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第38話・決着と奇跡の差



 後方からは、槍と剣の挟撃、それに加えて前方に迫る僕の同時攻撃。

 これによって、回避不能の一撃を加えるのが『風神絶剣』の本質だ。


「甘いぞっ!」


 だが、こんなの上に跳ぶなり僕を飛び越えるなりすれば回避できる。

 それを、ベラルトさんは直感的に感じ取り上空に跳んだ。


「わかってるよ」


 それに応じて、僕は彼より上空へ跳躍した。

 すると、『帰還せよ』と詠唱した武器は風に乗って彼の足元に迫って行く。


 つまり、二次元であった『風神絶剣』は三次元となり上から僕、下からは武器たちが迫る。


「くっ、回避できなっ!」

「『風神絶剣!!』」


 空中で完全に回避する方法を失ったベラルトさんは咄嗟に巨剣で前方の僕からの攻撃を防がれた。

 だが、手元で崩壊していく土剣の影から彼の背に迫る剣と槍が見える。


「っ、ぐぅ!!」


 土槍とレインボーソードがそれぞれ背中に突き刺さる。

 だが、これでも浅い。


 これだけでは、山を打ち砕くには足りない。


「『”土”よ。崩壊せよ』『”風”よ。我が手元に帰還せよ!!』」


 それは互いに理解していたが、空中で対抗できるのは魔術師である僕しかいない。

 逆に言えば、地上に降りられた瞬間に僕の敗北はより揺るがないものへ変わる。


 詠唱と共に、土槍が崩壊し風に煽られレインボーソードが僕の手元に納まった。


「光よ!」


 後方二つと前方からの同時攻撃、これは布石だ。

 それを回避するために相手が身動きの取れない空中に跳ばせた、これも布石だ。


 そして、三次元の『風神絶剣』すら布石だった。


 手の中にあるレインボーソードに魔力通し七色の光を放出させる。


「くっ、なんだ!?」

「とぅおりゃぁぁぁぁ!!」


 力いっぱい、残りの魔力を身体強化に注ぎ込み巨剣を持つ腕を切り落とした。


「ぐがっ!」


 空中で満足に身動きは取れない。

 ただでさえ、風神絶剣を防ぐために前方への防御の姿勢を取った上で視界も奪った。


 様々なことを積み上げ手繰り寄せて来た行幸


「ここまでか……」


 だが、届かない。

 普段とは異なり即席の土の武器を使い、聖剣もなく体もボロボロ


 そして、体重差によってベラルトさんの方が数コンマ早く地上に降りる。


「アポロさん!!」


 空中で満足に身動きが取れないのは僕も同じだ。

 叫ぶカタリナに申し訳なく思いながら、その時をただ待つ。


「天晴だ。戦士よ!!」


 片腕を切断されたというのに、まだ元気なベラルトさんと空中で目が合った瞬間

 彼の剛腕が僕の腹部に突き刺さった。


 そのまま、ボールのように吹き飛びベールにバウンドしたまま地面に叩きつけられた。


「そこまで!!」


 立ち上がらなかった僕の姿を見てレフェリーのファアネスが試合を終わらせる。

 この状況、勝敗は明白だ。


「勝者。ベラルト!」

「おおおぉぉぉぉ!!」

「っ、は!」


 気絶した一瞬で勝敗は決し、僕が目覚めたのはベラルトさんの勝利の雄叫びを耳にしてからだった。

 同時にベールが解除され傍らにカタリナが駆け寄る。


「アポロさんっ!今、今治しますから!」

「あ、ぁあ、助かるよ。落ち着いて……っぐ」


 焦りで震えている彼女に安心させるような言葉を掛けようとしたが、口から血を吐き出してしまう。


「ひぇっ」


 それを見て、更に顔を青ざめさせてしまった。

 だが、それを振り払うように首を振り僕の体に両手を重ねる。


「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者を癒したまえ。”治癒の奇跡(ヒーリング)”』」


 詠唱と共に両手に緑色のオーラが集中する。


 前回が失敗続きでやっと一回の成功だったので、少し苦戦すると予想していた。

 しかし、予想に反し緑の癒しの光は絶えることなく僕の体を癒していく。


「お疲れ様です。戦うんでしたら一言おっしゃってくださいよ」

「集中してたし悪いと思ってね。途中から見てたみたいだけど、どうだった?」


 戦闘中、透明なベール越しだったので興奮しながら観戦していたイージスの姿は視界に入っていた。


「……遠いと思いました。互いに人外の動きで、今の私には難しいです」

「そうだね。動きを言語化はできる?」

「前半は、ですが後半は何が何だか……」

「十分!!」


 後半のは、言うなれば僕が意地を見せるエキシビションのようなもの

 この戦いの本質は前半戦にある。


 それを、彼女が理解できたのなら僕も頑張ったかいがあると言う物だ。


「その、私が特訓したらアポロさんが使った『風神絶剣』が使えるようになりますか?」

「……腕の一本や二本が爆発してもいいなら行けるんじゃないかな」

「じ、冗談ですよね」

「第一世代魔術って事故が多いんだよね……」


 あくまで、僕が放つ『風神絶剣』は凡人の絶技だ。

 精度や完成度に目を瞑れば彼女にだって再現は不可能じゃない。


 きっと、事故が多いと言った僕の瞳は遠いどこかを見つめていただろう。


「第一世代魔術って、第二世代以降と違って魔力の制御を失敗したら体内で魔力が爆発するから下手すると死ぬんだよ」

「そんな……!待ってください、じゃあ何でアポロさんは五体満足なんですか?」

「治せば元通りだから。治せるような人間が周りにいないと不味いけど」


 これが、第一世代魔術師がほとんどいない理由である。


 単純な話、僕と同レベルまで成長する前に死ぬか、後遺症が残るかのどちらかであるからだ。

 実際、僕も頼れる同級生がいなければ死んでいた。


「じゃあ、私がアポロさんみたいに戦うのは無理なんですね」

「一概にはそう言えないかな。魔術や魔法が使えなくてもレリックって言う選択肢もある。筋力を鍛えればああやってパワーだけで何とかなる場合もあるしね」


 ただでさえ鋼の肉体だというのにそれを強化する圧倒的な魔力量と密度

 その上、元から当たればただじゃ済まない一閃を更に強化し拡張するレリック


 正直、ベラルトさんほどの戦士は騎士時代にも数える程度しかいなかった。


「……アポロさん。体は大丈夫ですか?」

「うん?ああ、カタリナの治癒の奇跡のおかげでね。もう少し経てば動けるくらいは回復するかな」


 まだ、未熟な彼女ではせいぜい『紅蓮破天斬』を受けた後程度までしか回復しないだろうが、それでも十分だ。

 後は、少し時間はかかるが適当に自然治癒に任せておけばいい。


 そう思っていた矢先に、ベラルトさんの腕をくっつけて来た常識人の女性が近づいてくる。


「お疲れ様です。今回は、クランマスターが無茶を言ってごめんなさい」

「いいんですよ。こっちも条件を飲んでもらってるので、良ければ名前を聞いてもいいですか?」

「はい!私はAランク冒険者のファナと言います」


 ルフトズのクランマスターをしていたベスクワルと同程度とは驚いた。

 見た感じ武闘派と言うわけではないのに、高みに達しているということはよほど奇跡の練度が凄まじいんだろう。


「あ、そうだ。アポロさんも奇跡で治しちゃいますね」

「え?」

「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者を癒したまえ。”治癒の奇跡(ヒーリング)”』」


 カタリナの口から目の前で大切な物を取り上げられたような驚愕の声が漏れる。

 だが、それはファナの耳に届くことなく詠唱を成立させた。


 僕は専門家と言うわけではないが、彼女の奇跡はカタリナとは格が違うとすぐ理解できた。


(凄いな。魔力に無駄がない。最小限で最大限の効果を引き出しているのか……)


 今回の戦闘で負った傷が次々に癒えていく。

 折れた骨も、ちょっと傷ついた内臓も、体の細かい傷まできれいさっぱり消えた。


「はい。終わりです。何か他に痛いところがあったら言ってくださいね」

「ありがとう」


 そう言って、彼女はベラルトさんの元に帰って行った。


 一方で――


「……っ」


 カタリナはその光景を親の仇でも見るような憎々しい目で見つめていた。




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