504、風の街
魔導星勧誘が難航する中、デュラン、アレン、ティオ、リディアは『風の魔導師』を仲間に誘うために『カムディア』地方に居た。
最古の五賢者の一人の名前を冠した都市『メイナーレ』が首都。現『風の魔導師』が治める地域。自然と調和した神秘的かつ洗練された街並みをしており、エルフの故郷と呼ばれる国『神都パラディス』と様子が似ている。そのためエルフの割合も多く全てが女性なので、それ目当てに来る者や吟遊詩人もまた多い。
総人口は80万人弱。種族は人が5割、エルフが3割強、他種族が2割弱。国力は地方の中で『C 評価』。特産物はエメラルド、果実、銀。
気候は安定していて、空気中に魔力が溢れており、いるだけで魔力の回復が早くなるおまけ付き。風の小精霊が自然と生まれる土地である『カムディア』は、エルフにとってとても心地の良い空間を生み出している。
愛と平和を育む大地カムディア地方は憧れの大地と呼ばれるに相応わしい。
「何故だっ!!」
『風の魔導師』の屋敷の前で、フードを深々と被った肌の浅黒い男が威圧的に叫ぶ。背後で少し背の低い男性が、フードの男を羽交い締めにする。
「ちょっ……! デュランさんっ! 落ち着いてっ!」
騒々しくしているのは剣聖デュラン=ウィド=ガドリス。羽交い締めにしてデュランの奇行を止めているのはアレン=レグナス。ティオとリディアも加わってみんなでデュランを止める。
「そうですよっ! 私たちに任せてくださいっ!」
しかし興奮するデュランの怒りは治らない。デュランの視線の先にいたのは腕を組み、偉そうにしている女性エルフとその供回り。供回りも全員がエルフであり、全員が女性。自分の身長よりも少し長めの槍を持っていて、いつでも振り回してやるという気概を感じさせた。
「……全くひどい蛮族なのね。エデン正教の名が知れるというものですよ」
「何だとっ!? 我々を愚弄するのも大概にしろっ! 第一、約束を取り付けたのに合わないとはどういう了見だ! 失礼すぎるだろうっ!!」
デュランたちが都市『メイナーレ』に到着し、謁見の約束を取り付けて欲しい旨を教会関係者にお願いした。彼らは「七元徳の方々のためならば」と快く聞き入れ、即時連絡をとって約束を取り付けた。一連の流れが早かったのはこの都市ならではの事情がある。
『風の魔導師』キース=クラウ=ドゥ―ファンは気紛れ者である。暇つぶしにどこの馬の骨ともしれないゴロツキに対しても謁見を許すことがある。容姿端麗であることから大概は女性ばかりが謁見を申し込み、多くの場合これを承認する。
『会える王』と呼び声が高く、そのあだ名通り魔導星の中では最も会える確率の高い存在である。
「何度でも言わせていただきますが、キース様のお気持ちが変わりました。それ以外に理由がないですし、キース様にはそれで十分ですのよ? カムディア地方を治める君主なのですから」
「何と無責任なっ!! 気持ちだけで予定を変えるなどそれでも君主かっ!!」
「ええ、君主よ。気持ち一つであなた方を処刑に出来るのですよ? さぁ、今すぐ引き上げないと後悔してもらうことになるけど?」
エルフたちは槍を突き出して牽制し始める。正直、剣を持っていなくてもこの程度の衛士など訳もないが、暴れにきたわけでもなければ、敵対するつもりなど毛頭ない。だがこの状況、エルフたちにとってはデュランは敵以外の何者でもない。巻き込まれる形で他3人もひっくるめて敵認定されていることだろう。
そのことに勘付いたデュランはスッと動きを止め、踵を返してスタスタと歩き去る。アレンとティオ、そしてリディアはエルフたちに一応お辞儀をして急な奇行を詫び、そそくさと退散することになった。
あまりにあっさり退いたことから何か考えがあると踏んだアレンは館から離れた裏路地にデュランを引き入れ、話を聞くことにした。
「……で、これからどうしますか? デュランさんには計画があるとお見受けしましたが……」
デュランはアレンと違い、剣聖になってからそれなりに時間が経つ。剣聖では意外にも他国への潜入調査が仕事として盛り込まれており、『ワーム』というコードで呼ばれている。当然デュランは幾度も潜入調査を実行し、他国からの情報を持ち帰っていた。今回の騒ぎは陽動の一環だったのではないかというのがアレンの見解だ。
アレン自身も騙されたと思えたデュランの演技に感心し、尊敬の念を抱く。デュランはそのアレンのキラキラとした眩い目に一瞬キョトンとした顔を見せたが、すぐにバツが悪そうに俯く。
「……すまない」
奥歯を噛みしめ、汗を流しながら謝罪する。アレンの期待に応えられない自分の不甲斐なさにガックリと肩を落とした。
「い、いや……気を落とさないで下さいっ。俺が勘違いしただけですから……そ、それじゃこれからどうするかみんなで考えましょうっ!」
アレンは慌ててフォローを入れ、ティオとリディアに向く。アレンの視線から気持ちを汲み取った2人も慌ててフォローを入れる。
「あっ……そ、そうしましょうっ! 会う方法なんてこれから考えれば良いんですよっ!」
「そそ、そうそうっ! 気紛れで謁見を断るだなんて誰にも予想出来ないことですし、正面から行くよりも別の方法で上手くいく場合もあるんですからっ!」
デュランは慰められることで自分のことがより惨めに感じた。
カムディア地方について早々、デュランは修学旅行の引率の先生の如き様子で3人を先導していた。『ワーム』で魔導大国に一度入ったことのある経験から色々と得意げに語ってしまったのだ。
『私がいるから安心してくれっ! 大船に乗ったつもりでなっ!』
グッと胸を張って出た言葉が今では虚しく自分の心を抉る。恥ずかしさもあるが、エデン正教に御膳立てされた風の魔導師との謁見を台無しにしてしまった自分が愚かで情けなく感じてしまう。
放っておいて欲しい気持ちをぐっと堪えて3人に向き直る。
「みんな。本当にすまなかった。私は曲がったことが嫌いゆえに、気が変わった程度で約束を反故にされたのが気に入らなかったのだ。少々気が動転して声を荒げてしまったが、ようやく冷静になれた。ありがとう」
デュランはようやく正気を取り戻し、スッと頭を下げようとしたが、途中でピタッと停止した。一瞬3人とも意味が分からずに疑問符が浮かんだが、デュランの視線の先を追うことで気づくことが出来た。
路地裏の奥の方で何やら怪しげな取引がなされていることに気付く。如何にもなゴロツキが何人かで集まり、金貨をチラつかせているのが目に入ったのだ。
それだけではない。そのゴロツキたちの中で明らかに雰囲気の違う人物が1人立っている。その1人だけマントを羽織り、鎧を着込んだ剣士であることが遠目からでも分かった。それが誰であるかも。
「あれは……ルグラトスっ!!」
デュランの剃り上げたツルツルの頭にビキビキッと青筋が立った。




