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第36話・マイペースな戦士



 僕には戦士として戦う才能もない。

 騎士学校時代、そのことに気づくのに対して時間は必要なかった。


「嫌か?分かった、どこか嫌なんだ。そこを解決したら戦おう」

「戦うのがそもそも嫌なんですけど」


 そして、大体素晴らしい戦士と言うのは頭のネジが数本外れている。

 目の前のベラルトさんがいい例だ。


 その上、恵まれた壁のような肉体に圧倒的な魔力の密度


「では、どうすればオレと戦う?」

「……どうもこうも。僕たちはあなたと戦っている暇があるわけじゃないんです」


 話の通じない相手を前に頭が痛くなる。

 その時、傍らにいた常識的な女性が駆け寄り巨木のような胴体に手を回し引っ張る。


「やめてください。マスター!どう見ても嫌がってるじゃないですか」


 もちろん、全くびくともしていない。

 だが、そんなことよりも気になったのは――


(この子、奇跡を使えるのか)


 魔力の流れが僕やカタリナとそっくりだ。

 彼女が、第一世代の魔術師と言うことはないだろうし、必然的に教会関係者だろう。


「わかった。交換条件って言うのはどうだ?」

「条件は?」

「オレとお前が戦ってお前が勝ったらうちの娘がお前の仲間へ奇跡の使い方を教えてやる」

「……こっちが負けた場合は?」


 数秒迷ったが、条件次第では悪い話じゃない。

 カタリナを鍛えると言った手前、教えるなら僕より本職の人の方が数倍いいだろう。


「負けた場合か。どうする?」

「何で、私に振るのよ……でも、そうね一週間後にある未踏破迷宮の探索を手伝ってもらったらいいんじゃない?」

「そうか!その手があったか、と言うことだアポロ。それでいいな」

「未踏破迷宮の探索……」


 正直願ったり叶ったりだ。

 彼らに付き添う形でもパーティーメンバーが揃わずとも入れるのは様々な意味で大きい。


 ただ、ここで喜んではいけない。


「ダメか?」

「うーん。負けても仲間に奇跡を教えてくれない?」


 現在、立場として上なのはこちら

 それは、相手が僕たちの目的を知らないからこそ成立している。


 だから、ちょっと吹っ掛けてなるべく良い条件を得たい。


「おお、構わないぞ!!本気で戦ってくれるならな」

「乗った」

「めちゃくちゃ吹っ掛けられてる。まあ、マスターが良いなら何でもいいけど……」


 彼女の方が吹っ掛けられた彼を見て頭を抱えているが、僕の内心は穏やかではない。

 ベラルトさんのことはただの脳筋だと思っていた。


 だが、構わないと言った後に声のトーンが一つ下がったのを聞いて悪寒に変わる。


(直感か、道化のふりして頭が良いのか。後者だと良いなぁ……突拍子もない行動はしてこないし)


 そうこう考えている内にベラルトさんが何やらレリックを操作すると広い修練場に透明なベールが降りる。

 瞬間、光がまとわりついたと思えばベールが修練場の一部を囲った。


「ここが、バトルフィールドだ。これなら、辺りの被害は心配しなくていいだろう。自称、魔術師」

「自称じゃなくて魔術師なんだけどね……」

「その肉体で何ふざけたことを言っている。ほら、早く入れ」


 生まれた空間はちょうど主の部屋と同じくらいであり暴れるなら十分な広さだ。


「その、アポロさん。私のせ……」

「カタリナ。僕は約束したはずだよ」

「は、はい!頑張ってください!!」


 そして、カタリナに送り出されると促されるままに僕は部屋に入る。


 今までの出来事に一切気づいていないイージスにも一言伝えようと思ったが、角っこで素振りしているのを見てそっとしておくことにした。


「怪我は?」

「切断くらいならセーフだ。うちの娘は優秀でな。部位が残ってれば繋げるくらいは簡単にやる」


 魔力の流れや気配から優秀な使い手だと推測はしていたが、それほどまでとは驚きだった。


「なるほどね。勝敗は戦闘不能でいい?」

「わかった。っと、そうだそうだレフェリーを呼ばんとな。悪いが少し待っててくれ」

「え?」


 互いに言葉を交わしいざ開戦と精神を研いでいた時に、彼はその巨体に似合わぬ俊敏さで階段を上って行った。


「すみません!本当にうちの馬鹿クランマスターがすみません!!」

「……君も大変だね」


 一切悪くない彼女が彼の失態に平謝りをする現状を見て思わず同情の一言を呟かずにはいられなかった。




 ***




 数分後、ベラルトさんが連れてきたのは見覚えのない銀髪に黒いメッシュが入った女性だった。


「すまんすまん。少し連れてくるのに手間取ってな」


 かなり強引に連れて来たのか表情は彼を強く睨みつけている。


「……えっと、どなたですか?」

「ああ、こいつは……」

「ちっ、放せ肉達磨!自分の紹介くらい自分でする」


 細腕に似合わず彼の手を振り払い、崩れた襟を整える。

 服装は完全にギルド職員の物だった。


(わらわ)は、ファアネス・エクセキュータ。冒険者ギルドのギルドマスターをしている」

「ぎ、ギルドマスター!?」


 ベラルトさんが連れてきたのは予想の数倍斜め上で、予想外の人物だった。

 それに、家名を持っていることと、魔力の流れからして第四世代以降の魔法使いだ。


(聞いたことないってことは、あんまり問題を起こさない家なんだな)


 コンボ一族など特徴的な名前を除いて僕が知っているのは騎士時代に問題を起こし僕が倒した家名くらいなのだ。


「僕は……」

「知っとる。『最強の”第一世代”魔術師』の二つ名を持つSランク冒険者のアポロであろう。その名を授けたのは妾だ。丸三日考え抜いたぞ」

「そ、そうなんですね……」


 丸三日もかかったのなら、もっと名乗って恥ずかしくない名前にしてほしかったと言いたかったが自信満々な表情を見て胸に収めた。

 別に第一世代魔術師と名乗るのは良いが”最強”といちいち名乗るのは今だに慣れないのだ。


「妾をここまで引きずって来たのだ。レフェリーはやる。アポロ、その名に恥じぬよう何としても肉達磨を下せ」

「はははっ!!だそうだ、始めるぞ」

「……はあ」


 思わずため息で返してしまうほど、どこから突っ込んでいいかわからない。

 常識的な彼女だって今の状況に見て頭を抱えて震えている。


(下せって言われても……殺しナシなら勝率二割くらいだな。甘く見積もって)


 実を言うと最初からあまり勝てる気がしない。

 そもそも、相手が本領に乗る前にぶちのめすのが僕の基本戦術なので今の状況と相性が悪い。


「アポロさん。頑張って」


 だけれど、ベールの外で祈るカタリナの姿を見たら簡単に負けるわけにもいかない。


「オレは『剛力武天』の二つ名を持つSランク冒険者のベラルト」

「僕はアポロ。『最強の”第一世代”魔術師』の二つ名を持つSランク冒険者だ」


 互いに名乗りを上げ、殺気と気力がぶつかり合う。

 それを知る者はベールの外にはおらず、中にいる二人だけがわかっていた。


「始め!!」


 火蓋は切られた。

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