第28話・贖罪と弁明
腰にまで手を回したカタリナを振り払う気にはなれず、彼女を抱きかかえたまま立ち上がる。
「怪我は大丈夫なのかよ」
「ああ、フレムさんもありがとう。事が終わるまで待っててくれて」
「あたし達だって空気くらいは読めるんだぜ」
僕の治療が終わるまで他のみんなは黙って周囲を警戒してくれた。
特にフレムさんとイージスさんはアンルーフに続いて去ろうとするパーティーメンバーを引き留めてくれたのだ。
「なら、よしだな。それじゃあ、さっさと脱出で良いよな」
「そうしよう。長居したっていいことはないしね」
一応はクランマスターがあんなことをしでかしたというのにすぐに気持ちを切り替えられたのは彼女が優秀な冒険者の証拠だ。
もちろん、グシオンと戦う前に話した情報と犯した凶行を納得させる一因になったのは言うまでもないが
「……アポロ」
帰路につこうとしたとき、アフェが僕の背中をこつんと叩く。
「怒ってくれるの?」
「その方があんたもいいでしょ。あの悪魔をぶっ飛ばした時からいい顔してなかったし」
「やっぱり、わかってたんだ」
「普通に考えて、二手三手先を軽々と読むあんたがカタリナが人質になることを見越してないはずがないわ。実際、見越してたからこそ魔術を発動させたんでしょ」
彼女は手に取るように僕のことを解説していく。
実を言うと彼女の言う通りで僕はカタリナもしくは残ったパーティーメンバーの二人のうち誰かが人質になると思っていた。
「今ならいい訳も聞くわよ」
「じゃあ是非」
そう続けて歩きながら僕は語り出した。
「まず、なんと言っても悪魔が予想以上に強かった。流石にあれは無法が過ぎるよ」
「時間停止ね。それでも、あんたは何とかしたじゃない」
「結構危なかったけどね。剣が無かったら魔術でやるところだったし、負けることはないけど状況はもっと悪くなってた」
相手が終始こちらを舐め切っていたとはいえ、あの魔法だけで十分強力だ。
それが、要因となってカタリナを直接守ることが出来なくなってしまった。
ただ、それだけが原因じゃない。
「わざとあのタイミングで悪魔に尋問したわね」
「……うん。どうしても確固たる証拠が欲しくてね。そのためには、悪魔を召喚する本と奴の体を調べる大義名分が必要だった」
「一応、言っておくわ。最低ね」
手厳しいが実際、僕がやったことを考えるとそう言われても仕方がない。
もしあの場で悪魔を倒して終わりにすれば、今度は迷宮ではなく外で奇襲を受ける可能性があった。
悪魔が使ってくる魔法の性質上それは避けたい。
「はあ、きっとカタリナは簡単に許しちゃうだろうから。あたしが帰ったら代わりに怒ってあげるわ」
「助かるよ」
弁明しておくが僕は別に怒られて喜ぶ人間ではない。
ただ、彼女は僕がカタリナを利用したことに自責の念を抱いていることを察して、怒らないカタリナの代わりに諫めてくれるわけだ。
「それと、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」
「え?」
何だろうか、本当に心当たりがない。
「毒の話よ。あんたコボルトの剣食らってたじゃない。でも、悪魔を倒した途端に血が止まってた。どういうからくりかしら?」
「ああ、そう言う事ね。ただ、単純に僕に毒が効かないだけ……悪魔を油断させるために解毒は遅らせたけどね」
「毒が効かない。それも、魔術でやったの?」
「残念だけど、僕にそんな芸当はできないよ。ただ、体質ってだけ」
と言っても、生まれながらに持っている物ではなく後天的に獲得した物だが
ただ、良いことばかりではなく薬の効きも悪くなるのでそこは注意が必要だったりする。
「体質ねぇ……あ、そうだイージスはこれからどうするのよ」
訝し気な視線を僕に向ける彼女は何か思い立ったようにイージスに問いかける。
「わ、私ですか?」
「そうだった、あたし達は今週末には辞めちまうがお前は次どこに行くとか決めねえとな」
「そ、そうですよね……私たち殺されかけたわけですし」
あのアンルーフがどういう対応するかまだ分からないが、少なくともルフトズに居続けるべきじゃない。
まだ、事情聴取がまだなので彼がなぜこのような凶行を起こした原因は解明されてはいない。
ただ、少なくとも彼女が標的の一人であったことは間違いない。
「イージス。君は何をしたいの?目標とか、夢とかある?」
「っ、わ、私は……」
少し言い淀み、何か言いづらい事だったのか数秒沈黙が流れる。
段々と、下から火で熱されているのかと思うくらい顔が赤く染まっていく。
だが、強く皺が出来るほど強く両瞼を閉じ、勢いよく開眼した後ゆっくりと口を開いた。
「た、大陸一の……き、騎士になりたいんです!!」
「……騎士か」
「だ、ダメですか!?」
「ダメじゃないんだけどね!!」
思わず反射的に芳しくない反応をしてしまう。
それを聞いてしまった彼女は好物を取り上げられた犬のようにしゅんとしてしまった。
「ああ、そう言えばアポロは元騎士だったわね。騎士って何かダメなの?」
「そ、そうなんですか!?よければ教えていただけませんか!!」
「……うーんとね。そもそも、騎士ってどうやってなるかわかってる?」
僕が騎士になった時は、騎士学校の授業過程を六歳から行い十八歳で卒業後、それぞれの騎士団に配属されるという流れだった。
これが、基本的な騎士になる方法であり例外はほぼない。
「はい。それが、今からだとほぼ不可能なことも知っています」
真剣な表情で頷く。
騎士の家系の生まれであるにも関わらず刻印を持たない。
おそらく、後継者ではない彼女に学費を出してくれるような親ではなかったのだろう。
「うん。残念ながらね。あ、もしかして冒険者になったのは……」
「聞いたことがあるんです。実績のある冒険者が稀に騎士としてスカウトされることがあるって」
「そうなの?」
「あるね。昔の同期にもいた」
だが、国を守護する騎士に召し上げられるような実績を立てた冒険者と言うのは本当にごく少数だ。
それこそ、僕たちSランク冒険者のような存在が該当する。
「そのさ、騎士にはなれないかもしれないけどそれに関われる仕事はいくらでもある。例えば、事務仕事とか常に募集している騎士団は多い」
「そ、そうですけど……私は騎士になりたいんです!!」
そう確固たる意志を見せる彼女の瞳の奥には燃え滾る誇りと闘志が滲んでいた。
おそらく、単純に騎士が好きだからとかそう言う理由ではなくその先に見据える何かがあると見ていいだろう。
「だとしたら、Sランク冒険者に成れるくらい強くならないとね。うーん、どうしたもんか」
「ならよアポロのクランで鍛えてもらったらいいんじゃねえか。Sランクだし、盾しか扱えねえお前の欠点も解消できるんじゃねえのか?」
「僕の所で!?」
確かに、フレムさんの通り僕は戦士としての一面もある。
そのため、指導ができないかと言われれば嘘になる。
ただ、僕がこのクランを作ったのはおばあちゃんと再会するためのレリックを探すためだ。
完全に部外者である彼女にこの目的に巻き込んでいいものか
「私がアポロさんのクランで……!!」
僕は悩んでいるが当の本人は少し何故だか少し嬉しそうだ。
こういう顔をされると僕は弱い。
なので、助けてくれと言わんばかりにクランマスターのアフェに視線を向ける。
すると、彼女はわかっていると言わんばかりに軽く頷いてイージスに向き直った。
「イージス。この後、あたしたちのクランハウスに来てじっくり話の続きをしましょ」
「え?」
「はい!!」
てっきり時間を稼いでくれるかと思ったが、むしろ僕の選択を速める結果になった。
(い、いやこの場で決定とならなかったから良しとするべきなのか?)
だが、彼女がこちらを振り向いたとき悪戯っ子のようでもあり悪魔のような邪悪な笑みを浮かべているのを見て後悔するのだった。




