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第25話・契約の果て

契約編ラストバトル!

 



 ベスクワルが背中側から攻撃を受け、怯んだ瞬間――


「返してもらうぞ。僕の大事な仲間を!!」


 その隙を見逃すことなく、走りながらマジックバッグからナイフを取り出し投擲し立ち上がらせない。


「やめっやめろぉ!!」

「問答無用ッ!!」


 そのまま、なすすべなく一瞬の隙を刈り取られたベスクワルの顔面に拳が飛び迷宮の主の扉に叩きつけられた。


「……?」

「言ったでしょ。大丈夫だって」


 完全に何が起きたのかわからず、彼女の表情は困惑一色だった。


 と言うのも、第一世代魔術は意外に融通が利く。

 今回の場合は、圧縮しておいた水の塊を先に設置しておくというおぜん立てが前提だったものの詠唱を崩して発動できた。


『”水”は解放されて僕の元に”帰ってくるんだな”』


 会話文に魔力を込めることで、詠唱を成立させたのだ。

 特に『帰ってくるんだな』と言うフレーズに大量に魔力を込めて威力を増大させた。


(危ない危ない。一歩間違えたら暴発して怪我してたのは僕だった)


 正直、話している間は腹部の怪我も相まって冷汗が止まらなかった。


「アフェ。悪魔の方をお願い。それと、僕はこいつを仕留める」

「っ、はいはい。終わったら、文句の一つでも言わせてもらうわ」

「お手柔らかにね」


 軽口を言い合いながら悪魔の方を任せる。


 確固たる証拠は目の前のこいつを倒す大義名分を得た今、体にある悪魔との契約の跡を見つければいい。


「あ、アポロさん。傷が……」

「大丈夫。イージス、カタリナを頼むね」

「は、はい!」


 ついさっきまで、自分が人質に取られたというのに出た一言目が僕の心配だということに自然に笑みが漏れる。


 それに、少し上った血が落ちついて来た。


「な、何をした!!なぜ、魔法が発動した」

「魔法じゃなくて魔術だよ。まあ、爪が甘かったってことだ」


 それこそ、僕がグシオンにやったように声帯を引っこ抜くなりすればこうはならない。

 魔術師相手に正面から交渉なんて真似をするからこうなるのだ。


 すると、指摘された奴の表情がリンゴのように真っ赤に染まる。


「黙れ黙れぇ!!剣もない手負いのお前なんて、俺の魔法でぶっ殺してやる」

「なら来い。格の違いってやつを見せてやる」

「ッ!!どこまでも、俺を馬鹿にしやがって。来い『徴兵命令・猟狼(サモン・ビィスウルフ)!!』」


 奴の複雑な刻印に魔力が灯り、黒い渦の中から鋭い牙を持つ中型の狼が四匹出現する。


「これだけじゃない!来い『徴兵命令・水牛サモン・チャージングブル!』『徴兵命令・狩隼サモン・ジャツファルコン!』」

「へえ、色々出せるんだ。」


 奴の詠唱と同時に両脇に僕と背丈と同じくらいの大きさの牛が一体、空中には頑強そうなかぎ爪が光る隼が二匹、黒い渦から現れる。


 おそらく、出せる量も質もは本人の魔力量依存だろうが流石は第四世代以降の魔法だ。


 それを前にしても余裕な口ぶりは崩さない。


 悟らせてはいけない。


「行け!」


 主の命令を聞き、いの一番に駆け出したのはその鈍重そうな体に似合わない加速力で突進してきた牛であった。


 その強靭な体は風を裂き、側面で受け流し僕を押しつぶさんと迫ろうとする。


「『”風”よ。我が前方10ⅽm先に横3mm、高さ5m、縦1mの風刃を作り出し”直進せよ”』」


 だが、牛が動き出した瞬間に既に詠唱は完成されている。

 生成された縦長の風刃が真っすぐ迫り、牛を真っ二つに切り裂いた。


 残念ながら僕の風の刃は強靭な体では受け流せなかったようだ。


「キィィィ!!」

「落ちろ鳥ども」


 迫る隼たちだって関係ない。

 外ならまだしもここは迷宮内だ高度の限界がある、その上奴らに遠距離から攻撃する手段はない。


 降りて来たところに嘴を掴んで捕まえ握りつぶせばすぐ消えた。


 だが、動くたびに穴の開いた腹からぐちゅぐちゅと耳障りな音と振動が脳に伝わってくる。


「くっ、くそ!行け!行け!」


 おそらく時間差で攪乱するために取っておかれたであろう狼たちに指示を出し動かす。

 だが、もはやその程度で好転する状況じゃない。


 おそらく、援軍を呼ぶための時間稼ぎだろう。


「『”火”よ。我が前方10ⅽm先に横25ⅽm、高さ25ⅽm、縦25ⅽmの”風”と混合、圧縮、発進、激突次第解放せよ』」


 だが、そんなことは許さない。

 泥沼を作った時のように火と先に出しておいた風を混合させ、なおかつ圧縮する。


「なんだその魔力は!?」


 そのまま、落ちていった火球は隊列を組んでいた狼たちのちょうど中心辺りに炸裂し奴らを灰に変えた。


「人間相手とか、屋内であんまり使いたくないって言うのもあるけど召喚された者、それと下種野郎相手なら容赦なく火の魔法もぶっぱなせる」

「な、なんなんだぁああ!!」


 直撃はしていないため軽傷だが、

 風を含んでいるため相応に吹っ飛び今は壁に背中をこすりつけて叫んでいる。


「それは、お前のせいで死んだ奴ら全員が思ってたよ」


 きっと、奴にとって僕は悪魔のように見えていただろう。

 だが、それ以上に僕の目にはこいつが悪魔以上にどす黒い何かに見えていた。


(俺だって……)




 ***




 クランを継いだ頃、俺はまだ何も知らなかった。

 これまでの努力が実を結んだおかげか、刻印を継いで僅かの間にAランク冒険者まで駆け上がった俺を認めてくれたと思ったんだ。


『……なんだよ。これ』


 だけど、マスターに就任して俺はすぐに知ってしまったのだ。

 裏帳簿の存在を、そこには実際にギルドへ報告している財務諸表とは全く違う数字が記載されていた。


 一言で言えば、赤字。


 クランはギリギリの土俵際でつま先立ちしているような状態だった。


『お前は、何もするな。私に全て任せておきなさい』


 そう言った親父を見て悟った。

 俺は、いざと言う時切り捨てられるためのお飾りクランマスターなんだと


 親父は表向きはクランマスターを譲った形になっているが、実際は役員に居座り、幹部連中も支配することで実権を完璧に握っていた。


『くそが、くそがぁ!!』


 そうやって、何もできず蹲っている間にもクランの財政は悪化し、必要以上に冒険者を抱えるようになっていた。

 そんな時だった――それをクランマスターの部屋で見つけたのは


『悪魔を呼び出す……本』


 眉唾ものかもしれない。

 そもそも、こんなの持っているだけでも犯罪だ。


 ――だけど、こいつなら全てを変えることが出来るんじゃないか。

 対価は、幸いにも自身のクランにいくらでもいた。


 出て行かせるくらいなら、生贄にでも何でもしてやる。


『はっははははは!!』


 既に、俺は悪魔に魅入られたとかではなく。

 悪魔自身になっていたのかもしれない。




 ***




「俺が変える!変えるんだぁ!!」


 しかし、予想に反して怯えた表情に似つかわしくない目となったかと思えば立ち上がった。


「……へえ、ただの屑じゃないのか。伊達にAランクってわけじゃないね」

「まだ、負けじゃない。まだ、まだだ!何も、始まってない。これから、俺が勝って始めるんだ!!」


 もう時間が無い、僕がこうやって魔術を発動できる回数も限界が近い。


(虚勢を張れ、お前は元騎士で今は、Sランク冒険者だろ!!仲間を守れ)


 自身の肩書と責任でほつれて溶けそうだった意識を縛りあげる。

 それでも、魔力が体を流れるたび限界だと脳が危険信号を常に鳴らし続け始めた。


「これが、俺の最後の魔法だ。来いッ!!『強制徴兵(ツヴァングサモン)()契羅機神(ミスラ)!!』

「っ!?」


 これまでとは違う。

 そう肌で感じ取れてしまうほどの圧倒的な気配、それこそ気を強く保っていなければ今にも押しつぶされてしまいそうだった。


 いつも召喚で使われていた黒い渦が白い閃光と共にかき消され呑まれ、白い渦に変わっていく。


「何だ、これ……?」


 呆然と現れた”それ”に視線が奪われる。

 一瞬、青年にも見えてしまったが、すぐに違うとわかった。


 信じられないほど無機質な黒鉄色の肌、明らかに人工物とわかる瞳、動くたびに関節がぶつかる音がする体、そして肩だけでなく背中側にも生えている腕、合計十本だ。


「本当に何!?」

「行け契羅機神(ミスラ)!!……ごふっ」


 見たことのない物に動揺している内に、ベスクワルは呼んだ召喚獣?に命令しこちらに発進させる。

 ただ、流石にあれほどの物をノーリスクで操れるわけではないらしくその場で倒れ込み吐血した。


「『因果ヨ回レ業ヲ乗セテ(ーーーーーーーーーー)』」


 人間からは発せられないような抑揚のない声。

 だが、魔術師である僕はそれが詠唱だといち早く感じ取った。


 けれど、感じ取った時にはもう遅い。


「がはっ……」


 体に同時に十発の衝撃が走ると同時に体が後方にのけぞる。


(なんだ?魔力の軌跡が読めない)


 一撃、一撃は大したダメージではないものの数撃、傷のある腹部に突き刺さったせいで意識が飛びかける。

 だが、それでも倒れない。


 それよりも、問題は相手の攻撃が何かわからなかったことだ。


(十発、当たったのはあの手か。だとしたら、何で……いや、思考を切り替えろ。逆だ、当たる前提で動け)


 これが一撃必殺とかであれば対抗策を立たせる必要があったかもしれないが、そんな余裕はない。

 それにこの傷では、満足に動けなくなる時も近い。


 そんな僕の対抗策は――


「やられる前にやる!!「『”火”よ。我が前方10ⅽm先に横25ⅽm、高さ25ⅽm、縦25ⅽmの”風”と混合、圧縮、発進、激突次第解放せよ』」


 例外を除いて僕が扱える基本の魔術の中で、最大最高火力を持つ業火球

 それが、メラメラと自身の前で渦を巻いて収束するとすぐさま発射される。


 これをまともに食らって無事でいる者なんていない。


 そう確信していた。


 だが――


「守れ!!」

「『護法、(ーーー)ダルマパーラの万手(ーーーーーーーーー)』」


 再び、謎の詠唱と共にミドラの背面に取り付けられた手がそれぞれ意志を持ったように動き出す。

 すると、僕の放った火球を八本の腕が蜂蜜のように伸び包む。


 瞬間、炸裂音と同時に衝撃が来るも何事もなかったように腕は元の位置に戻って行った。


「嘘、だろ……」


 今の魔力量だとあれが最高火力だったというのに、この様と来た。

 理論上、あの魔法なのかもよくわからない技を使われ続ければ魔術では勝てない。


(だけど、このまま持ちこたえれば契約者の方が先に限界が来る……)


 それでいい、僕は元騎士だが正々堂々という言葉が似合う者でもない。


「まだ、まだと言っている!まだと言えば、負けにはたどり着かないっ!勝つ、勝って”まだ”を超える。始まりに行くんだ!」

「……」


 完全に頭の中がイカレてしまった彼を見て僕は一瞬目を閉じ、考える。

 行動がどれだけ屑でカスでも、そこへ向かおうとする信念にケチを付ける気はない。


「アフェ。レインボーソード頂戴」

「え!?わ、わかったわ!」


 アフェが引き抜いたレインボーソードを受け取る。


 だから、ベスクワルの限界を待つ前に倒しきる。

 相手は、自分が血反吐を吐こうと立ち上がり、挑戦する覚悟を見せた。


(単純な話だ。あいつ以上の覚悟を見せつければいい)


 血の滴る腹部には目もくれず剣を構えた。



因果ヨ回レ業ヲ乗セテ(ーーーーーーーーーー)

・謎の機神が使う魔法なのかもわからない技

・因果を逆転させ『当たった』と言う結果を先に届ける

・なお、威力は普通の人間が食らえばすぐ肉塊に変わるくらいはある物の、魔力で強化された肉体へのダメージは弱い

・発動するために召喚者の魔力を使うので今回は連発できなかった。

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