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第46話・『常在戦場』の不備



 うっすらと瞼を開けると、心の世界では暗雲で遮られ射しこまなかった日差しが眼に注がれる。


「うっ」


 思わずうめき声が漏れると同時に上体を起こす。

 見回すと少し見慣れて来た僕の部屋で、オデコに濡れタオルが置かれていたのか落ちて来た。


(夢、それとも幻だったのか?)


 さっきまでの出来事はそうとしか表現できない物だった。

 だが、足に残る雪をかき分け踏みしめた感覚、脳裏に焼き付いた夥しい数の十字架の景色が、違うと訴え続けてくる。


「カゲヤマ。あいつは一体何者なんだ?」


 自己に問いかけるように呟いた瞬間

 ゆっくりと静かに扉が開かれた。


「アポロさん……!?」

「カタリナ?」


 呆然とその場に立ち尽くす彼女の名を呼ぶ。

 次の瞬間、彼女は表情を歪め涙をためたままベッドの上に座る僕に向かって突っ込んできた。


「アポロさん!!」

「うごふっ」


 避ければ、壁にぶつかる。

 だからと言って、寝起きで受け止めるのも難しい。


 結果、綺麗に彼女の頭がみぞおちに突き刺さる事となった。


「あ、ご、ごめんなさい!!」

「だいじょぶ。だ、大丈夫……あ、そうだ。アフェはどうしたの?」


 だが、この衝撃のおかげで完全に目覚めた。

 魔力探知も元通りの感覚に戻って来たおかげで、下にイージスと何故かベラルトさんと知らない誰かがいるのはわかったがアフェの魔力を感じない。


「……」


 だが、カタリナは気まずそうに視線を伏せた。

 すると、さっきまでリビングにいたベラルトさんの魔力が急に動き出したかと思えば勢いよく部屋に入って来る。


「起きたなアポロ!では、行くぞ」

「い、行くぞって……どこにですか?ていうか、何でいるんですか?」


 また、彼のマイペースな暴走だと僕は軽く捉えていた。

 だけど、状況は僕が考えている以上に悪いものだったのだ。


「アフェ嬢の救出にだ!」

「は?」


 それが嘘、ではないとカタリナの表情が物語っている。


 僕は、腑抜けていた。

 騎士を辞め、冒険者になってからは特別強い敵と戦わず自然と気が緩んでいたのだ。


 だから、こんなことが起こってしまった。


「ベラルトさん。どういうことか説明してください」


 この時の僕がどういう顔をしていたか――


「ひっ」


 後から聞いたが感じたことがないくらいの威圧感と殺気をまき散らし、周囲の人間を戦慄させていたそうだ。


 だが、ただ一人だけベラルトさんだけは僕を見て笑っていた。


「連れ去ったのは、お前が捕まえたヴォカ・コンボイションを名乗る女だ」

「……あの時か」


 アフェの実力でヴォカに後れを取るとは思えない。

 だとしたら、考えられるとすれば僕が意識を失ったタイミングで不意打ちでもしたんだろう。


 彼女が寝たふりをしていたのは気づいていた、その上で放置していた。


 それが、こんな事態を招いてしまったのだ。


「でも、それなら何で僕は無事なんだ?普通、一緒に連れ去るなり、殺すなりするはずなのに」

「あ、それはですね。実は、ヴォカはアポロさんも連れ去ろうとしたみたいなんですけど。私たちが来たときにはアポロさんが逆に首を締め上げてたんです」

「き、記憶にないね」


 だとすれば、意識が無い中でも無意識に体を動かしていたという事なんだろう。


「それで、アフェの居場所は?」

「わからん。だが、現『ルフトズ』のクランマスターであるアンルーフ殿が居場所を見つける召喚獣を出してくれるらしい」

「アンルーフだと……!?」


 その名を聞いた途端に怒りのボルテージがマックスまで引き上げられる。

 すると、その声を聞いたのかアンルーフ・コンボイションが姿を現す。


「そうだ、私も今回の捜索に協力させてもらう」

「よくも僕の前に姿を現せたな。アンルーフ!!安心しろ、今すぐにでも冥土の奥底に沈めてやる!」


 癪に触るほど平然とした装いで振舞うアンルーフに対し怒りが度を超え収まらなくなる。

 それに比例するように魔力が漏れだし鋭い殺気が彼に向けられる。


 だが、それを察知したのかベラルトさんに組み伏せられる。


「まあ、待て。今回の話ではアンルーフ殿は無関係で、ヴォカは獄中のベスクワル殿の指示でアフェ嬢を誘拐らしい」

「それを、信じるのか!!」


 確かに、ベラルトさんの視点から見ればアンルーフは何も悪いことをしていないように映るだろう。

 結局、全て悪いのは前任者のベスクワルで、アンルーフはヴォカに貶められた被害者。


「冷静になれ」

「っ」


 組み伏せられたまま、いつになく真剣な声色で言い放つ。

 そのまま、アンルーフには聞こえないくらいの声量で続けた。


「これは、確実に罠だろう。だが、アフェ嬢を見つけるにはアンルーフ殿の力を借りなければいけない。これ以上、言う必要はないな」

「……ああ」


 そうだ、僕が今すべきことはアンルーフを捻りつぶすことじゃない。

 泥をかぶろうが、のたうち回ろうがアフェを助けることだ。


「失礼な態度を取ってすみませんでした。アンルーフさん」


 だから、こうやって彼に頭を下げることも全く辛くない。


「いやいや、元はと言えば私の愚息が迷惑をかけたのが始まりですから。若気の至りと言うことにしておきますよ」

「……感謝いたします」


 だがら、アフェを救った後には確実にこいつを豚箱にぶち込む。

 そう誓いながら僕は、頭を下げ続けた。



休みの日なので連続投稿!

決死人機兵装メサイアの方も投降したよ!

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