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第23話・あんたの隣で

投稿するの忘れてたぜ!



 アポロが悪魔を戦闘不能にさせている一方で、咄嗟の指示で動き出した三人はコボルトロードに向かっていた。


「私が抑えます。二人が攻撃を!!」


 巨大な大盾と装備を着込んでいるとは思えないスピードで接近しコボルトロードの攻撃を受け止める。


「ええ、フレム。動きを止めて」

「簡単に無茶言うな!『業風炎花(グロースブラント)!!』」


 詠唱と同時に彼女が向けた掌の先から大火が生まれ魔物を襲う。

 火と風、基本の二つを発生させる刻印を混ぜることで生まれた第三世代の魔法である。


「グオォォォォ!!」


 だが、それに構わず咆哮を上げると肉体に刻まれた刻印に魔力が通る。

 すると、フレムさんの姿を映せるほどの滑らかな純氷の盾が生成され大火を防いだ。


「なっ、氷って……あたしと同じ第三世代か。コボルトロードがこんな魔法を使ってくるなんて聞いたことねえぞ」

「悪魔の仕業ね。でも、氷なら炎で何とかできないの!?」

「長時間当てられれば何とかってところだな。ぶっちゃけ、氷は物理でぶっ叩いた方が早い」


 そう、氷は溶けていくとそのたびに熱を吸収していく。

 そして、厄介なことに相手の魔法発動中は氷の盾が生成され続けるようで彼女の炎では溶かしきれない。


「グオオォオォォ!!」


 だが、相手も悠長に待ってはくれない。

 先ほどとは違う咆哮、それが意味するのは氷の盾以外の魔法の詠唱であった。


 空中に先端が鋭く光を反射する氷の礫が生成される。


「アフェ。あたしの後ろに下がりな『グラウンドウォール!』」


 それを確認した、フレムはすぐに地面に触れながら魔法を起動する。

 すると、目の前に分厚い土の壁を生成して見せた。


「あんた、土の魔法もいけるのね」

「つーか、基本の四属性は全部行ける。ぶっちゃけ、魔法の才能はアポロよりもすげえはずなんだけどな」

「それ、本当?」

「本当だよ。知らねえのか、魔法使いの実力は才能が9割だ」


 刻印を継承できるか、出来ないかも一種の才能だ。

 実際、フレムの魔法の才能はアポロよりも優れている。


 アポロが詠唱しなければできないことを彼女は一言で行えるのだから。


「……そう、あいつってめちゃくちゃ努力してたのね」


 その呟きは、氷の礫が土壁に激突する音でかき消されていった。



 やがて、氷の礫で突破できないと察したコボルトロードが動き出す。


「これ以上は通しません!」


 それを前にしてもイージスは一歩も引かない。

 氷の礫だろうが、コボルトロードの斬撃だろうが、的確な角度で受け流し続けた。


 しかし、そのたびに盾を持つ左腕が震え痺れが限界に達しかけていた。


「あたしが出る。あんたは、魔法でコボルトロードの動きを阻害して。当てなくていいわ」

「正気か?」

「正気よ。安心しなさい。あたしが、一体どんな化け物と一緒にいるか知ってるでしょ?」


 そう言って、彼女は土壁を出る。

 自分で正気だと言っていたが、正直内心は穏やかではない。


 昔の自分を思い返せばこんな所まで来るなんて想像もつかなかった。


(でも、あたしはあいつの隣に並びたい)


 その願いを胸に短剣を構える。




 ***




 二年前、あたしの人生は真っ暗闇に包まれていた。


 一年後とか、十年後とか、未来のことを考えるどころかその日を生きることで精一杯でいつも胸の中がぽっかり空いている。


 意味もなく生きているようなそんな毎日だった。


「はぁはぁはぁ!」


 デュランクの街の路地裏を必死に走る、走る。

 だが、後ろを少し振り向くと男がもうすぐそこまで迫ってきていた。


 こっちは息が切れてもう限界なのに、相手は顔色一つ変わらない。


「はい、捕まえた。盗んだ物、返してもらうね」

「っ、放せ!放せよ!!」


 あっさりと捕まってしまったあたしは藻掻くが全くの無意味だった。

 そのまま、盗品を全て奪還された上に常習犯だとバレて魔術で拘束されてしまう。


 薄気味悪いくらい光の灯っていない瞳、ぼさぼさの髪、整えられていない髭、はっきり言ってあたしより悪い奴に見えた。


「あんた誰だよ。あたしに、何するつもりだ!」

「……ああ、自己紹介してなかったね。僕はアポロ。しがないEランク冒険者さ」


 これが、あたしとアポロの初めての出会いだった。


 正直言って、最初の印象は最悪どころの話ではなかった。

 捕まった瞬間は今にも奴隷商にでも何でも売り飛ばされるものとかと戦々恐々していた。


「ほら、行くぞ」

「え?」


 だが、次に彼はあたしを無理やりどこかへ連れていた。


「ごめんなさい。ほら、言って」

「ご、ごめんなさい」


 まさかの、あたしがこれまで窃盗を行った相手に向けての謝罪行脚だった。

 肉屋、魚屋など店はもちろん個人へも謝罪に行った。


 そのたびに、あたしは責められるし、あたしを罰しようとしないアポロにも暴言が浴びせられた。


「ごめんなさい。僕の監督不行き届きです」

「ごめんなさい」


 アポロは何も悪くないのに、あたしと一緒に怒られてくれた。


 最初は、早く終われと思っていただけだが謝るたびにあたしだけじゃなくアポロも貶されて最後の方は胸が痛くて泣き出しそうになった。


「な、何でアポロはあたしにそこまでするの?」

「気分かな。君が可愛かったから~とか、かもよ」

「嘘だ!あんたの実力なら、あたしを無理やり手籠めにだってできた。それとも、同情か!同情であたしを助けたの!?」


 そんなはずはないのに、適当にはぐらかす彼に腹が立ったあたしは思わず声を上げた。

 その瞬間、全く光が灯っていない瞳が一瞬だけ水面のように揺れたような気がした。


「それで大体あってるよ。ただね、僕は君を捕まえた。そのまま放置すれば確実に君の人生は終わるだろう。最悪、死ぬより辛い目に合うかもしれない」

「っ!」

「それだと、僕の寝覚めが悪いんだよね。だから、助けた」


 淡々と彼は告げる。

 昔から、はぐらかす癖はあったが本当のことを話すときは包み隠さず伝えるところも変わらない。


 改めて彼はその場で屈んであたしの目線に来る。


「それで、君はどうしたい?」


 その時の衝撃は今でも脳裏に焼き付いている。

 最初は怖かった彼の顔が、とても優しく、眩しく、そして痛々しいその笑顔に変わった瞬間を


「あたしが……?」


 息を呑む。

 彼は、今日や明日の話をしているわけじゃない。


 ずっと、未来をあたしに問いかけてきている。


「あたしは……あたしは、生きたい。普通に生きたい」


 泥棒一家で生まれた、あたしが必然的になれるのは泥棒だけだった。

 両親は、あたしが14歳の時に捕まって必然と一人で盗みを続けてきた。


 だけど、そのたびに普通に生きている奴らが眩しく見えた。


「あたしみたいな、ゴミでも普通に生きれるかな?」

「わからない。君がそうなりたいと願うなら、これまでの業が君の足を引っ張るだろうね」


 こういう時、決まってアポロは断言しない。

 だけれど、誰よりも優しい顔をしている。


「だけど、君がその思いを持ち続けられるなら。いつか、その日が来るかもしれない。僕はその背中くらいは押してあげるから」

「うっ、うあぁぁぁああああんっ!!」


 あたしは、散々彼の中で泣いて泣いて、泣き続けた。

 もう、一生分を使い果たしたくらいかもしれない。


 だけれど、間違いなくあたしの一生はここが転機になった。


「それで、名前はなんていうの?」


 自分の名前はやたら長くて好きじゃない。

 あたしに似合わないって思うし、名乗れば決まって笑われる。


 アポロもあたしの名前を聞いて少し顔をしかめた。


「長いな……じゃあ、アフェって呼んでもいい?」

「アフェ?」

「ああ、短くしてアフェで」


 アフェ、それが今のあたしの名前。

 それを名乗り始めた日からあたしは生まれ変わった。




 ***




 コボルトロードを視線に捉える。

 武器はあたしの身長よりも大きな長剣と氷の礫を放つ魔法


 氷の盾は問題なくあたしの力なら破壊できるだろう。


(情報屋としての技術も居場所も命も名前も全部アポロからもらった。あたしの英雄)


 普通に生きたいという願いは、いつの間にか彼の隣で生きたいものに変わっていた。

 だけれど、これからも彼の隣にいるためには相応の実力が必要になる。


「だから、あんた程度に苦戦するわけにはいかないのよ」


 短剣片手に一瞬で最高速度に達する。

 だけれど、アポロならともかくあたしの最高速度なんてたかがしれている。


 コボルトロードですら当てることが出来るだろう。


「グオオォオォォ!!」

「全部防げるわけじゃねえからな!『業風炎花(グロースブラント)!』」


 氷結の礫が嵐のようにあたしを襲う。

 それを、土壁の影から大火が放たれ粗方消え去って行く。


「十分よ」


 放たれる礫をあたしは次々と躱していく。

 偶然ではなく大したことない最高速度でも避けられているのには理由がある。


 それが、泥棒時代に鍛えた加速力


「なんだあの動きは!?まるで、蛇みたいだ」


 フレムの驚きも頷ける。

 0から100への驚異的な加速力によって蛇行しながら進む彼女は蛇を幻視させた。


「肩借りるわ」

「どうぞ!」


 すぐそこまで接近したあたしはイージスの肩を借りて跳躍する。

 そこまで、来ればもうコボルトロードの眼前まで近づいてきてた。


「グオォォォォ!!」


 だが、相手も馬鹿じゃない。

 咆哮に伴う詠唱で、目の前にあたしを写す氷の盾が生成された。


「邪魔よ!」


 魔力で強化した肉体で氷の盾を一閃、切り裂いて見せた。

 だが、その隙間から勝利の笑みを浮かべる顔が見えた。


 そう、空中でこれ以上移動はできないとそう察しているんだろう。


「伸びろ」


 その時、あたしは短剣に魔力を込めて刻印を起動させる。

 それによって、短剣の刀身が伸びコボルトロードの皮膚を突き破った。


「縮め!」


 そして、あたしのレリックは縮む方向を任意で決めることが出来る。

 いつもなら、手元に戻しているが今回は剣先に戻すように設定しておいた。


 つまり、短剣を持つあたしは刺さった個所に手繰り寄せられ目と鼻の先に迫れたということだ。


「さようなら。伸びろ!」

「オグオォォ!!」


 そのまま、頭の上に飛び乗ったあたしは魔物の柔い眼球に向けて刃を突き刺し伸ばすことで奥の脳みそを貫いた。


 やがて、その場でのたうち回るコボルトロードは動きを止め魔石へと姿を変えた。


「すごい……私と同じで魔法使いでもないのにコボルトロードをあっさり倒しちゃうなんて」


 感嘆の声を上げるイージスを後目に、コボルトロードの魔石を見つめる。


「……よし」


 数秒後、静かにガッツポーズをしたあたしは確かな成長を噛みしめたのであった。




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