第32話・無意識?の悪知恵
鳥のさえずり、窓から入ってくる暖かな日差し、そして――
『1+1=2!!!』
僕の、しかも爆音で再生される『1+1=2』しか言えないレリックの声だった。
魔力を流した覚えはないので、十中八九履歴を起動するボタンを押してしまったのだろう。
「何で……」
思わずうめき声のような、恨めしそうな声を出しながら状況を見極める。
僕の記憶が正しければ、昨日はイージスさんの面接をして、後をアフェに任せて寝た覚えがある。
「まさか!?」
嫌な予感を察して毛布をめくる。
「……すぅすう」
閉じる。
(……うーん?)
何故だろう、今僕の毛布の中で狸寝入りをしているカタリナがいる。
めくる。
「すうすぅ」
流石にあの爆音が鳴ったのにも関わらず寝ているふりをするのは無理だとわかっているのか顔がほんのり赤くなっている。
そんな彼女を見て、どうするか一瞬考えた後揺らして起こすことにした。
「お、おはようございます」
「おはよう。カタリナ……それでさ、何でここにいるの?」
記憶が正しければ、治療の奇跡を起こして眠ってしまった彼女を一緒に寝ると言っていたアフェの部屋まで送り届けた。
それに、誰かが僕の部屋に入ってこようとすれば多少は鈍るが魔力ですぐわかるはずなのだ。
「それは……えっと、その、間違えて入って来ちゃって」
「そっか、じゃあ僕ちょっと出てくるから。カタリナも自分の部屋に戻るんだよ」
「は、はい」
瞳は右へ左へ泳ぐように動き、とても間違えて入って来た人間の態度には見えない。
ただ、これ以上突っ込むのは野暮かと思い一言言って自分の部屋を後にした。
(……いや、やっぱりおかしいな)
顔を洗いに外に出たタイミングでやっと気づいたのだった。
***
そして、何も起こらないまま時間は流れ昼時になるとクランハウスの扉を叩く者が現れた。
「今日からよろしくお願いします!!」
もちろん、襲撃者とかではなく荷物をまとめてやって来たイージスさんだった。
昨日、面接で合格した彼女はその日のうちに殺されかけたことを盾にしてクランを辞めて来たのだ。
そして、今日から彼女は僕たちのクラン『トラーレンドン』の一員だ。
「よろしく。イージスさ……いや、イージス」
今日から仲間になったのだから敬称を外して握手の手を差し出す。
すると、彼女は両手で手を取り握り返し何故か動かない。
ほぼ、僕と身長が同じくらいなのでしばらくの間、じっと目を見合わす時間が過ぎた。
「はい。アポロさん!」
「アポロで良いよ」
「い、いえ!アポロさんは私の憧れなので”さん”をつけさせてください」
「うっ、うん。イイヨ……」
彼女から注がれる羨望の視線だが、僕には眩しすぎる。
それだけじゃなく、彼女が騎士志望と言うことは僕の過去を知っていてもおかしくない。
背筋に何か過ぎるものを感じた。
「これで、あたし達のクランも四人目ね。未踏破迷宮に潜れる最低人数まであと一人」
「四人?僕、アフェ、イージスで三人じゃないか?」
「えっ……その、私は?」
「僕は、カタリナをそんな危険な場所に連れて行く気はない」
正直、奇跡が扱えるからと言って実際の戦闘力は幼少期の男子に毛が生えた程度だ。
そんな彼女を迷宮に連れて行くとかまずありえない。
「で、でも私は奇跡でアポロさんの役に立てます!!」
「そうよ。それにイージスも、あたしも、あんたもいるんだから何かあっても守れるでしょ」
「それが通じるのはBランクまでだよ。一人一人が最低限戦える力を有していないと未踏破迷宮に潜るなんて夢のまた夢だ」
Bランク迷宮までは規制もなく悪魔と言うイレギュラーはあったものの苦戦はなかった。
だが、Aランクからは魔物も強力になり罠も階層もかなり増える。
当然のように精神は削れ、疲弊し、仲間割れや油断、準備が不足すれば食糧難など人間の生理的問題も出てくる。
「それなら、私がもっと奇跡を扱えるようになったり強くなればアポロさんも迷宮に連れて行ってくれるんですよね」
「理屈的にはそうなるね」
「アポロさんはイージスさんを鍛えるんですよね。なら、怪我したときの治療を私に任せてください。その代わり、私も鍛えてください!!」
神に祈るように手を組みながら懇願する彼女を見て思わず頭を押さえる。
(こう来たか。悪知恵つけちゃったなぁ……)
まず、僕は彼女との関係を契約で縛って来た。
それを学習したのか無意識かはわからないが、今度は僕からではなくあっちから互いに利を示して契約を持ちかけて来たというわけだ。
(おかしいなぁ。引き取ってまだ三日も経ってないのに……いや、成長として喜ぶべきだな)
僕は迷宮に行くための優れた仲間が欲しい、イージスとカタリナは強くなりたい。
利害は一致している上に受け入れれば一石三鳥だ。
その上、一回囮にした負い目もしっかりある。
「わかった。それじゃあ、カタリナの力を借りようかな」
「はいっ!!」
考え込んだ末に彼女を手を取った。
その中には流石に短期間でカタリナが急激に強くなるわけないだろうという打算的な思惑もあった。
ともかく、結局育てるのは僕なので一層気を引き締めるのであった。




