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第35話・小さな一歩、確かな前進



 原因がわかってからは、特訓は信じられないくらいのスピードで進展した。

 元から、僕は魔術師であるため魔力の操作を教えるのは朝飯前だ。


「……こんな感じかな。ちょっとくすぐったいかもしれないけど」


 親が子供の手を引いて導くように、僕の手を彼女の手に重ねて自身の魔力を彼女の魔力に乗せて動かす。


「ひぃうっ!」

「ごめんね。でも、集中しよう」


 背中に急に氷を入れられたような声を出すイージス。

 それをスルーして集中するように促す。


 ただ、これでも彼女は彼女で素晴らしい才能を持っているので動かすと言ってもちょっと背中を押す程度に納めている。




 ***




 アポロさん(憧れの人)が私の手を掴んでいる。

 つまり、すぐ後ろから手を回している形になる上に、身長が同じくらいなので必然的に彼の吐息が耳に当たった。


 その時、彼の魔力が私に流されるのがわかる。


「ひぃうっ!」

「ごめんね。でも、集中しよう」


 集中できないと突っ込みたかったがちらっと見えた彼の真剣な表情を見て、自然と気が引き締まった。

 そして、私は恐る恐る木剣を頂点に掲げた。


「い、行きます!」


 途端に私の脳裏にはこれまでの失敗が色濃くよぎっていた。


 また、失敗するんじゃないか、アポロさん達に迷惑をかけてしまうんじゃないかと悪い想像が頭の中に充満していく。


 でも、そのたびに過去の思い出が私の背中を押してくれる。


『っ、ダメだよ。やっぱり、私じゃお姉ちゃんには勝てないよ』

『ええ、今は勝てるわけないわね』


 この時も、盾しか使えなくて一方的にやられていた。


 だけど、お姉ちゃんは自信家で、その自信に見合った才能も持っていた。

 そんな姉が私の誇りだった。


『でもね、挑戦することを諦めちゃいけないわ。そうね、私の友人の話をしましょう』


 そして、私が諦めそうになったり泣き言を言うたびに決まって友達の話をしてくれる。

 正直、あまり真剣には聞いてなかったが話をする姉の表情を見るのが好きだった。


『彼はね。ちょっと情けないけど、でも諦めない男なの。失敗したら、次はこうしよう。次はこんなことをやってやるぞ。って』

『お姉ちゃんはその人に負けたの?』

『ば、馬鹿ね。わ、わわわ私が負けるはずないじゃない!』


 あの時の姉はものすごく動揺していた。

 今、考えてみるとその彼に負けてしまったんだろう。


 でも、その人のことを話すときの姉の顔は何よりも美しい色で染まっていた。


『コホン。とにかく、大切なことは挑戦し続ける事、努力し続けて足を止めないこと……向かって行けばいずれたどり着くことが出来るのよ』

『じゃあ、私も頑張ればいつかお姉ちゃんに勝てる!?』

『いつかね。私も進み続けるから、おばあちゃんになって止まることになったら負けるかもね』


 結局、姉はおばあちゃんにはなれず亡くなってしまったけれど、私の中で生き続けてくれる。


 大丈夫だよ。


 私もまだ進み続けるから――


「はあぁぁ!!」


 恐怖を乗せて、エールを背に受けて渾身の一撃を振り下ろした。

 地面に激突もしない、頭に跳ね返ってくることもない、一切のブレもない一閃は空を切り裂いた。




 ***




「やったね!」


 彼女が行ったのは誰でも出来る素振り一本だけだ。

 けれど、この小さな一歩だけど確かな前進となり大成する一因になるのは確かだ。


「……や、やりました。やれましたよ。私!!」

「うん。と言っても、まだ一回だからね。今の感覚を忘れないうちに体に覚えさせちゃおう」

「はい!!はい!!」


 偶然の一回と言う可能性もある。

 成功した今のうちに感覚を掴ませて、どうにか今日中には打ち合えるくらいには伸ばしたい――


 と考えていたが


「イージス。イージス」

「はい?どうしたんですか……あれ、アポロさんがすぐ後ろにいない」

「補助なしで振るえるようになったね」


 二回、三回目くらいまでは僕が魔力を流してやって見ていたが、彼女の表情とよく集中できている所を加味して途中から離れていた。


 だが、考え以上に彼女の才能は優れていた。


「……え?えぇ!?」

「それじゃ、今度は武器を変えて色々試してみようか『”土”よ。我が右手の中に横2ⅽm、高さ80ⅽm、縦2ⅽmの土槍を作り出せ』」


 詠唱で作り出された武器は槍と言うより長い棒だったがこれを扱えるようになれば彼女の実力は飛躍的に伸びるだろう。


 そして、予想通り彼女は振る動作だけでなく突く、薙ぎ払うなどの動きも問題なくこなすことができた。


(うーん。後は、実戦あるのみかな。低級の迷宮に潜って……っ)


 イージスの動きを見ながら次の策を考えていると後ろから微細な殺気が飛んできた。


 瞬間――

 後ろを向くより先に抜剣し、その殺気の主に視線を向けた。


「どうしたんですか?アポロさん」


 僕の突然の行動に傍から見ていたカタリナは不思議そうに声を上げる。

 だが。僕の視線は今ちょうどギルドの地下に入って来た男に注がれていた。


「……ほう、やはり気づくか」


 意味深な言葉と共に現れる僕より二回りも大きな大男。

 その迫力は遠目で見ているはずなのに目の前に大きな壁が反り立っているようなものだった。


 僕の記憶が正しければクラン結成時にすれ違って名前を聞いて迷宮に向かった人のはずだ。


「久しいな。アポロ」

「……はい」


 やけにフレンドリーに話しかけてくる彼に対して僕が反応できたのはその程度だった。

 そして、どういう反応をすればいいか混乱していると、彼の隣にいる三つ編みが特徴的な女性が声を上げた。


「ちょっと!本当に知り合いなのあの人!?めちゃくちゃ、微妙な顔しているよ!?」

「そう言えば、名を名乗ってなかったな」

「名前を名乗ってないのに知り合いもクソもないでしょ!!」


 僕の言いたかったことを彼女が全て代わりに言ってくれた。

 どうやら、周りの人間にはちゃんとした常識が備わってくれてるようだ。


「……そう言うものか?オレと奴は既に互いに視線を交わしたぞ」

「視線を交わして知り合いになるならマスターの知り合いは今頃、数百どころじゃ済まないですよ!!」

「うむ、そうか。それと、オレのことはパパと呼びなさい」

「っ、いいから!さっさと謝るなり、仲良くなるなりして来てください!!」


 拍手をしたいくらい鮮やかな蹴りと共にベラルトと呼ばれた男がこちらに近づいてくる。

 遠目からでもでかいなと思っていたが、改めて見ると見上げていたら首が痛くなりそうだった。


「コホン。オレはベラルト。見ての通り戦士だ。アポロ。オレと戦え」

「……嫌です」


 その、猪のような猪突猛進ぶりに僕は嫌な予感を抱かずにはいられなかった。



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