってことは、タキオンの方が先に来ていたってことになる。しかも、帰りの足跡がない)


 つまり、行ったっきりで帰ってきてはいない。

 迷宮の内部は時間経過で元に戻っていくため最近の物で間違いないだろう。


(……アンルーフと大きさが同じくらいなんだよな。この足跡)


 だが、目の前に本人がいるためその線はありえない。

 ベスクワルが本当に奥で待ち構えているのか、それとも全く知らない誰かなのか――


 それこそ、アンルーフが二人いるとしたら色々腑に落ちる。


(そんなわけないか、馬鹿らしい)


 そう結論を出し、余計な思考を切りながら僕は仲間たちと共に足音をだどって迷宮の奥に歩を進め出した。




 ***




 迷宮の奥の洞窟の中――

 ぽちゃんと水が落ちる音が木霊するほどの静寂が内部を包んでいる。


 そして、そこにはヴォカによって連れ去られたアフェの姿がそこにはあった。


 彼女は意識を取り戻すと同時に重い瞼を何とか開き、辺りを確認しようとするとそこには彼女の顔を覗き込むヴォカの姿があった。


「うっ、あんたは……」

「あ、起きた。まだ、動かない方がいいよ。相当負荷がかかったからね」

「負荷って何のことよ」

「高速移動だよ。君を連れ去る時にだいぶ早く移動したから。私は慣れてるから大丈夫だけどね」


 心配する言葉に少し油断したが、段々と意識がはっきりしていた。


(記憶が正しければ、こいつがあたしを連れ去ってここまで連れて来た。だとしたら、どうにかしてここから逃げ出さないと……)

「逃げようだなんて無駄だよ。もうすぐ、私の主が来るからね」

「っ!」


 逃げようとして逃げ出せるほど相手も馬鹿じゃない。

 ただでさえ、高速移動の魔法を使うのだその分野でアフェに勝ち目はないと彼女はすぐ理解した。


(なら、するべきことはアポロが助けに来るまで時間を稼ぐ事ね。脱出は出来ればでいい……)


 アポロが助けに来ないとは微塵も思わない。

 迷いはなく、彼女は自身のすべきことを考えた。


「ご苦労だ。タキオンよ」


 だが、その時に最悪の状況が洞窟の入り口から訪れる。


「……アンルーフ・コンボイション」


 ヴォカ、いやタキオンの主であり現在はアポロと共に迷宮探索を行っているはずのアンルーフ・コンボイションがその場に現れた。

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