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第33話・特訓の始まり



 お昼ご飯を食べ少し休憩した後、アフェを除いた僕たち三人は冒険者ギルドを訪れていた。

 目的は地下にある訓練場だ。


 借りるのに多少金はかかるが、派手に剣を振り回しても何も言われないし、壁はレリックか何かで補強されているので特訓にはもってこい。


「広っ!?」


 だが、流石ギルド本部と言うべきか土地の広大さは超ド級だった。

 デュランクの街の地下がせいぜい、昨日行った最深部の主の部屋くらいなのに、ここはその四倍くらいある。


 ただ、その大きさに反比例するように人は全然いなかった。


「空間拡張のレリックを使っているらしいですよ。でも、最近はどこのクランも低ランクの迷宮で訓練しているらしくて、人が少なくなっているみたいなんです」


 言われてみれば四方に魔力反応がある。


「なるほどね。ありがとう、イージス。僕はまだ迷宮都市の常識に疎くてねこれからも教えてくれると助かるよ」

「はい!任せてください」


 一見、ギルドの設備が使われていないことは問題に見える。

 だが、クランたちが訓練とはいえ迷宮に潜ることによって魔物が間引かれ大量発生を防ぐことに繋がる。


 僕たちもカタリナが少し戦えるようになればそちらに行くのもアリかもしれない。


「あの、アフェさんはどこに行ったんですか?」

「ちょっとお使いにね。今日の夜には帰ってくると思うよ」

「お使いですか?も、もしかして私の特訓のために何かヤバい物を用意してるんじゃ!!」

「僕を何だと思ってるのかな」


 勝手に誤解して、勝手に顔を青くしているイージスに呆れながら突っ込みを入れながら少し歩き端の方で止まる。


「それじゃあ、本格的な訓練の前にイージスの力を見せてもらおうかな。ほら、盾構えて」

「は、はい。よろしくお願いします!!」


 彼女の身を隠せそうなほど巨大な大盾が構えられる。


(急所は隠れてる。持ち方も基本に忠実。魔力の流れも上手いな。魔術なしで突破するのは難しいね)


 僕たちは戦士や魔法使い、魔術師に関わらず魔力を体に流して肉体を強化することが出来る。

 それが、彼女の場合は肉体それぞれへの配分が上手い。


 スピードで攪乱してもあの取り回しづらい大盾でも軽々と攻撃を防いでくるだろう。


「さて、じゃあ行くよ」


 僕も木剣を抜き肉体に強化をかける。

 瞬間、僕の足元で弾けるような音と砂埃を上げると同時に駆け出した。


(来る。タイミング合わせて……!)


 それを見て彼女は僕の持つ木剣に視線を集中させる。

 僕の戦いを傍から見て来た経験か正面から受けるのは不利と判断したんだろう。


(だけど、甘いね)


 だが、彼女の考えは間違っている。

 僕は確かに身体強化を複合すれば戦士としてそこそこのパワーを発揮できる。


 しかし、残念なことにそこそこはどこまで行ってもそこそこ止まりの為、剣が強くなければ彼女が想像するほどの威力はない。


「なっ、剣じゃない」

「剣だけを使うとは言ってないよ」


 僕は接近と同時に木剣を構えるのをやめると強化した肉体を武器に大盾に向かってタックルを決めた。

 そして、驚く彼女の視線が交差すると同時に木剣をするりと盾と体の間に滑り込ませ喉元に突きつけた。


「はい。僕の勝ち」

「参りました……」


 残念そうに深く肩を落としながらその場に膝をつく彼女。

 僕の目には、自然と彼女の姉の姿が重なる。


 それと同時に脳裏から降りてきたのは彼女との訓練の風景だった。


『私が盾しか使わないと思ったのか?』

『だからって、何で盾が剣に変わってお前がタックルしてくるんだよ!?』

『そういうものだ』


 と言っても、立場は逆で僕がよく転がされていた。


「……」


 不思議な気分だ。

 彼女はもういないはずなのに、幻でも見ているように思い出が現実を蝕んでくる。


 目の中が濁ってくる。


「……よし!イージス。ドンドン行くよ!」

「はい!」


 知られないように、僕は必死に虚勢を張りながら手を差し伸べる。

 それを、手に取る彼女の笑顔は逸らしたくなるくらい眩しかった。


「それじゃあ、今度は剣を持ってみようか」

「け、剣ですね……はい。アポロさんは?」


 今後の為にも彼女が武器を扱えない欠点は払拭しなければならない。


「僕は君の持ってる盾を使わせてもらおうかな。僕の木剣を使ってみて」

「わかりました。結構、大きな盾ですけど大丈夫ですか?」

「うん。一応、使ってたことはあるからね」


 残念ながら、剣ほど実戦で扱えるレベルじゃなかったので剣一本で戦うことになったのだが

 僕は彼女に木剣を、彼女は僕に大盾を渡して交換するとそれぞれ構える。


(うっ、本当に結構大きいし重いぞ……ちょっと後悔してきた)


 心の中で情けないことをぼやきながら、彼女の動きを待った。


「行きます!!」

「よし来い!!」


 鎧がある分、僕より動きは鈍いがそれほど異常があるようには見られない。

 そもそも、武器を扱えないというのも僕は割と半信半疑だ。


 相手の腕前を見ようと相手の間合いに入った瞬間、剣が振るわれた。


(来る。足と腕。問題ない。剣先……)


 思考を加速させ受け流そうとした瞬間――


「はあぁぁぁぁ……ぁぁぁ?」

「え?」


 剣先は盾ではなくあらぬ方を向き、ただ何もない空を裂き地面に叩きつけられた。

 当然、その隙を見逃すはずもなく盾でそのまま突き飛ばし木剣を蹴り上げた。


「……えぇ」

「すみません!!」


 当たるどころか、外れ、地面に叩きつける腕前を見て思わず呆れたような声を漏らしてしまう。

 威力は申し分なかったのか地面は若干凹み、彼女の鍛錬の成果を物語っていたが、当たらなければ意味はない。


 そして、謝罪する彼女の木剣を握る手はわなわなと悔しそうに震えていた。



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