第37話・絶技、山スラ砕ク
開始の合図の直後、戦士と魔術師の気迫がぶつかり合ったと思えば意外にも共に敵の懐へ駆け出した。
「ははっ!戦士はそうじゃなくちゃなぁ!!」
「お前らと一緒にするなっ!」
ベラルトさんが疾風の如く動き出したかと思えば背中にかけられたバスターソードを引き抜いた。
僕には、常に目測で物の大きさを測る癖がついている。
そのため――
(死ぬな。これ)
自身の体と大きさが同じくらいの剣を前に死を連想せざるをえなかった。
だが、恐れを胸の中心に押さえつけながらこちらもレインボーソードを引き抜く。
そして、数コンマも経たぬうちに彼の間合いに入り巨剣が僕へ牙を向いた。
「おらぁ!」
「っ、はぁっ!!」
上段から降り下げられた剣の激突タイミングは読めている。
すなわち、相手の巨剣と比べたら爪楊枝のようなレインボーソードでも十分受け流せる。
読み切っていれば――
「なぬっ!?」
「っぅ!なんて衝撃だよ……」
完全にタイミングを合わせ切ったはずなのに、腕にとてつもない衝撃と振動が襲う。
「はっ!!……嘘だろ」
しかし、今は相手を崩しきった好機と捉え不安定な姿勢ながらも一閃叩き込む。
だが、僕の手に帰って来たのは肉を切り裂く感触ではなく岩でも叩いているような――
否、そびえ立つ山を矮小な爪楊枝で突いている錯覚すらあった。
(肉体に対しての魔力密度が大きすぎるのか……剣単体じゃダメージは通らないな)
事実、今の流れで既にレインボーソードが若干刃こぼれしている。
「ふんぬぅぉおおお!!」
「っ!?」
次の一手、思考を巡らさせてもくれないようで巨剣が先ほどよりも数瞬早く振りぬかれる。
すると、激突した部分がまるで落石でも受けたかのように抉れる。
それを、頬に垂れる汗を振り払いながら避ける、避ける、避ける。
「完全に避けてるはずなんだけど……」
足元にクレーターを作りながら、よけ続けるも僕の身に着けたローブの先が切れる音がする。
レリックにより発せられた衝撃波だと思いたいが、おそらく希望的観測と言うやつだ。
「『”風”よ。我が身体の中心から横25m、高さ5m、縦25mに吹き続けろ』」
「魔術か!!」
避けながら、下準備を整えるため魔力の無駄を前提にして部屋いっぱいにそよ風を展開させる。
(つばぜり合いすらできない。動きを予測しないと……)
即時発動できない魔術と動き回って来る戦士の相性はすこぶる悪い。
その上、ベラルトさんの抵抗力が高すぎるせいで周囲で魔術は発動すらできない。
「『”風”よ。我が背の後方より固定化し”嵐”となりて帰還せよ』」
「なっ」
だが、下準備さえ整えば大雑把に詠唱しても魔術は成立する。
僕の背中側に現れた横殴りの嵐が発射される。
それと同時に身を屈め跳躍することで発動時点にいた地点を起点に発動した回避し、ベラルトさんだけを襲う。
(擦り傷が少しか。でも、魔力は減ってるな)
ゴブリンキングなら軽々と倒せてしまうほどの威力のはずだが、あの肉体には大したダメージにはならない。
ただ、攻撃を浴びせ続け魔力切れを狙えば勝ち筋があるかもしれないということはわかった。
そこまで僕が立っていればの話だが――
「マスターの体に傷が……」
「はっ、はははは!!おい、見たか。オレの体に傷だぞ!いつぶりだ。いつぶりだぁ!?」
表情に暗雲立ち込める僕とは異なり、ベラルトさんたちは大変愉快そうだ。
いつぶりだと傷に歓喜する姿は、僕を焦らせる一方だった。
だが、その時間は僕にとって垂涎ものの隙となる。
「「『”水”よ。我が足元の前方10ⅽm先の横20m、深度5m、縦20mの”土”と混合し泥沼を作れ』」
「なんだ……しまったぁ!?」
気づいたときにはもう遅い。
僕の詠唱と同時に足元にはベールの外にも影響を与えるほどの巨大な泥沼が生成される。
その上、水分を多く含ませたため地盤はめちゃくちゃゆるゆるだ。
(これで、足は取った)
「ふんぬぅおぉ!!」
いくら足掻こうとも、緩い地盤は重量を受け止めきれず底なし沼の如く引きづり込む。
これのために、最初から近接戦の印象を持たせ魔術の印象を薄くしたのだ。
「むっ、止まったぞ」
「え?」
何やら不穏な一言共に僕も異常に気付く。
そう、彼を引きずり込んでいた沼が急に彼を引き込むのを辞めたのだ。
それが意味する物とは――
「ほうらぁっ!」
「沼を跳んだ!?」
僕が発生させた泥沼をその圧倒的な筋力によって跳び越え僕の横に並び立つ。
腰程度まで埋まっていたはずなのに跳べてしまったのは水分を多くしたゆえだろう。
(そうか、ここは地上じゃなくて地下。5mも土が敷き詰められてなかったのか……)
あくまで僕が使った魔術は元ある物に水を混ぜただけなので、地上ならまだしも地下でこれを展開しても必ず底に限界が来る。
たとえば、部屋を囲っているレリックとかには干渉できないのだ。
「ははははは!面白い、面白いぞ。水に風か……火や土は使わんのか?」
「土はまだしも、火をあんたに向ける気はない」
「つまらんなあ」
そう言われても、火は僕が使う魔術で奥の手を除いて最高の威力を誇る。
ゆえに下手にぶっ放せば上半身ごと消滅させる恐れがあるのだ。
だから、使う相手は屑や明確な敵相手と決めている。
「なら、出させるしかないな」
「……」
雰囲気が変わる。
空気が変わる。
吸って吐くだけでも体の中に殺気や緊迫感が詰まっていく。
「うっかり殺さないために教えてやる。オレの剣はレリックだ。魔力を流せば一撃の威力を上げられる」
「……つまり?」
「死んでも避けろ!!」
色々、言ってきた割に結論は一言で終わった。
それも、さっきから僕は相手の一撃をもろに食らったらタダですまないことはわかり切っている。
「「『”水”よ。我が足元の前方10ⅽm先の横20m、深度5m、縦20mの”土”と分裂し霧散せよ』」
ならばと泥沼を解除し少しでも回避できるスペースを作る。
それでも、剣に集中する魔力量から薄々の被害規模を推察すれば足りないとわかる。
なら、こちらが出来るのは――
「全力で迎え撃つ!『”風”よ。我が心臓の全方位1m先から嵐となりて敵を浮上させよ!!』」
「『紅蓮破天斬!!』」
巨剣が振り下ろされる。
同時に――
世界が弾けた。
耳をつんざくような轟音と、全身を吹き飛ばす衝撃が僕を襲い体はベールに叩きつけられた。
「ぐっぁぁはっ……」
生きてはいる。
だが、確実に背骨当たりの骨と肋骨やら何本か折れた。
(内臓はまだセーフか……っ)
だが、痛いなんてもんじゃない。
アドレナリンが頭に充足するまでの数秒間、僕は必死に下唇を噛みしめて立ち上がった。
「……まさか、オレの紅蓮破天斬を食らってまだ立てるとは」
「おかげさまで、死ぬかと思ったよ」
僕は最初からあの斬撃を止められるとは思っていなかった。
狙いは、振るう側。
つまり、あの時詠唱した風の魔術でベラルトさんの体を浮かせ激突するタイミングをずらすことによって衝撃を弱めたのだ。
「だが、もう限界だろう」
「……まあね」
体はボロボロ、魔力も大規模な魔術を連発するには心もとない。
相手も魔力は薄くなり攻撃も通りやすくなっているだろうがこの状況では焼け石に水だろう。
でも――
「頑張って、負けないで……」
「ああ」
まだ、カタリナが祈っている。
「……ふぅ」
息を吐く。
状況は悪いなんてもんじゃないが、僕が諦めようとしても誰かが僕を諦めていないのならここで膝をつくわけにはいかない。
「来るのか」
「ああ、こちらの敗北は変わらないけど、最後までカッコつけさせてもらうよ」
「そうか!そうだよな。オレたちは戦士だ!!」
戦士じゃないと突っ込むのも忘れてにやりと笑みを浮かべる。
それを見て、彼も大きな顔を変形させて心の底から楽しそうな笑顔を見せた。
「『”土”よ。我が右手の中に横2ⅽm、高さ80ⅽm、縦2ⅽmの土槍を作り出せ』『”風”よ。我が両手先の武器に纏わりつけ』」
まだ、最初に展開した風は吹いている。
それを、刃こぼれしたレインボーソードと土の槍に纏わりつかせた。
槍と剣の二刀流へと変わった僕は必殺の構えを取る。
「……さて、と。やってやるよ!」
「来い。戦士よ!」
傷を負った体で吠え、僕は無造作に空へ両方の武器とも投擲する。
それと同時に、ベラルトさんの元に駆け出す。
「何だ!?」
「『”土”よ。我が右手の中に横2ⅽm、高さ80ⅽm、縦2ⅽmの土剣を作り出せ』」
手に生まれる鍔のない剣、この状況は戦いの始まりを告げたあの近接戦とそっくりだ。
違う点があるとすれば、空中に適当に投擲された土槍と剣、僕が持つ土剣くらいだろう。
「『”風”よ。我が元へ帰還せよ』」
その差が僕の道を作る。
詠唱と共に、風がまとわりついていた二つの武器は軌道を変え僕の元に戻ろうとする。
だが、当然だが僕は前に移動し続けている。
つまり、戻るべき座標がズレ続けこのまま行けばベラルトさんの背中側に凶刃が向くことになる。
「三方向からの同時攻撃か!?」
「『”風よ”。嵐になれ』」
気づいたときにはもう遅い。
纏わりつく風も嵐へと変わり、より威力を増す。
たとえ、弾いたとしても再び僕の元に戻ろうと動き出し彼を襲うだろう。
魔術の精度、タイミング、投擲速度、その他諸々が合わさらなければ生まれない絶技。
これこそ――
「『風神絶剣!!』」
絶技、山すら砕くだろう。
『紅蓮破天斬』
・爆発を起こすレリックを複数埋め込んだ巨剣を振り下ろしたことで発動する必殺技
・連鎖爆発を引き起こすためまともに食らえば余裕で死ぬ
・今回は、アポロが激突のタイミングをずらすことでダメージを軽減した。




