第41話・毒入り葱
僕が心の中で本腰を入れ問いただすと彼女は懐から一つのファイルを取り出す。
「私が持ってきたのは、これです」
「『保険金』ねえ。なんていうか、興味深い名前の名簿だね」
彼女から渡されたのは、保険金と大きく表紙に書かれた名簿
罠の類が無いことを確認して開くと、昨日共に窮地を潜り抜けたフレムさんやイージスの名前もそこにはあった。
加えて赤チェックの入った人物も数人おり、その中にはゴブリンキングに殺されたザレクの名もある。
「これは……」
口には出さないが、これは間違いなく『ルフトズ』のメンバーで保険金を掛けられた人物たちの名簿だ。
「父の戸棚に全く違う本のカバーをかぶせられた状態でした。たまたま、話を盗み聞きして、もしかしてって思って探したら見つかったんです」
「へえ、そうなんだ。君のお父さん。結構、不用心みたいだね」
「そ、そうですね。お恥ずかしながら……それで、これで父を捕まえられますか!?」
「これだけの物があるなら行けると思うよ」
これを証拠としてギルドや治安局に駆け込むなりすれば、家宅捜査の大義名分も得られる。
そうなれば、想像以上に不用心なアンルーフの尻尾を掴むことなど容易いだろう。
「良かった!!」
「ただ、一つだけ教えて欲しいことがあるんだ」
「はい、父を捕まえられるなら何でもお答えしますよ!」
「そっか、よかったよかった。じゃあ、聞くね」
そう言いながら、彼女から視線を切ることなく腰のレインボーソードに手をかける。
次の瞬間、レインボーソードが七色に光輝いた。
「君の目的は僕の暗殺かな」
自分でも久しく聞いてこなかった底冷えする声が僕の口から漏れた。
それと同時に世界の時が停止してしまったような沈黙が互いに流れる。
「……はい?な、何言ってるんですか!?大体、何ですかその剣!?」
「僕もそうだとは思いたくないんだけどね。ただ、不自然なことが多いのと、何よりさっきから腰のナイフがちらつくんだよね」
七色に輝くレインボーソードは広範囲に光をばら撒く。
縦横無尽に反射する光は当然、ナイフの刀身も輝かせて見せた。
そう言うこともあり、何か塗られている事によって光の反射が鈍い事すら僕の目には筒抜けになっている。
元より、前提がおかしい。
「こ、これは護身用です。この街で丸腰の方が逆におかしいと思いませんか!」
「そうだけどね。だったら、この証拠を僕じゃなく治安局やギルド、もしくは騎士団に持ち込むべきじゃないか?」
「そ、それは……ち、父の権力で握りつぶされると思ったから」
「それならそれで、会ったことのない僕を追って話そうとするって言うのもおかしな話だけど」
事実、僕はこの街でアンルーフの権力がどれほどの物かは知らない。
だからこそ、彼女の証言は余計に怪しく聞こえる。
と言っても、僕が言ったのは所詮憶測だ。
本当に彼女は助けを求めているかもしれないし、それを偽りだと証明する証拠もない。
「それに、追跡は全然素人じゃないでしょ」
「ど、どうしてそうなるんですか!!そもそも、私は貴方が指摘するようなミスを犯す未熟者です」
「僕から見れば未熟者ってだけさ。他から見ればそうでもない」
実際に前を歩いていたカタリナはともかくとして、イージスが気づかないのはおかしい。
つけられていると聞いた彼女の反応は寝耳に水そのものだった。
「考えられるとすれば、三つ。一つは、訓練を受けた本当の娘。二つ目は、アンルーフから依頼を受けたプロ。三つめは……」
「一つ目です!わ、私はこれでもSランク冒険者の娘です。最低限の訓練は受けています!!」
三つ目を言い終える前に、彼女が声を上げた。
だが、その言葉に耳を貸すことなく僕は言葉を続ける。
「優秀な奴隷かだ」
「っ!?」
最後の選択肢に彼女の瞳孔が大きく開かれるのがわかる。
ほぼ、自分で答えを言っているような物だが、それでも疑問が残る。
最近、奴隷の法規制はとてつもなく強固なものになった。
それによって、販売元は帳簿に刻まれた買い手の元まで出向き強制的に奴隷紋を書き換える事態までに発展した。
結果、奴隷に無理な命令を出すことはできず、ましてや暗殺なんて夢物語
だが、何事にも例外は存在する。
「違法?」
「ち、違います。私は奴隷なんかじゃありません!」
「そう、なるほどね」
目は口ほどに物を言う。
僕が質問した後の彼女のほんの微細な反応を読み取れば、真相はおのずと見えてくる。
「まっ、言い訳は後で聞くから。今は眠っておいて」
「だ、だから違……!!」
彼女が何か言い終える前に気絶させる。
幸いにも、まだ日も落ち切らず活気が満ちる街は一連の騒ぎを飲み込んでいってくれた。
「そもそも、魔法使いは継承問題があるんだから。優秀なのが生まれたら妹なんて作らないんだよ。コンボ一族なら特にね」
その常識を当てはめるなら十分に優秀なベスクワルを継承相手にすれば十分だ。
特に、継承問題で揉めに揉めた一族の末裔がそんなことするとは考えにくい。
そして、路地の影に隠れながら無言で彼女の服をあちこちめくる。
「やっぱり、違法奴隷か」
お腹のへその下あたりに、くっきりと旧式の奴隷紋が刻まれていた。




