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第22話・時間は止まれど、止まらない

 


 一体何が起きたのか、わかったのはわからないという事だけ

 残ったのは、急に腹から血が噴き出してきたという結果だけだった。


「アポロッ!!」


 その僕の異変に気づけたのは、最も近くにいたアフェのみであった。

 それ以外は、そもそも何が起きたのかすら察知できず悪魔の存在に驚いているだけだった。


(腹から血が……いや、致命傷じゃない。心臓辺りにも同時に衝撃があった。それに、僕以外は攻撃されていない)

「ふっはぁはははは!!どうかしら!どうなのかしら!何が起きたかわからないでしょ」


 魔法を使い謎の攻撃を仕掛けてきた悪魔は自身の白い長髪を手で払いながら高笑いし始める。

 手にはコボルトが持っていた物と同じ剣が握られている。


 おそらく魔物に見せかけるための物だろう。



 思考を急加速させる。


(凶器はあれか。いつ持ったのかすら見えなかった。つまり、魔法による斬撃じゃない。なおかつ、僕は無抵抗でやられた)


 つまり、不可視の攻撃ではない。

 もし、一瞬で攻撃を当てる能力があったとしても僕なら斬撃が入った瞬間に反応できる。


 だが、それもなかった。


(同時の衝撃。魔法発動の瞬間に攻撃が来た。よく見れば、あの悪魔ほんの少しだけ左に動いてるな)


 加えて、衝撃は完全に同時だった上に周囲への被害もないため超スピードの線もあり得ない。

 何より透明化でもない限り僕が相手の攻撃を”完全”に見逃すなんてありえない。



 瞬きすらできない刹那で、思考は完結した。

 そして、出た結論は僕の常識を軽く超えた物だった。


「時間停止」

「……へえ、わかっちゃうんだ。すごいね。人間の癖に」


 雰囲気が変わる。

 へらへら笑っていた頃がついさっきとは思えないほどの変わりにように僕も思わず背筋が凍った。


「時間停止ですって!?」

「そう、それが上位悪魔(アークデーモン)である。この私、グシオンの魔法よ」


 時間はほんの少し前に遡る。




 ***




 アポロが主の部屋の扉を開けた瞬間にグシオンは先手を取れるよう刻印に魔力を込めた。


「宇宙の法則に堕ちなさい!『アウグスティヌスの(ザ・アブソリュート)告白(ゼロ)!!』」


 魔法の発動と同時に世界が凍る。

 アポロの予想通りこの魔法発動中は、自分と自分に魔法の発動前に触れていた者、自分が指定した者以外の時間を停止させ動けなくなるのだ。


「ここからは、私の時間よ」


 こうなれば、この後やることは簡単である。

 主の指示通り魔物に殺されたと偽装するためにわざわざコボルトの剣を取り出し近づく。


「あなたの時間も貰っていくわ」


 当然、防御なんて一切できないため最後に無防備な心臓に向かって一突き。


「硬っ……魔力で防御してたのね」


 と思っていたが、まるで巨大な岩でも突いたような衝撃が腕を襲う。

 この時、アポロは扉を開ける前から嫌な予感を察知して急所を魔力で全力で防いでいたのだ。


 そのため、コボルトの剣と言うなまくらでは貫くことが出来なかったのだ。


「なら、こっちね」


 だが、急所以外の部位への攻撃は通じる。

 そう判断した私は彼のお腹目掛けて刃を突き刺した。


 出血を悪化させるために刺した後、少し左右に動かしてから抜く。


(残念。今は、これが限界ね)


 噴き出す血が空中で止まったのを確認した後、元いた場所に戻り魔法を解除した。




 ***




 そして、時間は現在に至る。


「悪魔がいることにも驚きだって言うのによ、時間停止だなんて無法すぎるだろ!」

「いい顔してくれるね。止まっていた時のアホ面もよかったけど、そっちも好みよ」


 フレムさんが僕の言いたいことを大体言ってくれた。

 僕もここまで生きて来て時間停止の魔法なんて聞いたことがなかった。


(でも、一気に全員を殺さないってことは何か制限があるな)


 時間、歩数、魔力、肉体、一体どこに制限があるかはわからない。

 だが、あの表情から停止できる回数にはまだ余裕があるのは読み取れる。


「アポロ。その怪我大丈夫なの?」

「……」


 アフェの心配の言葉に対して僕は何も返答しない。

 実際に傷口から血が噴き出しているし、止まる様子もない。


「大丈夫な訳ないでしょ。ちゃんと、傷口を抉っておいたしコボルトの剣には毒もついてるから」


 彼女の言う通り剣で抉られたと言っても流石に血が噴き出しすぎている。


 コボルトの剣には血をサラサラにする毒が入っていると聞く。

 彼女が四肢ではなく腹を狙ったのは失血死辺りが狙いだったんだろう。


「厄介だな。でも、もう突破口はわかった」

「ブラフね。私の時間停止の魔法に突破口があると思ってるの?」

「ああ、あるさ」


 焦りを悟らせないため、自信を見せつけるために唇を先端を尖らせながら言い放つ。

 僕もこの状況は流石に予想外だし、慌てたいが痛みを何とか歯を食いしばって耐えているのだ。


「全員、聞いてほしい。おそらく、相手の魔法は催眠術に近いものだと思う。だから、相手が魔法を使おうとした瞬間に目を瞑るんだ」

「ふっ」


 その時、ベスクワルさんの方から嘲笑うような声が聞こえたと同時に、フレムさんが声を上げる。


「目を瞑る!?正気かよ。あんなの前で目なんて瞑ったらいい的じゃねえか」

「ああ、だが結局あの魔法の餌食になれば関係ない。なら、イチかバチか目を閉じて戦うしかない」

「ははっ!目を瞑って!?私に勝てるなんて……夢は寝てないと言えないのよ。それとも、今すぐ棺で眠らせてあげようかしら」


 この時、彼女がさっきまでの高笑いに戻ったのには理由があった。


 もちろん、目を瞑って勝てると思っているのもある。

 だが、何よりも面白かったのは相手が彼女の魔法を勘違いしている所だ。


(私の魔法が催眠術?そんな、ちゃっちな物と同じにされては困るわ。なら、その威勢の良さに免じて次でトドメを刺してあげる)


 そうなれば、相手の精神的支柱を破壊することが出来る。

 彼女は自分の魔法を一発で当てたことには感心したが、この程度かと不敵な笑みを浮かべた。


「大丈夫なのね」

「ああ、僕は必ず勝つ」


 疑う気もないアフェの一言に背中を押される。

 傷口からは絶えず血が出てきているけど、不思議と頭の中には『勝利』の二文字がよぎっていた。


 レインボーソードを腰から抜き構える。


「時間が止まるのよ。それがどういう意味か分かっていないのかしら?」

「僕が勝つってわかっていれば、その意味を知る必要はないさ」

「口数が減らないわね」

「止めれば減るんじゃない?それとも、出来ないんじゃないか」


口先だけの応酬。

深くにらみ合いながらも彼女は魔力を溜めている。


おそらく、時間停止には多かれ少なかれ溜めが必要なのだろう。


(使え、使え時間停止を……)


だが、中断させる気はない。

むしろ、待っている時間停止を使えと、使った方がいいと思い込ませる。


「宇宙の法則に潰れ、恐れ、絶望の中に沈みなさい」

「来るぞ!」


 奴の刻印に魔力が通る。


(決着は一瞬で決める!)

(決着はこの時間で決めるわ!)


 それと同時に、僕の合図とともに言葉を信じてくれた仲間たちは全員目を閉じた。


「『アウグスティヌスの(ザ・アブソリュート)告白(ゼロ)!!』私の時間よ!!」


 魔力が放射状に広がり、時間が停止する。

 使用者である彼女を除き、その場にいる誰もがこれからのことを認識すらできない。


 待っているのは、理不尽な『敗北』である。


「うわぁあぁぁあああ!?」


 そのはずだった。

 けれど、実際はそうはならなかった。


 時間停止は発動した瞬間に解除され、そこにいるのは目を焼かれたように手で押さえてのたうち回る彼女の姿だった。




 ***




 話は、アポロが目を瞑ろうと提案してグシオンが高笑いしている所まで遡る。


 正直、催眠術の類ではないとは感じ取っていた。

 そもそも、僕にそう言った類のものは効かないし、それならもっと痕跡が残る。


(時間停止……随分、都合よく停止するみたいだな)


 本当に何もかもを停止させるなら、空気だって動かないし、光だって目に入ってこず何も見えなくなり、物は動かせない。


 使用者にとって都合が良すぎる能力だが、今回はそれが穴となった。


(体は動かなくても、光は動けるみたいだな。アホ面って言ってたし)


 眼球と言うのは何かを見るためには、物を反射した光を取り込む必要がある。

 僕は、彼女がアホ面と言う不用意な発言を聞き逃さなかった。


 そして、僕の手にあるのは魔力を込めれば込めるほど光を強めるレインボーソード


(イメージしろ。川のように連続的に運ぶんじゃない。一気に溜めた水を放水するイメージで)


 僕の魔法はイメージではどうにもならないが、魔力の動きはイメージを元にできる。

 ほんの一瞬で良い、使い果たしたって構わない。


 急所の魔力の防御を解いてその時を待った。


「『アウグスティヌスの(ザ・アブソリュート)告白(ゼロ)!!』私の時間よ!!」


 その時、溜めた魔力をレインボーソードに全力投入


 当然、赤、青、黄、緑、紫、橙、藍と七色の光が剣の腹から放たれる。

 その結果、僕の膨大な魔力を一気に含んだ剣は直視した者にとっては突然目の前に太陽が現れたような錯覚をしただろう。


「光ってる?」


 その上、膨大な魔力消費となるためアポロでも長い時間持続させるのは不可能だ。

 だが、時間停止と言う都合上一瞬で過ぎ去るはずの光は永続的に彼女の目を攻撃した。




 ***




 そして、今に至る。


 アポロ以外は突然光ったと思ったら急に相手がのたうち回ったようにしか見えない。


「ぐあぁああぁあ!?」


 なぜか、ベスクワルさんも目に攻撃を受けていた。

 だが、そんなこと周りが気にする前にアポロは動き出していた。


「アフェ、イージス、フレム、コボルトロードを!悪魔は僕が!」

「ええ!」

「はい!」

「わかったぜ!」


 敬称すら抜けたアポロの指示にその切羽詰まった状況をすぐ察した三人はすぐ動き出した。


 一方で、アポロものたうち回る悪魔に対して用済みのレインボーソードを投擲する。


「ぎゃっ!?」


 結果、相手が魔法を発動させる前に接近しその場に組み伏せた。

 そして、相手に馬乗りになる形になった僕は全力で拳に魔力を集中させる。


「もう、魔法発動の隙は無いぞ」


 そのまま、拳を奴の口の中に突っ込み弄る。


 そして、相手の声帯を思いっきり引っこ抜いた。

 これで、もう声は出せないし、魔法を発動することはできないだろう。


「はぁぁぁぁぁ」

「僕たちの勝ちだ。悪魔」


 痛みに悶えながら、息の音を出し続ける彼女はまるで僕を悪魔として見ているようだった。



アウグスティヌスの(ザ・アブソリュート)告白(ゼロ)!!』

・能力は時間停止

・集中と発動に使用した魔力分だけ停止することが出来る。最大で1時間程度

・ただ、時間停止範囲内にいる生物が纏う魔力によって抵抗出来てしまうため、今回の場合アポロが急所に集中していた魔力によってせいぜい10秒程度しか止められなかった。

・モチーフはアウグスティヌス著者の『告白』

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