第29話・『盾』と言う誇りの名
迷宮から脱出した後、僕たちはフレムさん達と別れイージスさんを連れてクランハウスに帰宅していた。
もちろん、用事は彼女を新たなクランメンバーとして迎えるかどうかの面接だ。
「それじゃあ、聞かせてもらうわね。あんたが入りたい動機を」
「は、はい!!」
僕がアフェをベッドに寝かせて来た後、戻ってきたらアフェがイージスさんをテーブル挟んで向こう側の椅子に座らせていた。
その姿を見て、騎士になるための最終面接がフラッシュバックした。
「ほらほら、あんたも座って。面接を始めるわよ」
「はいはい」
軽く流して、アフェの隣に腰掛ける。
すると、イージスさんは借りてきた猫のようにかしこまった。
「わ、私は”トラウアンデ大陸”一の騎士になりたくてこのクランを志望しました!」
「うんうん。そうだ、実際どうなの。あんたの目から見てなれそう?」
「無理」
我ながら容赦のない返答を食らった彼女は雷が落ちた時のようにショックで固まってしまった。
「容赦ないわね。ちなみに理由は?」
「うーん。元々騎士になるような奴って大体魔法の刻印を持ってるんだよね。加えて、イージスさんの戦う姿を見ても”無理”としか言えないかな」
そもそも、大陸一の騎士と言う定義自体が曖昧な上、凄い奴は見ればすぐわかる。
だが、現時点では彼女にそこまでの素養は見られない。
「諦める?」
「っ……あ、諦めたくないです」
諦めないではなく、諦めたくない。
頭の中で薄々諦めるべきだとちゃんとわかっている上での発言だ。
「じゃあ、何でイージスさんは大陸一の騎士になりたいの?」
「そ、それは、その……」
次に単純な疑問を投げかけると急にしどろもどろになり口を閉じてしまう。
「なんか訳ありな感じね。まあ、あたし達はべらべら漏らす人間じゃないけど、話しづらいなら話さなくてもいいわ」
それは、この状況で聞くなら暗に遠回しに話せと言っているようなものではないか。
「い、いえ!!話せます。わ、私は自分の家の汚名を晴らすためになりたいんです!」
「汚名?」
確かに騎士に入る目的の中で家名を上げたり汚名を晴らそうと意気込む人間は少なくない。
ただ、汚名と聞いて何だか思い当たるところがあるのか妙に引っかかった。
「その、実は……私の家名は『スキュータム』なんです」
「……そうか。そっかぁ」
「え、何?知ってるのアポロ」
彼女の告白に、つい顔をしかめ頭を抱えてしまう。
そこから、何とかオブラートに包んだ表現を選び出す。
「スキュータムは防御魔法で有名な家で、同時に優秀な騎士を排出していた家系でもあるんだ」
「イージスって凄いのね!」
「ははは……私は刻印を継げませんでしたけど、その様子だとアポロさんは家のことを知っているんですね」
知っているなんてもんじゃない、がっつり関係者だ。
それも、同僚と言う意味でもあり、悪い意味も同時に含んでいる。
何だか胃がキリキリしてきた。
「ご存じの通り、スキュータム家は今は存在しません。二年半前に、取り崩されて刻印も研究機関に渡っています」
「取り崩され?え、ええぇ!?騎士の家なのに!?どうして!?」
感情の落差で困惑しながら、隣の僕と机を挟んで向こう側のイージスさんの顔を交互に見回す。
それについ、僕も彼女も困った表情を浮かべる。
「……薬だよね。犯人たちは全員騎士だった」
「はい。首謀者ではありませんが、私の姉もその流通に加担していました。結果、村の住人約400名が亡くなりました」
「薬で400人も……」
一応、薬だと世間では講評されているのでそう言う表現をしたが、実際は違う。
あれは、薬なんかではなく意図的に人間を殺すための物だった。
「その後、生死は問わず指名手配された姉は首謀者共々ある一人の騎士に殺されたと聞きました」
「一人の騎士?」
「と言うのも、人物保護のため名前は明かされませんでしたが、曰く同じ騎士団の人間だったそうです」
そう、たとえ逆賊を抹殺した英雄だろうとも同じ騎士団の人間だとわかれば疑惑の目にさらされる。
そのため、事件の顛末を知った人たちが動きその騎士を守ったのだ。
「なるほどね。名を残して姉が残した汚名を雪ぎたいってわけ」
「はい。そのために、騎士になりたいんです。騎士になって名を残して刻印を取り戻し家を再興するんです!」
「……再興ね」
元から継げる刻印がない僕はまだしも、彼女には刻印がまだ研究機関に保管されている。
彼女の言う通り、名を残すなり金を積めば取り返せる可能性だってある。
そうなれば、再興も絵空事じゃなくなる。
「……一つ、聞かせてほしい」
「は、はい。何でしょうか」
「イージスさんは自分の姉を殺した騎士を憎いとか復讐してやろうとか思ってないの?」
静かに、重く、消え入るような声で僕は彼女に問いかけた。
だが、彼女からはさっきまでの怯えたようなかしこまったような姿勢は消え、むしろ歴戦の騎士のような面に変わる。
「憎くないと言ったら噓になります」
「そうか。なら……」
「でも」
そう、言葉を続けようとした所に彼女から待ったがかかる。
「同時に仕方ないと思うんです。姉は絶対に許されてはいけないことをしたし、その騎士の人も仲間を殺してきっと最悪な気分だったと思います。だけど……」
「だけど?」
「リベンジはしたいです。刻印を持って、戦って大陸一の防御魔法の誇りを取り戻したいんです」
姉が死んだということは、その防御魔法が破られたという事でもある。
彼女は刻印を継承できなかったが家に誇りを持ち、視野も広い大人だった。
「そっか」
少し投げやりな感じで言いながら、立ち上がる。
今の僕には、彼女の言葉が重くのしかかる上に、眩しくて直視できそうになかった。
これなら、レインボーソードを近くで眺めていた方がマシだ。
「え、どうしたのアポロ?」
「何だか疲れちゃった。もう寝るから、彼女の合否はアフェが適当に決めてくれ、もし入るなら僕が出来るだけの指導はする」
「ほ、本当ですか!!」
「本当。それじゃ」
背中から聞こえた歓喜の声には耳を貸さず、振り向かず、僕は自分の部屋に向かって行った。




