第34話・灯台下暗し
イージスとの特訓は難航した。
戦い方は色々言いたいことはあったが、盾の扱い方は本当に一流であった。
しかし武器類が全くと言っていいほど扱えなかった。
「槍も棍棒もダメか……」
「すみません。本当にすみません!!」
僕の魔術で作り出した土の槍と棍棒を持たせてみたのだが、突こうとすれば何故か背を向け、振ろうとすれば彼女の頭に振るわれる始末だ。
ここまで、僕には一撃も当たっていない。
(もう、これ武器の問題とかじゃないな。ふざけているようにも見えない)
もはや超常現象の類だ。
そう言う遺伝が存在しているのかもしれないが、アテナにその気質はなかった。
むしろ、剣や盾を何でもそつなく扱うタイプでその才能に嫉妬した回数は計り知れない。
「次、お願いします!!」
(でも、全く諦めない。そういう所もそっくりなんだよなぁ)
やはり血の繋がった妹だからなのか、よく思い出の中の彼女が重なる。
きっと、ここから何回失敗しても彼女は諦めることをしないんだろう。
「いや、ちょっと休憩しよう」
だからこそ、僕は努力の行き先を間違えさせてはいけない。
「えぇ!?」
だが、それを聞いた彼女はお気に入りのおもちゃでも取り上げられた犬のように肩を深く落とした。
「違う違う。僕に考える時間をくれってこと。休憩はついでね」
それを見てすぐに、言い方が悪かったと反省し言い直した。
「そ、そうですか……ありがとうございます!!」
「うん。だから、ちょっと休んでて」
言い直したのが効いたのか、彼女も疲れていたのか、ニコニコで座りながら角で背を預けていた。
(うーん。どうしたもんか)
実を言うと何も妙案が浮かばない。
確かに、才能のない人間は存在する。
しかし、才能がない人間でも剣を振れば盾には当たるし、体が明後日の方向を向くことなんてない。
武器を扱えない才能があると言っても過言じゃない。
「あの、アポロさん」
思わず頭を抱えそうになったその時、隣から可愛らしい声が耳に入って来る。
目線を向けると、心配そうな表情で僕を見上げているカタリナがいた。
「うん?どうしたの。カタリナ」
「その、えっと、わかったかもしれないんです。イージスさんが武器を振るっても全然当たらない理由が!」
いつものように口ごもってはいるものの、彼女の目には確かな自信が宿っていた。
確かに、僕だけが考えていても入るのは僕の視点だけだ。
第三者視点からの見解もあれば、何か突破口が開くかもしれない。
「聞かせてもらおうかな」
「じ、実はアポロさんとイージスさんが戦っている時の魔力がおかしいような気がするんです」
「魔力が……どういう感じに?」
だが、最初感じた時は魔力は盾を扱う上で理想的な魔力の流れをしていた。
「その、わからないんですけど。アポロさんと比べたらとにかく変なんです!」
「……変か」
かなり曖昧な感じだ。
そもそも、やり方を教えられていない彼女が魔力の流れを読めるのかすら謎だ。
ただ、彼女が冗談を言っている雰囲気ではない。
「ありがとう。ちょっとやって見るよ」
けれど、思い当たる部分が無いのも事実だ。
全てのありえない事実を消去していけば、最後に残ったものが如何に摩訶不思議なことでもあったとしてもそれが真実になる。
「イージス。休憩終わり。もう一回、木剣を試してみよう」
「っ、はい!」
再び、木剣と大盾を互いに構える。
今度は相手の動きだけではなく、魔力の流れにも注目することにした。
「行きます!」
彼女の宣言と共に足元から土煙を上げながら走り出す。
一歩、二歩、三歩向かってくるときには魔力には異常はないように感じる。
だが――
(え?)
彼女が僕の間合いに入り剣を振りかぶったその時だった。
やっと、カタリナが言っていた意味を理解した。
「はあぁぁぁぁ……ぁ~?」
そして、いつも通り木剣は盾を掠めることすらなく空を切り裂きながら地面に叩きつけられた。
「す、すみません。すみません!!」
「いや、わかった。カタリナ、ありがとう。君のおかげだよ」
「や、役に立てたんですね!」
灯台下暗しと言うやつだ。
当たり前すぎて固定観念に固まった僕の頭では気づけないものだ。
「イージス。君って身体強化はどこで学んだの?」
「えっと、独学です」
「それが、君が武器を扱えなかった原因だ」
「え、えぇ!?」
僕のような騎士志望が学校で初めて学ぶのが魔力を纏うことによって身体強化をする方法だ。
ただ、これは本当に基礎的な物なので才能で何となくできてしまう場合も不思議じゃない。
実際、彼女のように独学で学ぶ人も少なくなかったりする。
「イージスの場合、攻撃しようとした瞬間に魔力がものすごく乱れるんだ。そのせいで、体の制御を失い今みたいなことになるってわけ」
人間の体はある程度、必要な筋肉を無意識で動かしてくれるようになっている。
そして、魔力も同様で意外と勝手に動いてくれるのだ。
ただ、彼女の場合は攻撃時に無意識で魔力が全く見当違いな場所に移動してしまうらしい。
「そ、そんな……どうすれば」
「大丈夫。魔力を意識的に操作すればすぐに戦えるようになるよ」
早く走りたいと思った時に足だけを意識するのではなく、振る腕にも着目するように――
意図的に魔力を適切な部位に配分することでバランスよく動くことが可能になるだろう。
「本当ですか!!や、やったー」
一見、彼女は喜んでいるように見える。
だが、その目の奥には少しばかりの影が潜んでいた。




