第31話・宵闇の陽と陰
アポロが自分の部屋でふて寝している一方で一階ではまだアフェとイージスさんの面接が続いていた。
だが、決して和やかな雰囲気ではなくむしろアフェの方が明確に敵意を向けていた。
「イージス。あんた、アポロの事知ってたわね。予想するにアポロが姉を殺した騎士って所でしょ」
「わかりますか……」
「流石に露骨よ。それで、何であんたは知ってたわけ?」
わざわざ一人の騎士と強調するなど、他にも怪しい素振りはあった。
いざと言う時を考えて、腰の短剣に手を掛けながら問いかけた。
「実は姉が亡くなった後、我が家にアポロさんが謝罪に訪れたんです」
「……あのクソ真面目」
聞いた途端に脳裏に深々と謝罪する彼の姿が易々とよぎってしまったことに頭が痛くなる。
確かに、彼なら自分が殺した自責の念で謝罪に行っても不思議じゃない。
「それで、どうなったの?」
「父は彼を散々叱りつけて追い出しました。私はそれを見ていただけで、直接会ったことないんです」
「でしょうね。あたしでもそうするわ」
たとえ、自分の娘が悪いとしても娘を殺し、家を潰した相手を暖かく迎えられる親なんて存在しない。
殺されなかっただけマシと言う物だ。
「そこから、あんたは冒険者になったってわけね」
「幸いにも援助は受けられたので、両親も新しく始めた家業が軌道に乗るまで助けてもらっていましたので」
「援助?……って、まさか」
これまでの文脈から、誰が援助したのかなんて容易に想像できる。
彼女もそれを察したのか無言で頷く。
「ちなみに、何で?」
「父が言うにはアポロさんは『善人ぶりたかっただけ』と言っていたそうです」
「嘘って言いたいけど、めちゃくちゃ言いそうね……」
自分の脳内でアイツの声で再生するのは簡単だった。
と言うか、カタリナを買った時も同じことを言っていた。
(ていうか、アイツ元は騎士だし今はSランク冒険者の癖に金なさすぎよね。もしかして……)
あたしでも、その気になれば金貨300枚くらいは払える。
だというのに、アイツは全財産がちょうど金貨300枚ピッタリと言う惨状だった。
だが、援助を行っていたのならそのお財布事情も頷ける。
「一応、確認だけどアポロに復讐する気はないのね」
「リベンジはどこかでしたいですが、殺す気は毛頭ありません!!むしろ、アポロさんは私の憧れなんです」
「憧れ?アイツって結構な有名人なの」
あたしはアイツの過去は自分で話してくれるまでなるべく暴かないようにしているため、騎士時代のことはほとんど知らない。
だから、悪いとは思ったけど気になってつい聞いてしまった。
「結構どころじゃありません!!私が知る上で最高の騎士の一人です」
「そ、そうなのね」
彼女の熱気に押され、思わず椅子が二歩引かれる。
「刻印がないにも関わらず騎士になり、四年前に起きた第三次人魔大戦では若干二十歳ながら団長ミラキュルム様率いる精鋭部隊に所属し魔王にトドメを刺した逸話は有名なんです!」
「へ、へぇ……」
まだ、あたしが盗賊だった時代だ。
確かに魔族が攻めて来た噂は聞いたが、そんなことよりもその日のご飯の方が大切だったので気にも留めなかったのだろう。
でも、何だか胸が苦しい。
「と言っても、ミラキュルム様も私の姉同様にアポロさんに殺されているんですけど」
「薬絡みよね?」
「はい。その事件のせいで当時七つある騎士団の中で最強と謳われていた赤龍騎士団は解散し加担しなかった団員もほとんど騎士を辞めたと聞いています」
「そうなの……」
何となくアイツが騎士を辞めた原因はわかって来たが、どうにも腑に落ちない。
(確かに衝撃的な話だけど。アイツがそれで辞めるかしら)
あたしが知っているここに来る前のアイツは常に目が死んでいるけど、人助けをしている時は目に光が灯る。
そして、助け終わると夜がやってくるようにまた黒くなる。
責任感が強くて、人助けが大好きなアイツがたとえかつての仲間を手にかけたとしても騎士を辞めるとは思えなかった。
「そ、その、それで……私の面接は」
「ああ、合格で良いわよ。どうせ、あたし達はアポロの目的のために未踏破迷宮に潜るための仲間を探してるから。Bランククラスの盾役は即戦力よ」
それに、今のアイツは聖剣を売ったせいで近接が弱体化している。
盾役がいれば、後ろから魔術を撃ち放題だ。
「そうだ、私聞いてなかったんですけどアポロさんの目的って何ですか?」
「……死者と再会するレリックを探しているの。アイツのおばあちゃんに会うためにね」
「死者、ですか」
彼女の姉のことを話したばかりだからか、良い顔はしない。
普通に考えて、死者ともう一度会おうなんてするなんて馬鹿げている。
おかしな目標を掲げるクランと鼻で笑われるかもしれない。
「それでも、あたし達と一緒に戦ってくれる?」
それでも、あたしは椅子から立ち上がって彼女に握手の手を指し伸ばした。
それを見たイージスは視線を一瞬、机に向けた後同じく立ち上がり、手を握り返す。
「よろしくお願いします」
「いい返事ね。改めて名乗るわ。あたしは、クラン『トラーレンドン』のクランリーダーのアフェよ。あんたは今日からこのクランの盾よ」
「っ、はい!!」
その返事は単なる応対ではなく、確かに彼女の覚悟が籠っていた。
瞳には眩い光が灯り、星のようにこの夜の闇を照らし出せると錯覚するほどだった。
***
夜の光を照らし出す星が現れた一方で夜の闇に紛れる者もいる。
特に、証拠隠滅のために自身の息子を治安官に売り渡した男なぞ筆頭だろう。
「くそっ!なんだあの化け物は!!」
ルフトズの元クランリーダーのアンルーフは怒り任せに机を叩き潰す。
ギラギラと光る指輪のせいでメリケンサックのようになった拳は木の机を易々と抉り割れた。
「まさか息子に召喚させたグシオンまで倒すとは……っ!!」
投資やギャンブルで失敗した息子に悪魔を召喚させるように仕向け成功したときは勝利の愉悦を浮かべていた。
それによって、自身が召喚した悪魔フォラスのことを知る者を抹殺しようとしたのだ。
だが、目論見は大きく外れ返り討ちにあってしまった。
「どうすれば、どうすればいい……!!」
確実に奴は自身の計画の障害になる。
その上、別れ際に言い残した言葉から自分を疑っている可能性が高い。
相手は予想以上の戦力、衰えた体で真正面から戦えば確実に負ける。
椅子に腰かけ一分、二分、十分と無言で考える時間が流れる。
結果、僅かな時間では何も解決策が浮かばないという結論が出たため、思考を切り替えるために頭を振り払い立ち上がる。
「……ふぅ、その前に息子の始末からじゃな」
とにかく、今できないことはやらないし悩まない。
今できる事、すべきことをするために動き出した。
そう、碌なことを言わない自分の息子の口を塞ぐために――




