第24話・油断と隙を与えたから
コボルトロードの攻防が終わった頃、僕は後ろに残った四人を覗き込む。
(目を閉じなかったのはベスクワルさんだけか)
僕が呼びかけた三人はすぐ動いてコボルトロードを倒してくれた。
だが、カタリナはともかく他の二人の冒険者が呼ばれずとも動かなかったことに少し呆れてしまう。
(ベスクワルさんの安全を最優先したってことにしておこう。残るのは一人で良い気がするけど)
思考を切り替える。
現状、コボルトロードを倒し、悪魔はもう抵抗はできない。
しかし、誰が悪魔を召喚したのか決定的な証拠をまだつかめていない。
「『”水”よ』いや……『”風”よ。我が後方1mから横10m、高さ5m、縦15mに固定し吹き続けろ』」
魔力を込める量は多くもないし、少なくもない程度に納める。
これにより、範囲内の人間が体感少し涼しくなったと思うくらいの風が展開される。
「『”水”よ。我が後方11mから横10㎝、高さ10ⅽm、縦10ⅽmに固定化圧縮し待機せよ』」
「はあぁああ!」
彼女が何か言っているが気にせず、ちょうどベスクワルさんを飛び越えて出口の扉の前に小さな水の立方体を作り出す。
それも、魔力量は先に出した風と同じくらいになるようにしておいた。
「答えろ。グシオン」
「ひぃはぃぁぁあ!」
当然と言えば当然だが、声帯を引っこ抜かれているため何も言えず空気が漏れる音しかしなかった。
ただ、僕も鬼じゃない口で答えろなんて言っていない。
「お前の契約者がここにいるなら指を刺せ!」
後ろにも聞こえる大声で彼女に問いかける。
すると、獣のようなうなり声が一瞬聞こえたような気がした。
「……!」
喋るのは不可能と見て、頭を横に振り無言の抵抗を試みる。
これだから、悪魔と言うやつは憎もうと思っても憎み切れない。
たとえ、僕がこの後こいつに何をしようと口を割ることはないだろう。
(……だけど、悲しいかな。人間の方は君ほど高潔な存在じゃないんだ)
半ば諦めたような、呆れたようなそんな目で次のアクションを起こす。
「そうか、刺さないか。でも、報酬もよこせない主に義理立てする理由がお前らにあるのか!?」
わざとらしく、大声を上げ彼女を諭す。
おそらく、こいつらは十分な報酬を与えられいない。
でなければ、主の反感を買ってまでインプを道中に放った理由が説明できないのだ。
(僕の予想だとこの主の部屋にやってくる僕たちこそが悪魔の報酬だと思ったんだけど、どうかな?)
「……!!」
だとしても、彼女は首を縦には振らない。
だが、主の方は100%悪魔を信じることが果たして出来るのだろうか。
「おい、こっちを見ろ!」
「きゃあっ!!」
後方で、醜い声とカタリナの叫び声が聞こえる。
振り向くと、ベスクワルが彼女を捕まえ剣を抜き首筋に当てていた。
「な、何してるんですか。クランマスター!!」
「そうだ。いくら何でも冗談じゃ済まされねえぞ」
イージスが声を上げるのも無理もない。
彼女の視点からすれば、多少怪しいと思っていても自分のクランマスターが少女を人質にしているのだから。
他のメンバーは突然の豹変に困惑しているらしい。
「黙れ!おい、お前だ。お前だアポロ」
「た、助けて……」
「聞こえてますよ。それで、何のつもりですか?それとも、『”水”』でも飲みたいんですか?」
マジックバックに入れておいた水筒を差し出しても機嫌はよくならない。
彼の目は血走り重度のストレスで精神的に限界を迎えたようだ。
その状況で最も弱い者を捕まえて精神的優位を持とうとしたという所だろう。
「茶化してんのか!俺の命令に従え。さもなくばこいつを殺すぞ!」
「わかった。その前に一つ聞かせてほしい。この悪魔はお前が召喚した者なのか?」
「そうだ。だが、それが外部に知られることはない。お前らはここで死ぬからだ!」
完全に頭がイカレてしまっている。
よだれが口から漏れるのも気にせず、思ったままのことを口に出している文字通りの暴走状態だ。
「へえ、その割に結構お粗末な命令だね。インプ放ってたし、お前が」
「あ、あれは初めてだから失敗しただけだ!今度はうまくやる。だが、それをお前らが知ることはないがな」
(初めて?)
それは、おかしい。
だとしたら、昨日出会ったゴブリン迷宮の主の部屋で待ち構えていたフォラスは一体何だったんだ。
嘘と言う線もある。
ただ、今の反射だけで喋っていそうな彼にそんな余裕があるようにも見えない。
「ともかく全員武器を置け!魔法の詠唱なんてするなよ。悪魔は放せ!!」
「アポロさん。ダメです!!」
「アポロ……」
止める声、どうすればいいかわからず判断を仰ぐ声
だが、現時点ではどうしようもない。
「カタリナ。まだ、あのレリックは持ってる?」
「っ、はい……!」
「わかった。なら、置こう。みんなも協力して欲しい」
契約のことを思い出し心の底から絶望した表情を浮かべるカタリナ
それを見て、僕は安心させるために笑みを浮かべる。
「アポロ。あんた、まさか」
「アフェ。わかって」
「……わかったわ」
互いに顔を見合わせて、全員が武器を置く。
それをニヤニヤとした邪悪な笑みでその様子を見降ろしていた。
最後に、僕は首根っこ掴んでいた悪魔を手放した。
「これで、カタリナ『は解放されて僕の元に”帰ってくるんだな”』」
「ああ、お前がここで死ねばな!!おい、悪魔。アポロを殺せ、ちょうど傷口があるだろ」
「あぁぁぁ!!」
迫る悪魔の凶刃
たとえ、声帯を潰されようが彼女が元来持つ力が消えたわけじゃない。
よって、僕はこのまま突っ立っていれば切り裂かれるだろう。
「がはっ!?」
それは、カタリナが奪還されない前提で成り立っている。
そして、予想とは裏腹に”水”の凶刃に身をさらされたのは僕ではなくベスクワルであった。




