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第42話・鴨が人間を背負って来る



 アポロが追跡者を捕まえた数分後、イージスはカタリナを抱えギルドハウスに帰って来ていた。


「ただいま帰りました」

「アフェさんいないみたいですね」


 アポロさん曰く朝から別行動らしいが一体何をしているのだろうか

 とりあえず、尾行者がいるかどうか注意深く外を確認した後、私は扉を閉めた。


「……」

「……」


 二人の間に気まずい沈黙の時が流れる。


 無理もない、こういう時は大体アフェかアポロのどちらかいたため会話に困ることはなかったがいざ二人きりになるのはこれが初めてだ。


 それを打破する為か恐る恐るカタリナが口を開く。


「ほ、本当なんですかね。つけている人がいるって話」

「わかりません。私は全く感じられませんでしたから……でも、アポロさんには何か見えてたんだと思います」

「そ、そうですよね」

「……」

「……」


 会話のキャッチボールが止まる。

 別に二人ともコミュニケーションが特別苦手と言うわけではない。


 ただ、片や元奴隷、片や没落騎士と言うのもあるせいか、どちらも受け身と言うのが災いした。


 だが、ここで意を決したのか今度はイージスが口を開いた。


「その、カタリナちゃんは何でこのクランに入ったんですか?」

「わ、私は奴隷で……アポロさんに買われてこのクランに来たんです」

「あ、そ、そうなんですね。何だかすみません……」


 不味いところを踏んでしまったと謝ると同時に、アポロさんらしいと思ってしまう。


「いえ、いいんです。それより、ずっと聞きたかったことがあって私を買うためにアポロさんは自分の剣を売ってしまって……」

「け、剣を売った!!それってもしかして聖剣のことですか!?」


 カタリナちゃんが言い終えるより前に私が大声で遮ってしまう。

 それと同時に、彼女が大きく頷く。


 その出来事がどれほど、とんでもない事か理解できてしまった私はついくらっと来てしまい手で頭を抑える。


「やっぱり不味い事ですよね!!」

「い、いや……うーん」


 顔面蒼白の彼女にどうにかフォローを入れようとしたが、物が物のため容易なことが言えなかった。


 だが、数秒目を伏せて彼の性格と経歴を思い出す。

 それだけで、何となく言うべきことが分かった気がする。


「アポロさんが持っていた聖剣は『ステリラ家』に伝わる物なんですが、その家の令嬢を攫った悪魔王を倒し奪還した後、礼として贈られたんです」

「そ、そんな大切な物なのに……」

「説明しておいて何ですが、そんなに気にしなくていいと思いますよ」


 更に顔を青白く染めていく彼女に私はそう自信を持って言い放った。


「え?」

「確かに贈った側からすれば堪え難いと思いますけど、アポロさんはそれでもカタリナちゃんを助けたいと考えて売ったんだと思います」


 それは、アポロさんの振る舞い方にも現れている。

 私が彼と話している間も、そうでないときも一切聖剣の話は出ていない。


 事実、売られていた事実も言われるまで気づかないほどだ。


 つまり、あの剣への未練はないという事ではないか


「それに、アポロさんは売っちゃいけない物を売る人ではありません。予想ですけど、事前に困ったら売ってもいいなどと言われていたんだと思います」

「そ、そうですかね。アポロさん、意外と抜けてる所ありますし……」

「大丈夫です。誰よりも『騎士アポロ』に憧れた私が保証します」


 最初の印象は姉を負かした変な人だった。

 その次は姉の仇に変わって、彼のことを調べるようになって、知れば知るほど憎しみは尊敬に変わっていった。


 どこまでも正しく、常に他者の為に戦い、『勇』を示し続けた栄光の騎士。


「カタリナちゃんはアポロさんのこと信じられませんか?」

「そんなことはありません!!むしろ、私はアポロさんを尊敬しています!!そもそも、私にはもう信じられる人はこのクランの人しかいませんから」

「そ、そうですよね」

「あっ、す、すみません」


 何か起爆剤でも使ったように勢いよく立ち上がり、言葉を並べる彼女に思わず引き気味になってしまう。

 それをすぐに察したのか彼女は顔を赤くしながら椅子にちょこんと座りなおした。


「はっ、ははっ!!」

「ど、どうして笑うんですか!!」

「いえ、何だかカタリナちゃんとこんな風に話せてよかったなって思いまして」


 笑ったせいか目にたまった涙をぬぐいながら、顔の赤い彼女に視線を向ける。

 何というか、先ほどの彼女の一連の動きがどうにもツボに入ったというか、とにかく漠然と良かったのだ。


「うっうぅ、何だか笑いものにされている気がします」

「してませんよ。ただ、カタリナちゃんにああいう所があるんだなって思っただけです」

「そ、そうなんですか?」

「そうなんですよ」


 オウム返しのように言葉を返すと彼女はまた頬を赤く染める。

 それを見るたびに私はどうしても笑みを隠せず何とか手を口にかぶせ隠した。


「や、やっぱりいじられている気がします!!」

「気がしてませんよ」

「っ……!!」

「冗談です。代わり何かお願いを聞きますよ」


 彼女のどこかあどけなさの残る可愛らしい本気の無言の睨みを見て、流石にいじりすぎたと謝りながらも自然と口角が上がる。


「だ、だったら……その、私にアポロさんが騎士だった時の話をしてくれませんか?」

「それくらいならお安い御用ですよ。そうですね、であれば彼が栄光の騎士と呼ばれ……」


 私が話し出そうとしたその時、入り口の扉が開かれる。

 帰って来たのは、私たちを先に帰らせてその場に残ったアポロさんだった。


「ただいま」

「あ、アポロさん。おかえりなさ……え?」


 だが、彼は一人ではなく脇に女性を抱えている。

 それを見て、つい反射的に口を開く。


「ゆ、誘拐?」


 自身がついさっき栄光の騎士と紹介しようとしていた本人が犯した行為に私は動揺せざるをえなかった。




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