第39話・渦巻いた陰謀の被害
戦いが終わった後、一段落つくと僕はベラルトさんと今後のすり合わせを行うつもりだった。
もちろん、重要なのはカタリナの件と一週間後に控えた未踏破迷宮の件である。
だが、それよりも先にギルドマスターであるファアネスさんに詰められていた。
「負けたな。妾はあの肉達磨を下せと言ったはずだが」
「申し開きもないです。でも、わかってたでしょ。こうなるって」
「みなまで言うな。貴様の実力はギルドマスターとして把握しているつもりだ。それこそ、殺す気で戦えば貴様に敗北が無いこともな」
「やっぱり知ってるじゃないですか」
隠しているつもりはないが、素性は完全に割れているらしい。
流石に奥の手までバレているとは考えたくないが、僕を覗く鋭い視線を見るに知られていてもおかしくない。
(確か、フルネームはファアネス・エクセキュータだっけ。少し、調べてみるか)
考えたくはないが、いざと言う時の為、相手の魔法くらい知っておいてもいいだろう。
「ああ、知っているも何も妾は、元騎士でな。貴様の名は耳障りになるほど聞いておる」
「光栄です」
「だが、かつては最強や最優だのと呼ばれていた栄光の騎士が今では冒険者とはな」
「何が言いたいんですか?」
「貴様充てに手紙が来てる。中を見るのは未踏破迷宮の後でもいいだろうが、気を付けろ」
渡された純白の封筒には王家の刻印がばっちり刻まれている。
さっきのわざとらしい言い回しから推測するに騎士に戻って来いのような内容だろうが――
(政治臭がプンプンする。送り主も”アイツ”だろうな)
この手紙を持った途端に騎士時代に何度も嗅いできたその何とも言えない鼻孔をくすぐる感覚が現れて来た。
「これ、本当に今見なくていいんですか?」
「ああ、それの送り主から直々に後でいいと言われている。それともすぐ王都に行きたいか」
「内容知ってるじゃないですか……」
とりあえず、厄介事なのは理解した。
そう言う事ならこの手紙はそっとしておくことにしよう。
すると、僕が切った腕を繋げてもらったベラルトさんがウキウキで近づいて来た。
「楽しかったぞ、アポロ。最後の剣劇、見事であった」
「本職の戦士にそう言ってもらえると戦ったかいがあったというものです」
「勝ったのはオレだがな」
「……そうだね」
「血管浮いているぞ。勝ち負けを気にするタイプには見えなかったが、存外。あの肉達磨に負けてイラついているのか?」
別にイラッとなんてしていない。するはずもない。
大体、最初から僕に利しかない戦いなのだ。
実質、最初から勝利していると考えても過言じゃない。
うん、だから全く悔しくない。
握りしめたこの拳も反射的に握ってしまっただけだ。
「まさか、僕がイラついているわけないでしょ。それで、ベラルトさん。約束は一週間後で良いんだよね」
「ああ、それで頼む。協力するメンバーはお前が選べば文句は言わん」
「わかった。そう言えば、協力するのは僕たちだけなの?」
「いや、もう一つのクランに声を掛けてある。だから、お前たちのクランを合わせて三クラン合同で未踏破迷宮に挑む」
未踏破迷宮攻略に挑む時は、規模にもよるが五人一パーティーで最低三パーティー前後
そうだとすれば、三クランと言うのは少し過剰に聞こえる。
「場所は?」
「未踏破迷宮D。通称、ムーンライトフォレストだ」
「聞いたことがある。確か、入り口が複数あるんだってね」
その名の通り、ずっと月明かりが射しこむ森だと聞いている。
文脈的に複数クランで複数の入口へ同時突入をするのだろう。
すると、ファアネスさんが補足で説明してくれる。
「それだけじゃない。迷宮内も広大で次の階層に行くにも時間がかかる。出てくる魔物は厄介な特性を持つ者は少ないが、単純に強い」
「どのくらいですか?」
「最低でB。上を見れば確認されたのはSランクの森竜まで、出てくるのは植物系が主だな」
「森竜まで……」
植物系は火や氷など温度の変化に弱い者が多い。
だが、こいつの場合はそれらを自らの体液によって無効化して来る。
加えて、体液は物理的な衝撃も受け流してくるほど万能だ。
弱点と言えば水で洗い流せてしまうくらいだが――
「それには、優秀な水と火や氷を扱える魔法使いか魔術師が……」
「そう言うことだ。オレの方も何人か優秀な魔法使いはいるが、お前のような魔術師がいれば心強い」
「なら、うってつけだな。それで、もう一つはどこのクランが協力してくれるの?」
「ルフトズだ」
それを聞いた瞬間、背筋に氷でも突っ込まれたような感覚が僕を襲った。
タイムリーにもほどがある。
つい、昨日そのクランマスターを倒したばかりだというのに
(そうか、まだベラルトさんは知らないのか。昨日、捕まったばかりだって言うのが災いして)
だが、ファアネスさんは事情を知っていたのか彼に昨日起きた一部始終を語りつくした。
「……そうか、悪いアポロ。この件は、一度クランハウスに持ち帰らせてもらう」
「そうだね。流石にそうした方がいい。ただ、奇跡の件は頼んだよ」
「ああ、わかってる。明日にでもファナを派遣する」
「ありがとう」
そう、感謝を伝え現在出来るすり合わせを終えてその場は解散となった。
僕たちもまだ日は落ち切っていないため、特訓を続けようと思ったが部屋の修復のためだとかでギルドマスターからあっさり追い出されその場を後にした。




